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DAC2023 アウトローたちの前日譚

 みなさまご無沙汰しております。フリーライターの周防蘇芳です。
 去る11/3~4の二日間、国立オリンピック記念青少年総合センターにて開催された、DAC2023(Dungeons & Dragons Annual Convention 2023)に、DM(ダンジョン・マスター=「D&D」におけるゲームマスターと同義)の一人として参加してきました。今回は、参加してきたDAC2023の拙卓の様子を中心にレポートしたいと思います。
 プロのシナリオライターが、どういったプロセスでテーブルトークRPGのシナリオを思い付き、書き上げるのか、またセッション当日をどのように迎えたのか、といった点もお伝えできればと思います。

※本記事は全文無料です。
※が、最後に「投げ銭(¥100)」を設定してみました。


DACとは?

 DACとは、『ダンジョンズ&ドラゴンズ(以下『D&D』)』の各版(2023年現在、主に遊ばれている物は現行の5版。他4版、過去には3.5版も)や、それに類するシステム(日本語展開もした『パスファインダーRPG』『フィフスエディションRPG』『サンディ・ピータセンの暗黒神話体系 クトゥルフの呼び声TRPG』等も対象)を遊ぶ、大規模コンベンションです。関東で2000年代より開催されており、各地方都市でも定期的に開催され、交流の広がりを見せています。
 私自身は愛知出身なので、過去「DAC愛知」や、遠征して「DAC大阪」にも参加したことがありました。本家「DAC(東京)」への参加は3回目となります。

 コロナ禍以後、やむを得ず開催自体が中止となったり、感染症対策の問題から昨年は規模を縮小して一日のみの開催でしたが、今回のDAC2023は、二日間に渡り、両日開催卓、ミニチュアペイント等の企画卓を含め、過去最大規模となる全27卓が出揃ったそうです。

『映画ダンドラ』が面白かったし

 私自身、DACへ参加するのは久しぶりでした。『D&D』以外にも遊びたいシステムが沢山あったり、感染症の不安もあって、オンライン・セッションの機会が大きく増えたのも理由です。
『D&D』と言えば、やはりマップやテレイン(樹や岩などのオブジェクト)、ミニチュア等をふんだんに使ったオフラインならではの醍醐味を楽しみたいのですが、やはり持ち運びやセッティング等が大変。その点、オンラインツールで、自宅に居ながらマップやミニチュアを、データで一括管理できる手軽さを知ってしまうと、わざわざ手間と時間が掛かり、肉体的負担も大きいオフラインセッションの回数は、自然と減っていました。
 久々にDACへ行きたいと思い立ったのは、2023年春に日本でも公開された映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り(以下『映画ダンドラ』)』が、とても面白かったからです。

どうやってルールに落とし込もう?

『映画ダンドラ』を観て、最初の感想は「メチャ面白かった! でもエドガン(主人公)たちが使ってるルールは、『D&D』よりむしろ『TORG(トーグ)』なんじゃね?」です。
 私が愛して止まない『トーグ』とは、様々な異世界からやってきた侵略者ハイロードたちと、可能性の力ポシビリティに覚醒したストームナイトたちとの戦いを描く、ヒーロー活劇TRPGです。2023年現在日本語版の展開はほぼ停滞していますが、その最新版が海外で絶賛展開中の『トーグ エタニティ』は、私一推しの神ゲームです。

●日本語版『トーグ エタニティ』販売サイト(公式サイトなんて無い)
http://www.shinkigensha.co.jp/book/978-4-7753-1928-4/

●Ulisses(ユリシーズ社)TORG ETERNITY Website
https://ulisses-us.com/games/torgeternity/

 なぜそう思ったかと言えば、『映画ダンドラ』では、真正面からぶつかってヒット・ポイントを削り合う『D&D』らしい戦闘もあるにはありますが、主人公たち(特に吟遊詩人のエドガン)は、どちらかと言えば様々な知略や機転で困難を打開しています。相手を〈挑発〉〈威嚇〉したり、ロープを引っかけて敵を丸め込む〈トリック〉等、「映画のような戦い方」に特化したシステムこそ、『トーグ』の特徴なのです。

シネマカードを創ってみた

『映画ダンドラ』みたいなセッションをやりたいけど、『D&D』ではなく『トーグ』で再現しても本末転倒だなあと頭を悩ませ、専用カードであるディスティニーカード(旧版ではドラマカードという呼称)を、『D&D』のインスピレーション(判定やセーヴィング・スローに、有利=d20を2個振って、高い出目を採用すること)に流用するアイデアを思いつきます。
『トーグ』のディスティニーカードは、プレイヤーのダイスの振り足し効果や、能力値を一時的に上げるといった効果をまとめた物で、戦闘中に相手を〈威嚇〉〈トリック〉〈挑発〉すると、手札として増やすことができます。

