麻雀代走屋⑤裏プロの生き様

「お世話になりました。ご恩は生涯忘れません。子供が産まれたらまたごあいさつに来ます。」

Yさんは28歳。付き合っていた彼女が妊娠したことをきっかけに結婚を決め、代走屋を引退することになった。彼女だけはYさんのことを全部把握していたが親関係と子供のことを考えてYさんの出した答えはこの業界から足を洗い普通と言われる仕事に就くことだった。

今日はYさんが彼女にこれが最後と約束して来た代走屋引退試合だった。

依頼主は車屋の社長でこの人はYさんのことをすごく可愛がっていた人だった。仕事以外でもよく飲みに連れて行ったりYさんが稼業の息苦しさの相談をしてる間柄だった。

今日の相手は依頼主の車屋関係の友人達だった。依頼主は自分でも麻雀を打つ。他の相手の時は依頼をしてくるが友人達と打つその日は実は代走屋を必要としないはずだった。でもYさんが引退するということでわざわざYさんに依頼をして引退試合を提供してくれたのだ。

ルールはイーハンサンマ赤2枚ずつ30000点持ち。レートはハコテン180000円ほど。それとは別でYさんがトップを取った半荘は結婚祝儀として依頼主から30000円が払われる。

「お前が生きてきた道は結果を求められたんだろう?なら結婚祝儀も自分で勝ち取れ。最後まで務め上げろ。」

粋な計らいの依頼主。かっこよすぎるだろ。

その日のYさんは初めの方こそ和気あいあいとやっていたが最後ということもあってか次第に真剣になり麻雀を打つ表情や打牌の仕方など鬼気迫るものがあった。お世話になったTさんや車屋の社長に自分の最後の勇姿をしっかり見せ、Yさんなりに誠意を示したかったのだろう。

Yさんの麻雀は研ぎ澄まされていた。私の思い描く強い麻雀だった。引退試合のYさんはとても強かった。ミスもなかった。運も味方につけ大勝ちしていて結婚祝儀も弾んでいた。

終わる時間を決めず始めたため、Yさんが満足したら終わりにすると決まった。

オーラス
Yさん親6000点持ち
南家51000点持ち
西家33000点持ち

Yさんは8種10牌のすごく悪い配牌だった。Yさんも観念したように七対子と国士を目指す手組みをしていた。わたしは後ろで観ていてさすがにこれはきついなと思っているとなんと1.9牌が重なりアンコになり、ポンをしチンロウトウのイーシャンテンまで来た。

1p1p9p9p9p1s東   1mポン9mポン


すると9巡目南家がリーチ。Yさんは1発目に危険牌の赤5pを持ってきてしまった。とりあえず持っている安牌の東を切った。そのまま両者ツモ切りで2巡後西家から追っかけリーチが入った。その2巡後の13巡目Yさんは1sを重ねチンロウトウのテンパイをした。ラス目でありテンパイ連チャンであり降りることはない。赤5pは西家の中筋、南家には無筋。

Yさんは強打気味に赤5pを河に叩きつけた。

「ロン」
「ロン」

南家の手牌リーチドラ3のリャンウーピン待ち
西家の手牌リーチ七対子赤赤ドラドラ裏裏

8000点と16000点のダブロンだった。Yさんは大きなハコテンに沈んだ。その半荘の精算を終えるとYさんが

「これ以上の半荘はありません。いい麻雀人生でした。ここで終了でお願いします。ありがとうございました。」

と言った。

代走屋最後の手牌を開けて全員に見せ、赤5pの放銃に至るまでの経緯などを解説していた。

普段麻雀において真摯に向き合ってるYさんは言い訳や手牌の解説などはしないし滑ったリーチの裏ドラを見たり山をほじったりは絶対しない。自分が代走屋や裏プロと呼ばれるのにふさわしい打ち手であるべきという考えの持ち主だった。プライドも高く後輩の私にも依頼主に対する態度のあり方や対戦相手がまた打ってくれるように敬意を払うべき、という稼業を続けていくための指導を厳しく教えられた。今思うとYさんがいたから依頼主が絶えなかったのかもしれない。

この時ばかりは引退試合を終えて緊張の糸が切れたのか笑いながらオーラスのことを談笑していた。

「この場でこの手牌で赤5pをつまんで見事にダブロン打つなんてこれで心置きなく引退できますよ〜。麻雀牌にもお疲れさんと言われたみたいです笑。」

なんて言っていた。結果はYさんの大勝ちだった。麻雀を終え全員で食事とお酒を楽しんだ。

めちゃくちゃかっこいい生き様だった。極道とは道を極めると書くが代走屋としての道を極めたと言っていい生き様だった。

私は代走屋としてもう少しでYさんに追いつけるんじゃないかと思っていたが遥かに遠かった。麻雀の強さと麻雀への向き合い方、代走屋たる考え方や大敗しても常に相手に敬意を払う人間力。それが人望にも繋がっていた。私にとって背中で見せてくれるいいお手本だったんだなと感じ、全てがまだまだ遠かったと思い知らされた。

これが本当の裏プロなんだろう。この記事を書いていて私も改めてYさんに敬意を払う。

私が裏プロと認めてるのはあなただけです。

代走屋Y氏
生涯収支約+2億2000万


つづく

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