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匂いは予想以上に「物質」として動物に影響している | 【調香師の手帖】中村祥二

目に見えない「香り物質」にこれほど気を配ったことがあっただろうか。

興味のあるパートだけつまんで読んだが、普段全く意識を向けない空気というものにアンテナを張りたいと思った本だった。

特に体臭のパートが個人的にはかなり好きで、最も印象的だった箇所は、「一日のうちの時間や、その時のコンディション、体調、生理周期によって体臭は分かりやすく変化する」というところ。

ヒトの嗅覚は、文明の発達とともにあまり使われなくなっていったらしく(視覚に頼りすぎて、嗅覚の出るところが減った)、嗅覚が良い人でも、訓練なしにそこまで香りを嗅ぎ分けられるわけではないという。
それはつまり、我々は「匂い」というものに注意を向けることが非常に少ないのであって、「匂い」を情報源にすることも稀な現代である。食べ物の状態を匂いを嗅いで判断する同世代も少なかろう。

犬の嗅覚は大変優れているというのは有名な話だ。我々人間にはあまり想像のつかない話だが、彼らはとにかく嗅ぎ分けられるのだ。警察犬や麻薬探知犬として活躍するように、人間には感じ取れない「匂い」を嗅ぎ分けて、特定することができる。
そんな話はだいぶ前に聞いたことがあって、当時は「ふーん」くらいにしか思わなかったし、なぜそうなのかを知ろう、つまり、「その細かな匂いに違いが何に由来しているのか」を知ろうとはしてこなかった。
ということに、この本を読んで気がついた。

細かい用語は省略するが、化学物質ひとつひとつが、香りのもととなっている。この香りはこの物質、というのが明確にあるらしい。体臭はノネナール、とか。
かつ、それは「物質」なので、ただ香りとして感じられるだけではなく、見えないところで生理作用として人間に影響を及ぼしている、というのが好きなところだ。
男女でも、それを生物学的な区別とした場合に、やはり体の作りも異なるので、出る化学物質も異なるらしい。貨物輸送のフライトは旅客輸送より疲労度が高いが、それはCA(=多くは女性)がいないからだ、という研究結果が出たらしい。面白いね。

最後に、経験に基づく学びを残すと、北海道でホースマンシップを勉強した時に、「馬が人を見る時、声以外の部分も感じとっている。いくら優しい声を出していても、内心怒っていたら馬はそれに気づく。」という話を聞いた。その時は「気で馬をコントロールするんだ」と言われて、なるほどぉと思っていたが、今は、人の感情によって変わる匂い=化学物質を馬も嗅ぎ分けられるのではないかと思い始めている。まあ、コミュニケーションにおいては気の場合もありそうだけど。
でも多分、人が悲しんでる時に馬は寄り添ってくれる、みたいな話は間違いなく化学物質にも関係してるよね。

そんなことを思った日曜日でした。
引用されている文献も読んでみようと思う。

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