シネマカード(※説明用)

 画像は実際に作成したシネマカードの一例です。基本的には「●●●をすればカードを裏返して、インスピレーションにする」と書いてあります。「1d20の判定時に、1の目を出した」「誰かの傷を治した」「〈知覚〉判定に失敗した」「ジョークや駄洒落を言った」といった、セッション中に起こりえるシチュエーションを条件にして、カードを裏返せば以後それを通常のインスピレーションとは別にストックしておくことができます(プレイヤーキャラクターの共有リソースなので、カード交換も可)。つまり、プレイヤーからの自己申告制でインスピレーションを稼いでもらい、ジャブジャブ使ってもらうのがシネマカードの目的です。DMからの配布忘れや、感染症の軽減にもなるなど、実際に使ってみると良いことずくめでした。
 またカードには、映画の一場面を思い出してもらったり、ロールプレイのきっかけになれば良いなと思い、『映画ダンドラ』の台詞(日本語吹き替え版)を引用してみました(画像の②)。
 シネマカードはとても好評で、映画を見返してくれた参加プレイヤーは「これはサイモンの台詞だ」「このカードはホルガが持っててくれ」と交換しはじめて(あくまでフレーバーテキストなので、そんな必要は無いんですが)、とても嬉しかったですね。

シナリオは地図を見ながら考える

『映画ダンドラ』のようなギミック(シネマカード)のアイデアを考えつつ、シナリオも作っていました。舞台はネヴァーウィンターという、『D&D』4版時代から何度か公式シナリオでも遊んだり、オリジナルのシナリオも書いたことがある見知った土地でした。

「ソード・コースト冒険者ガイド(左)」と、4版の「ネヴァーウィンター・キャンペーン・セッティング(右)」と、付属の地図(下)

 映画に出てきた要素の中でも、ハイサンゲーム(主人公エドガンたちが挑戦した、モンスターvs丸腰冒険者たちの賭けゲーム)の設定は、何とかしてシナリオに採り入れたいと考えてました。ハイサンゲームは映画独自の設定なので、地図上の何処へ闘技場を配置するかも悩みの種です。
『映画ダンドラ』のDVDを見返したり、映画を考察するサイトで情報を集めつつ、4版のサプリメント『ネヴァーウィンター・キャンペーン・セッティング』を引っ張り出してきました。街の詳細なマップポスターも付属していて、何度も世話になった追加データ&設定集です。ふと気になり、「現在(5版)のネヴァーウィンターはどうなってるの?」と、買ったまま積んでいた『ソード・コースト冒険者ガイド』と見比べます。すると、二つの地図に特徴的な変化があったことに気付きました。
 4版の頃は、多数のモンスターが湧き出していた大裂溝という巨大なクレバスが、現行の5版では「強力な魔法によって封印された」と書かれていたのです(『ソード・コースト冒険者ガイド』P50参照)。
 4版の頃は、この大裂溝が導入を作りやすい強力なシナリオフックとして機能していました。5版では、どういうわけか魔法で封じられてしまいます(よっぽど高レベルなウィザードなんでしょうが、誰なんでしょうね?)。つまり、以前のような「街中に湧き出るモンスター退治」という導入は、ちょっとムリがある。
 ですが、同時に「(大裂溝の埋め立て地跡には)無人の空き地が大量にあり、また廃墟から回収した石材も街じゅうに山と積み上がっている」という記述もあります。なるほどと頷きつつ、それらの要素を拾い集め、頭の中で整理し、以下のようなプロットを組み立ててみます。

……埋め立て地跡に、余った石材で闘技場が建設され、仕事にあぶれた冒険者たちが切り結ぶ試合を見せはじめた。次第にそれがエスカレートしていき、モンスターを投入した残酷な見世物、ハイサンゲームが誕生したのだった。

