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圓朝モノの魅力

8月11日は1900年に亡くなった三遊亭圓朝師の命日でした。来年は120回遠忌ということになりますが、いまだ、三遊亭圓朝の魅力は褪せることなく…と、いうのも、御作をたくさんに遺されているからです。

すっかり圓朝師の手から離れ、落語家から落語家へと「落語」として定着した圓朝作品もありますが、口演するにあたり、圓朝全集などの速記を底本にすることもあります。

昨年、今年と口演した『真景累ヶ淵』も、今年初演の『牡丹灯籠』も、膝つき合わせて稽古をつけていただいたものですが、やはり、底本になっているのは、圓朝全集の速記です。

きょうは三遊亭圓朝と圓朝モノの魅力について、すこしおはなししてみます。

三遊亭 圓朝

さんゆうてい‐えんちょう【三遊亭円朝】
初世。落語家。本名出淵いずぶち次郎吉。江戸生まれ。二世三遊亭円生の門弟。一七歳で小円太から円朝と改名。二一歳のとき「真景累ケ淵」を創作。以後道具立芝居噺、怪談噺、人情噺を自作自演して人気を得る。のち、扇一本の素噺すばなしに転じた。「怪談牡丹灯籠」 「塩原多助一代記」の速記本を出版し、明治の言文一致文体に大きな影響を与えた。中年以後は禅に傾倒し、話術を高め無舌の号を得た。「円朝全集」がある。天保一〇~明治三三年(一八三九−一九〇〇) 日本国語大辞典

圓朝が創作をはじめたきっかけは、師である二代目三遊亭圓生が、圓朝のその巧みな藝を妬み、先回りして得意ネタを口演、封じてしまうなどの妨げがあり、それを避けるために創作をはじめたとされています。

ですが、圓朝自体の、藝人である父親、僧侶である兄、寺での修行や、国芳の元での絵の修行、それらの体験を創作の噺に、あますことなく反映させたのではないでしょうか。

わたしは圓朝研究をしているわけではありませんが、きっかけはきっかけとして、きっかけでしかない。大圓朝の御作に触れるとそう思います。つまりは、師の妨げがなくとも、その作品は早晩、創作されたのではないかと思わせるものばかりです。

読物としての魅力

上記にあるような噺のほか、多種様々な噺が圓朝作だとされています。明治以降に落語に新たな息吹を吹き込んだ「落語中興の祖」という一面と、流行作家としての一面があります。

読物としての圓朝モノの魅力は、一本大きな流れがあり、その流れを中心とした展開の妙だと思います。

真景累ヶ淵では、皆川宗悦と深見新左衛門との因縁が、これでもか、これでもか…と、最後まで宗悦を殺した深見新左衛門の子、新吉を苦しめることになります。

一方、牡丹灯籠は、敵討ちの物語・孝助伝とお露新三郎の悲恋の物語が交互に語られる、入れ子造りになって、最後はまたひとつの噺として結びつきます。

読み物としての圓朝モノ、圓朝作品の魅力は読みきれない展開と、一見別々の物語が、いつしか結びつくところが、そのひとつです。

落語としての魅力

落語として圓朝モノを手がけるときに、対極にあるふたつの魅力があると考えます。ひとつは、原作通りの言葉の響きです。

幕末から明治期にかけての、喋り言葉の響きの良さ、これは聴き手側にもあると思いますし、手元に本があるなら、声に出して読んでみると、その心地よさがわかると思います。意味でなく、音の良さも落語の魅力です。

さて、もうひとつ対極にあるというのは、編集と演出の楽しさです。

「幕末から明治期にかけての、喋り言葉の響きの良さ」と言いましたが、逆にそれは、現代から見ると少し違和感を覚えることがあります。そういったところや、重複しているところの、どの台詞を残し、どの言葉を変えて、どこを削るのか、より、読みものでなく落語らしくするには、どう演じたらいいのか。

それを考え、実演するのは、圓朝モノ…に限らず、落語の魅力です。

読書好きのジレンマ

ただ、そこには本好き、読書好き、そして書くことが好きなわたしのジレンマもあります。

というのも、作者が心血込めて書いた一行を、頭を捻って置いた「て」「に」「を」「は」を、そうそう変えていいのだろうか、ということです。

落語として考えれば、この台詞を足しました、とか、こういった解釈にしました、とか、自分の落語になるような、それは一見すると、変化がないように、見え、聴こえるかもしれませんが、そういった作業を経て、高座にかけていますが、本として考えると、それを軽々にしていいのだろうか、まぁ、軽々にはしちゃあいないのですが、そんなことを考えます。

今夏、圓朝作品の怪談噺は、もう口演予定はありませんが、怪談でなくとも、落語には多々大圓朝が遺されたものが、まだまだ息づいています。

今回は、圓朝モノ、特に本と怪談噺を中心にしたその魅力について、おはなししてみました。


書くことは、落語を演るのと同じように好きです。 高座ではおなししないようなおはなしを、したいとおもいます。もし、よろしければ、よろしくお願いします。 2000円以上サポートいただいた方には、ささやかながら、手ぬぐいをお礼にお送りいたします。ご住所を教えていただければと思います。