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IBN寮物語—入寮初日—

 大阪から東海道新幹線に乗り、東京でMaxやまびこという新幹線に乗り替えて、仙台に向かっている。初めて親元を離れることと自立した生活をすることで不安と期待が自分の中には混じっていた。IBN寮についたあとは、不安が自身の感情の全てを埋め尽くすことになるとも知らずに。
 仙台駅で八木山動物園前行きのバスに乗る。布団などの荷物は既に送っているので、旅行バックが一つあるだけの軽装である。八木山神社前で下車し、IBN寮を目指す。途中いくつかの建物を見たが「〇〇ハイツ」という名前でIBN寮では無い。
 しばらく探していると近くに小学校の廃屋のような建物がある。つまり、コンクリートの打ちっぱなしでできた四角い建物で、その外観のほとんどすべてを緑の蔦が覆っており、残った空白の部分は黒いシミがびっしりとついている。大阪でもこういった建物はあったが、それらは廃屋であった。廃屋という名前の通り、建物の中に人が住んでいることはなく、地元の中高生らが肝試しに使うような建物だった。
 IBN寮のパンフレットを詳しくみるとどうもこの廃屋がIBN寮の所在地に該当するようである。恐る恐るその廃屋に近づいていくと、その廃屋には三つの建物が連結していることに気づいた。手前にある建物には木の看板で「Say Who」寮と書いてある。いやな予感はしたが、この次の建物を見ると、木の看板が下に立てかけられており、そこに「IBN寮」という名前が書いてある。
 「ここに人が住んでいるのか?」と内心思っているが、意を決して、建物の中に入ってみた。すると、10畳ほどの玄関には30足以上のはき古された靴が無造作に置かれている。100足は入るであろう靴箱もあるのだが、どれもさび付いており、それらの靴箱にはどれも汚い靴が入っている。これらの靴を見る限り、靴を履くヒトは存在しているようである。しかし、この雑多に置かれた感じから察するに、十分に文明化された人間が住んでいるとは到底思えない。
 しかし、ここでまごついていても先へは進めない。玄関先から「すみませーん」と声を何度か出していると、パタパタとスリッパで歩いてくる音が聞こえる。寮生の登場である。


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