4版にはあった大裂溝(THE CHASM)。5版では埋め立て地に。

『映画ダンドラ』では、ラストシーンに少しだけ登場したダガルト・ネヴァレンバー卿(ネヴァーウィンターの領主で、れっきとした公式NPC)ですが、彼は清廉潔白な聖人君子ではないものの、清濁併せ呑んできた苦労人だと私は解釈しています。
 ネヴァーウィンターを活気づけていたハイサンゲームを領主が廃止したのは、何かしら過去に事件なり理由があったのだろうと考え、そこからシナリオの首魁=大ボスの詳細が形作られていきました。そうなると、後は物語の肉付けだけです。『映画ダンドラ』に登場したおなじみのモンスターたちを配置しつつ、シナリオを書き上げていきました。核心部については、後日シナリオを別な場所で発表する予定なので、ここでは控えさせていただきます。
 二次創作としてTRPGのシナリオを書く時は、なるべく好きな要素や原作として抑えておきたい場面を想定しながら組み立てていきます。もちろん、元ネタを知らなくとも楽しめるように、元ネタを知っている人にはニヤリと笑ってもらえるようなサジ加減も重要です。
 何にせよ、地図を眺めながらシナリオを組み立てるというのは、実に楽しく、実りのある作業でした。

本番当日

 9月にテストプレイを兼ねて、関東のくれこんさん主催による『D&Dオンリーコンベンション』に参加。『映画ダンドラ』を観ていない人や、『D&D』を遊ぶのも初めてという人でも、充分に楽しんでもらえたので(勿論『映画ダンドラ』の核心部ネタバレも無し)、シナリオの流れは問題無いだろうと手応えを感じました。ほぼぶっつけ本番だったんですが、その時も抱腹絶倒の神展開で、忘れがたい良セッションでした。

●くれこん主催 D&Dオンリーコンベンション(2023年9月開催)
https://twipla.jp/events/567665

 40枚用意したシネマカードが、5人プレイヤーの間で一回転して足らないほどだったので60枚に増やし、シナリオの細部や、モンスターの脅威度を調整しつつ、DAC2023本番当日を迎えました。
 DACでは、あらかじめDMのシナリオ概要を公開し、キャラクターの事前作成や、プレイヤー同士の打ち合わせ等を推奨しています。今回はDiscord上による打ち合わせで、エドガン、ホルガ、サイモン、ドリック、ゼンク、5人(予備のフォージも含めれば6人)の原作キャラクターたちをこちらで事前作成し、プレイヤーさんには自分があらかじめ選んだキャラクターを当日遊ぶだけで、手ぶらでも参加可能という状態にしておきました。
 会場である国立オリンピック記念青少年総合センターへ乗り込むと、エドガンとドリックのプレイヤーさんが、それぞれ自分のキャラクターにコスプレして参加してくれました。長いことコンベンションでDM(やGM)をしてきましたが、こんなことは初めてです。
 他にも、プレイヤーさんたちとこんなやりとりがありました(※便宜上、担当したキャラクター名で。録音したわけでもないので、当時の状況を思い出したり、若干の脚色がありますのでご容赦を)。

サイモン「(『映画ダンドラ』の)Blu-rayを買ったけど、4K対応のヤツだったから、まだ特典映像観てないんだよねー」
DM「あー。わかります。付属DVDには本編だけで特典ないですしね」
ドリック「よろしくお願いします(コスプレで登場)」
エドガン「お願いします!(ギターも持ってきた)」
DM「(どういうこと……?)」
ゼンク「ゼンクの台詞を、全部メモしてきた(メモ帖にびっしり)」
DM「ええっ!?」
エドガン「台詞なら、俺はここに入ってる(頭を指さす)」
DM「ええーっ!?」
ホルガ「ねえ。このシネマカードってさ、まるで『トーグ』のドラマカードだよね?」
DM「…………っ!?」

 軽い自己紹介タイムの後(あらかじめDiscord上でもしてますが、お互い初顔合わせでもあるので、これは重要な儀式です)、いざセッションスタート。配られた4枚のシネマカードを見ながら、書かれた台詞にクスリと笑ったり、前述のようなカードを交換する場面があったり、こちらのやりたいことはすぐに理解してもらえたようです。

最初の遭遇。ゾンビの亜種と、赤い布を身につけた狂信者たち

 物語の導入部も、最初の戦闘遭遇も難なくクリア。昼食休憩を挟むと、プレイヤーさんたちのロールプレイに拍車が掛かったように感じられました。映画の台詞を引用した、軽妙なロールプレイが応酬されたり、DMが用意したオマージュネタに、ことごとく応じてくれたりもしました。例えばこんな場面が……。

