働く人の悩み多きふくらはぎは放っておけない

ふくらはぎの悩みは患者さんから多く相談されるもののひとつですが、意外と明確に答えにくいところがあります。

骨や関節の話で済まない生理的なしくみの理解が必要になるところでもあるからです。

普段、動かない生活をしている現代人にとってはふくらはぎの悩みってなかなか解消しにくいものだと思います。

その理由から対処法を考えてみようと思います。

ふくらはぎの悩み

ふくらはぎの悩みは割と多くて
*むくみ
*つる
*冷える
*太い
*疲れやすい
こんな相談が多いかもしれません。

これらが起こりやすいのは
構造的には
身体の最下部にある
足首を動かすことが少ない
筋力が弱りやすい

これと同時に
血行不良や体脂肪の蓄積など
生理的な問題も加味されます。

日常生活では座りっぱなしなどで負荷が減り、足首が硬くなったりすることで、血行が悪くなり、クーラーで冷えたり、肥満のため体脂肪が増加したり、生活習慣による影響が大きいところでもあります。

ふくらはぎのしくみ(構造的機能)

ふくらはぎは漢字で書くと脹脛

前側は脛であり、その裏側に3つの大きな筋肉があります。

それを下腿三頭筋と言い
*ヒラメ筋
*腓腹筋外側頭
*腓腹筋内側頭
で構成されます。

ヒラメ筋

起始:腓骨頭後面 腓骨体上部1/3 ヒラメ筋線 脛骨内側縁1/3 ヒラメ筋腱弓

停止:踵骨隆起

作用:距腿関節底屈 膝関節屈曲

支配神経:脛骨神経S1-S2

腓腹筋

起始:内側頭 大腿骨内側上顆 膝関節包後面
外側頭 大腿骨外側上顆

停止:踵骨隆起

作用:距腿関節底屈 膝関節屈曲 わずかな距骨下関節内反

支配神経:脛骨神経S1-S2



筋膜の連結はアナトミートレインでは
SBLに属し、脊柱起立筋や足底腱膜にも繋がります。

下腿三頭筋はそれぞれ作用に特徴があります。

ヒラメ筋は単関節筋。

遅筋線維が豊富で姿勢維持に欠かせない筋です。

腓腹筋外側頭と腓腹筋内側頭は膝、足首の2関節を跨ぎます。

しかし、それぞれの筋活動の特徴があります。

外側頭は足関節底屈時に足部が内方に向いている場合、内側頭は足関節底屈時に足部が外方に向いている場合に活動が高くなります。

よってハムストリングスによる下腿の回旋に偏りが生じた場合、筋活動の偏りの原因にもなりえます。

腓腹筋は足関節背屈によって、最大伸張されることで筋力を発揮しやすくするため、背屈制限が起こると筋力が十分に発揮できなくなります。

足関節背屈制限を起こす因子は
*皮膚、支帯の滑走性低下
*脂肪組織、滑膜組織の滑走性低下
*後方区画の滑走性低下
*後方区画筋の柔軟性低下
*PFP、KFPの滑走性低下
*軟部組織の癒着、滑走性不全
*遠位脛腓関節の可動性低下
*骨関節不全や変形

と、このくらいあり、要約すると足部または足部後方での組織間の滑走性または動きの抵抗値が高くなってしまうことから起こります。

また、足底腱膜と筋連結しており、足底、足趾の可動性や足底アーチのマルアライメントによる足部剛性の低下などによって収縮が妨げられることもあります。

ふくらはぎの構造や機能的な特徴の基本はこのとおりです。

ふくらはぎのしくみ(生理的機能)

ふくらはぎは構造面だけでなく、生理的機能面の理解も必要です。

ふくらはぎの生理的機能面は主に循環器への作用です。

第2の心臓とも言われるふくらはぎですが、末梢の静脈と体液の循環に大きな役割を持っています。

下肢の静脈血を心臓に戻すのはふくらはぎの収縮によるもので、そのために腓腹筋の筋力は重要です。

日常生活が座位中心だったり、動かない生活では十分にふくらはぎは働かないため、下肢の浮腫などに繋がります。

また、下腿断面を見ると

下腿の中を主要な血管が多数存在します。

そのため、下腿筋の硬結や滑走性低下はそれらの血管を圧迫しコンパーメント症候群の原因にもなります。

下肢血流の血行不良は全身の血流にも影響します。

例えば、下肢に間欠的な空気圧をかけると下肢のみならず、全身の血液灌流は60分以降で上昇を示したという研究もあり、下腿血流の循環不良は全身的に負の影響になるとも言えます。

