麻雀代走屋⑨ヘタウチ

いろいろある中でも私の最大の弱点は長時間の麻雀が苦手ということ。

今日の依頼主は塾の経営者で70すぎのおじいちゃんなのだがこの人の依頼の時は三日三晩打つということがざらにある。しかもこのおじいちゃん最初から最後までほとんど会話もせずお茶一杯で何も食べずずっと打ち続ける。

雀力は置いといたとしても私が苦手な相手である。

イーハンサンマ、レートはハコテン約90000円

その日は身体に絵が書いてある人も可能なサウナの麻雀ルームで行われた。私とKさんで始めるが途中でTさんもサウナがてらたまに交代してくれる。TさんもKさんもそうだが麻雀ルームにいる人の大半が各々の作品を身体に彫り込んである。異様な光景だった。

打ち始めて30時間くらいだっただろうか。序盤こそ勝ってはいたもののおじいちゃんの遅さと眠気で精細を欠き始めていた。南1局で東をポンして役無しでロンをかけチョンボしてしまった。その半荘はそのせいもあって派手に飛び終了。

Tさんから

「代わるでサウナ入ってこい。」

と言われ交代した。正直どこ観ても作品ばかり目に入り、怖いので風呂だけスッと入って仮眠室で少し寝ることにした。

ハッと気づいてマナーにしていた携帯を見ると5時間経っていた。着信8件。終わったと思った。

覚悟を決めて麻雀ルームに戻るとTさんから当然の制裁。人がたくさん居たため無言で1発いいやつを顔にもらった。キックボクシングをやっているTさんの右ストレートをクリーンヒットしたからか崩れ落ち一瞬の記憶がなくなった。何秒?何分?経っただろうか。気づくと蹴り起こされていた。

脳みそが揺れていたからか衝撃が強かったからかはわからないがフラフラしながら卓に着席した。

プルプルと震えながら麻雀を始めるとまともに牌を掴めず視界はグニャグニャしていてそのまままた気を失ってしまった。どれくらい経っただろうか。気づいた時にはKさんの車に転がっていた。間も無くして病院に着き検診を受け漫画のような言葉を口にした。

「階段でつまずいて落ちました。」

後日談だがこの日この一件のため場はお開きになった。私が寝ている間おじいちゃんの爆運により収支はマイナスになっていた。3割負担だと思ったがTさんから今日の負け額はお前が全部払えと言われ10割負担した。

通称ヘタウチというやつ。下手を打つと制裁は重たい。

数ヶ月後発覚したのだが実はこの時鼻が折れていた。今でも私の鼻は曲がったままくっついている。

代走屋として1番のヘタウチだった。

後日おじいちゃんに菓子折りを持って謝罪に行った。

辛い仕事だなと感じた。ただ不思議とやめたいとは思わなかった。逃げることはしたくない。もう次の仕事に向けてのことを考えていた。

いい1発だったなー

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