DM「キミたちの前には、元冒険者と思しき死体が4体並べられてます」
サイモン「(ピンと来て)死者のトークンを起動しよう」
エドガン「よし、サイモンはじめてくれ」
サイモン「ペルラモン・ティルカディス。……これで死体に5回まで質問ができるよ」
DM「(呪文覚えてる!?)ドワーフ戦士がムクっと起き上がり『ディスプレイサー・ビーストめぇ! ……アレ、ここはどこだ?』と言ってます」
エドガン「あんたは、ハイサンゲームで死んだんだな?」
DM「ハァイ」
エドガン「しまった! 今のも質問にカウントするのか!?」
DM「(笑いを堪えつつ)ハァイ」
サイモン「(笑いながら)なんで疑問形にしちゃうかな?」

 仕込みでも何でも無く、映画の1シーンがそのまま再現されて、テーブルに着席した全員で爆笑しました。シナリオを書きながら、そうなったら良いなとは思ってましたが、本当にスピーク・ウィズ・デッドの5回までの質問が、全部無駄遣いされたのです(なお死体が4体あるので、残る15回の質問で情報は得られるようにしてあります)。
 他にも戦闘中での一場面、強敵モンスターから挟み撃ちにされたホルガが大ピンチに。狭い桟橋の上なので逃げ場がありません。後ろに控えていたドリックが、悩んだ末にジャイアント・スパイダーに変化(自然の化身の能力)すると宣言。

桟橋の上のホルガ、目の前にフックホラーが立ち塞がり、足元にはゼラチネスキューブが迫る!

DM「なるほど。クモなので壁や橋の裏側なども問題無く移動可能ですね」
ドリック「(ルールブックを見ながら)あと糸を吐けるんだよね?」
DM「もちろんです。ホルガの前後、どちらかのモンスターに糸を吐けば、挟み撃ちを打破できるかも(これは面白い展開!)」
ドリック「じゃなくて、ホルガに糸を吐いてぐるぐる巻きにして、ホルガを抱えてすり抜けるってのはどう?」
ドリック以外「そ、その手があったかー!?」
DM「おおっ!? ルールには無いですが、ホルガは無抵抗でしょうし、【筋力】判定に成功すれば、彼女を抱えたまま運べたことにしましょうか」
ホルガ「あんた最高だよ! ドリック、キスしていい?」
ドリック「きしゃー(ジャイアント・スパイダーに変身中)」
ゼンク「これで危機は脱したようだ(垂直の壁を自力で登りつつ)」
エドガン「(ゼンクに手を貸し)あんたでも、同じことをするだろう?」
ゼンク「(映画のシーンでは立場が逆だが、ニヤリと笑い)確かにな」

 実際にこんなようなやりとりが幾つもありました。みんなして『映画ダンドラ』の一場面を思い出しながら、笑いの絶えない会話と遭遇を楽しみ、IF(もしも)の物語が紡がれていきました。自画自賛と言われるかも知れませんが、これは掛け値なく最高に楽しいセッションでした。

前日譚が終わって……

 最後の激戦も終えて、無事に全員が生還。閉会式の一時間前には終了し、後片付けをしながら、みんなで雑談も楽しみました。
 ありがたいことに、5人のプレイヤーさん全員が「すごく楽しかった!」とおっしゃってくださいました。
 でも、一番楽しかったのは、ダンジョン・マスターとして、5人のプレイヤーたちが最高のセッションに興じる様子を特等席で眺めていた私自身かも知れません。今年のDACに参加して、本当に良かったです。また別な機会にも遊びましょうと、5人のプレイヤーさんたちと約束して、その日は無事終わりました。

余談

 ギターを持ち込んだエドガンのプレイヤーさんに頼み、せっかくなので閉会式に一曲弾いてもらうことにしました(何でも劇中歌「金も無い、運も無~い♪」の曲を耳コピして、たくさんギターの練習もなさったそうです)。楽器を鳴らすので、もちろんイベントスタッフさんには許可を頂いてあります。
 閉会式での各卓のダンジョン・マスターによる感想および報告は、1人につき持ち時間20秒ほど。一曲全部を弾くのは無理なので、エドガンが同じフレーズをリフレイン(ネヴァー城に忍び込む際、サイモンが作り出して集中に失敗した幻影のアレ)をして、最後は幕引きとオチをつけさせてもらいました。
 メチャクチャウケは取れたのですが、他のダンジョン・マスターさんにはちょっぴり申しわけなかったかなとは思っています。

●シネマカード(見世物小屋 電子書店 Booth)
 セッションで使用したシネマカードが好評で、プレイヤーさんから「自分がダンジョン・マスターの時に使ってみたい」とリクエストもありました。もちろん快く承諾しました。
 現在、BoothにてPDFファイルを公開中です。宜しければ、みなさんもご活用くださいませ。

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