自律神経系への影響もあり、下腿への温熱刺激は副交感神経を優位にはたらかせ、心拍数と血圧を降下させ、入眠を促進する効果が認められています。

下腿部は全身の血流や自律神経系などにも作用する人体における重要な役割があります。

下腿三頭筋の活動と筋線維量

ここまでで、下腿三頭筋がどのような筋であるかが少し分かってきたと思います。

しかし、この下腿三頭筋はすべてが同じだけ収縮するわけではありません。

最も筋線維が多く活動量が豊富な筋は腓腹筋内側頭です。

内側頭は足関節の底屈のみならず、足首を外旋することで接地時の安定性を高めてくれます。

外側頭は足関節背屈時に過度な内旋に制御をかけ、足首の安定性に寄与します。

よって腓腹筋はお互いに制御しあい、足関節を安定させて、地面に接地した時にグラつかないようにします。

また、ヒラメ筋は人体の代表的な遅筋が多い筋であり、そのことから姿勢維持筋としてのインナーマッスルであると言えます。

ヒラメ筋は生理学的断面積が平均230㎠で内側頭の3倍、外側頭の8倍であり、解剖学的断面積に対してヒラメ筋は8倍、内側頭は4倍、外側頭は3倍だったことから、ヒラメ筋の筋線維は筋肉量に比べて異常に短いのに、数が多いことが分かっています。

ヒラメ筋はその形状から小さな筋とされやすいのですが、実はその形状以上に筋線維量が多く、その数は内側頭に敵いませんが、筋線維の太さは内側頭以上です。

ふくらはぎを効率的にエクササイズするには?

なんとなく、カーフレイズばかりやってもふくらはぎのダルさは改善しない、むくみが取れないと悩む人がいるのはなぜでしょうか?

腓腹筋によって足首の安定性を高め、遅筋線維の豊富なヒラメ筋による姿勢維持を十分な形で発揮する必要があります。

マッサージ自体が悪いわけではないのですが、緊張を緩めたり、ほぐして皮下血流を増加させても下腿三頭筋は力を発揮できるどころか、不安定さを増す可能性すらあるわけです。

現代の生活上では足首が常に地面と90°の角度で接しており、深く曲がる状況が乏しいため、下腿三頭筋を十分に働かせる環境が身近ではありません。

では、それを補うためのエクササイズとは何が推奨されるのでしょうか?

下腿三頭筋の収縮は足首の底屈、背屈以上にその他の可動性である内返し、外返し、内旋、外旋や足趾、足底の筋である内在筋の働きとも関係します。

単なる足関節の底屈筋としてだけではなく、足趾で地面を踏む時や足底腱膜による足底アーチの底上げ時にも働くため、「踏みしめる」力がポイントになります。

踏みしめには足底腱膜の伸張性、テンションに加えて足部アーチの剛性、柔軟性も必要になるため、足首の可動性だけでなく、足部自体の機能を高める必要があります。

また、膝や股関節のアライメント、屈伸時の重心も踏みしめには大事なポイントになるため、下肢のコントロールを共に強化していく機能的トレーニングを必要とします。

高重量でのスクワットやランジ、坂道を使ったトレーニング、ジャンプ系エクササイズは下腿の筋を活性化させるには適しています。

厄介なふくらはぎのむくみ

どのような運動によって、ふくらはぎを効果的に働かせることができるかは理解が進みました。

しかし、この通りを臨床で行っても、改善しにくいのが浮腫です。

単純に下腿の筋力不足が招いていると考えるのは短絡的すぎます。

浮腫は全身性と局所性があり、脚のむくみの多くは局所性の浮腫となりますが、念の為、全身症状の確認は必要です。

圧痕が残るかどうか、押圧後の皮膚の凹みの回復の速さなども浮腫の鑑別に必要な知識です。

浮腫は疾患との関係もあるため、その理解も必要で、見落としがちです。

その中でも下腿のむくみは局所性浮腫に分類されます。

この種のむくみは
*静脈性浮腫
*リンパ性浮腫
があります。

これらは文字通り、静脈やリンパ管の異常により起こる浮腫ですが、厄介なのはリンパ性浮腫には脂肪組織の増大によって起こる脂肪性浮腫も含まれ、単なる血流の悪さと一括りで言えないことです。

