麻雀代走屋⑥裏プロの教え

「お前は勝ち負けにこだわりすぎて相手への敬意が足りない。」

「負けた時こそ勝った相手を褒めて気持ちよく負けなさい。」

「依頼主や相手がいないと成り立たないのだから麻雀以外ではもっと気を遣え。」

常日頃からYさんに言われ続けていた言葉だった。

今日の依頼主であり対戦相手はTさんがたまに行くフィリピンパブの経営者とそこのNo.1嬢。最近麻雀を覚えたらしくどこかのお店に行く自信はないから相手をしてくれないかとのことだった。

ルールはサンマイーハン赤2枚ずつでレートはハコテン約12000円。

依頼費は無しでなんなら打ちながら麻雀を教えてくれとまで言われていた。Tさんの道楽なのだろうか。正直やりたくなかった。

卓についてスタートするととにかく遅い。サンマの1半荘は飛びが発生せず30分もやると長く感じるがこの時は平均45分ほどかかった。蓋を開けてみると覚えていない手役もあった。No.1嬢に至っては手牌に隙間を作り3個、2個、3個のようにメンツやターツを離して打っている。

かなりの苦痛だった。帰りたかった。しかしYさんの教えを思い出していた。当然そのレベルの方達には負けることはなかった。自分の仕事と割り切り容赦なく点棒を集めつづけた。

私の勝ち額は100000円くらいになっただろうか。負けてるはずの2人はそれでもとても楽しそうだった。少し羨ましさを覚えた。

結果と強さを求め続けてきた私は今これほど笑って楽しそうに麻雀を打てるだろうか?答えはノーだった。しかし2人を見ていたら穏やかな気持ちになり私も麻雀を覚えたばかりの頃の感覚を少しだけ思い出した。

取り憑かれたように、吸い込まれるように、狂ったようにハマり、毎日麻雀をやりたくて仕方なかったあの記憶。中学生の頃毎週末友人の家に集まり徹夜で打っていた記憶。

なんだかこの2人と打っていていろいろと思い出すことができた。

今日は私も麻雀を楽しもうと思った。

「オぉ〜。チョット待って。リーチ!」

と東発親番のお嬢様が牌を整えてからすごい嬉しそうな顔でいきなりダブルリーチ。南家の経営者が1発目に白を切ると

「ロンっっ」

と食い気味に開けた手牌は国士無双だった。お嬢様は大はしゃぎ。携帯で写真まで撮っていた。経営者も自分が放銃したのにも関わらず一緒になって喜び見ていて心地よかった。私も一緒になって褒めたたえた。

「私ダブリー1発国士無双なんてアガったことないですよ〜すごいですね〜」

と言うと

「ホントに〜?スゴイ?アタシもはじめて。」

と、おそらく2度とアガれない珍しさだと気づいてないだろうがとても満足げだった。

麻雀が終わり精算をするとお嬢様と経営者がまた誘うから遊んでねと言ってきた。この言葉を言ってもらえることがYさんの言う裏プロの姿なのかもしれないと思った。その言葉に私ももちろんOKの返事をして帰った。

後日休みの日私はそのフィリピンパブへ1人で行きNo.1のお嬢様を指名した。するとびっくりしながらも席につきすぐに麻雀の話が始まった。

「マージャンやりたいよ〜。いつやる??」

と。経営者も私を見つけて席に来ると3人で麻雀の話をした。18歳のクソガキは背伸びしてこの前勝った時の給料と同額程のシャンパンを入れお嬢様の顔を立ててひとときの時間を楽しんだ。

Yさんの言っていたことが少しだけ分かった気がした。

つづく

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