脂肪性浮腫によって脂肪組織が増大することで筋の滑走性が低下することもあり、浮腫が下腿の運動機能を低下させる要因にもなります。

脂肪性浮腫は遺伝的な要因もあり、非常に改善が難しい症状です。

成り立ちとしては元々リンパ管の機能が弱く、リンパ液の循環が悪いことが起因しています。そうなるとリンパ液から脂肪酸の分泌が高くなり、脂肪の蓄積が進みます。

脂肪の増加は炎症を起こしやすく、微小な慢性的な炎症に移行します。こうなることでさらにリンパ液が滞留しやすくなります。

この負の連鎖を断ち切るには運動を行い、負荷をかけて筋肥大を図るとIL-6というサイトカインが筋線維の増殖にエネルギーを代謝し始めます。これが脂肪細胞の増殖を抑えることになるため、浮腫の軽減につながる可能性が考えられます。

しかし、むくみを訴える人は筋力低下も生じているため、このような高負荷をかけることや強度の高い運動に対して意欲が低いためトレーニングを持続させることが難しいのが難点です。

むくみによる筋力低下要因は
①運動制限
②血流障害
③痛みや不快感
④神経圧迫
などを起こすことから考えられます。

まずは持続的に負荷の軽い運動を実施しながら、モチベーションを高めつつ、負荷を高めていくことで改善のステップにつながっていくため、いかにやる気を落とさない工夫をし続けていくかが大事です。

ふくらはぐぎの機能を維持するには?

ふくらはぎは浮腫みやすく、筋力も弱くなりやすい

この特性は現代の日常生活スタイルとも密接であり、それだけでなく遺伝的な要因や加齢、自律神経系の乱れなどによっても左右されることもあります。

しかし、日々ケアをすることでQOLは高まる可能性は大きいと思われます。

そこで、日常生活の中でふくらはぎはどのくらい使われるのでしょうか?

たくさん歩くと足が疲れる・・・

そんな時に疲労感を感じる場所

それがふくらはぎじゃないですか?

下腿三頭筋は歩行の全フェーズで20-30%の筋活動を占めると言われています。

特にプッシュオフ時には50%に達します。

立位時には
静的立位で10-20%
動的立位で20-30%
に寄与しています。

身体が前傾し、つま先に重心が移動する時~前方に踏み出す時にふくらはぎの筋力は発揮します。

この前傾~プッシュオフは足趾の動きと連動し、足趾の背屈による足底腱膜の伸張と足関節の背屈が不十分だと下腿三頭筋の活動は減少し、大腿四頭筋の活動が増加します。

脛骨への負荷は下腿三頭筋の疲労と大きく関係があり、下腿三頭筋が疲労し、脛骨への負荷が増大すると脛骨の疲労骨折の要因にもなるようです。

これには膝の安定性も必要で、ハムストリングスの筋力により脛骨が安定します。

ハムストリングスは下腿の回旋に作用しますが、下腿三頭筋は下腿の回旋には作用しません。

足関節が硬い、またはハムストリングスの筋力が弱いといった状態ですと、膝関節は側方への負荷や回旋負荷が増し、膝の故障の原因になりやすくなります。

このような特徴を考慮すると

*足関節の背屈可動域を高める
*ハムストリングスの強化
*股関節の屈伸強化
*足底腱膜を含む足部アーチの保持

といった機能を高めることはふくらはぎの健康のために大事になります。

放っておけないのがふくらはぎ

このように
*日常生活習慣の中では筋力の低下が起きやすい
*疲れやすく、浮腫やすい
*鍛えないと維持しにくい
*足部、脚部機能と関連している
*循環器系にとって大事
*自律神経系とも関連している

とまあ、こんなにも特筆した特徴を持っている部位だったわけです。

放っておけば衰え、ケアすれば健康にプラスになる場所でもあります。

日常生活の範囲を少し越えたところの刺激が必要なため、なかなか自分でのケアがしにくいとも言えます。

当院では
*ストレッチやマッサージなどの徒手でのアプローチで自律神経系に働きかけ
*ストレングスおよびファンクショナルトレーニングで、下肢または下腿へ負荷をかけ
*空気圧によるリカバリーまで行えます

ふくらはぎのお悩みがあれば当院までご相談ください。




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