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介護保険物語 第10回 その4

どうも!
社会福祉法人サンシャイン企画室の藤田です。

大変な好評をいただいている「介護保険物語」第10回。
結構なボリュームとなりましたので、今回は5回に分けて発信してまいります。

今回は「その4」です。早速まいりましょう!

<令和3年改正の概要>
①「感染症や災害への対応力強化」
②「地域包括ケアシステムの推進」
③「自立支援・重度化防止の取組の推進」
④「介護人材の確保・介護現場の革新」
⑤「制度の安定性・持続可能性の確保」

令和3年度介護報酬改定の主な事項について

4 介護人材の確保・介護現場の革新

介護人材の確保 最も困難な課題

藤田 ということで次のお話に移りたいと思います。介護人材の確保と現場の革新ということなんですが。ここでは次の3項目が挙げられています。

介護職員の処遇改善や職場環境の改善に向けた取組の推進
特定処遇改善加算の介護職員間の配分ルールの柔軟化による取得促進
職員の離職防止・定着に資する取組の促進
サービス提供体制強化加算における介護福祉士が多い職場の評価の充実
人員配置基準における両立支援への配慮
ハラスメント対策の強化

テクノロジーの活用や人員基準・運営基準の緩和を通じた業務効率化・業務負担軽減の推進
見守り機器を導入した場合の夜間における人員配置の緩和
会議や多職種連携におけるICTの活用
特養の併設の場合の兼務等の緩和
3ユニットの認知症GHの夜間職員体制の緩和

文書負担軽減や手続きの効率化による介護現場の業務負担軽減の推進
署名・押印の見直し
電磁的記録による保存等
運営規程の掲示の柔軟化

これはどうでしょう?

森藤 介護人材の確保はまさに喫緊の課題ですね。現場の革新も重要です

どちらもとても大事なことなんですよ。でも、どうすればいいのか、その答えはないんですね(笑)。

まずは介護人材の確保について述べましょう。

このことについてはこれまでも介護保険法の改正の都度都度で触れられてきている。にもかかわらず、一向に改善の兆しがみられません最も困難な課題と言えるでしょうね。

今回の改正、他の部分については、それがどの程度達成されているかということについてはなかなか見えにくいものではありますし、仮にあまり達成できていなくても、それで何か困ったことが起きるのかというとそういうわけでもなさそうですよね。

しかし、こと人材の確保に関しては、「誰かが辞めました。でも誰も採用されません」で「まあ、それでもいいや」というわけにはいきませんでしょ?

一人二人ならまだしも、やがて四人、五人不足なんてことになったら、もはや勤務を組むことすら難しくなり、ショートステイの受入れをちょっと見合わせようかとか、特養を一部入居制限しようかなどということにもなりかねませんよね。

藤田 そうですよね。でも最近募集を出してもちっとも応募がありませんね。

森藤 ないんですよ。

藤田 まあですからこの❶の項目、処遇改善や職場改善でもって、入ろうかなっていう気を惹いておいて、❷、❸でもって、入ってみたら現場も楽ですよ、ということにしたいわけですね。

森藤 介護現場の革新としては、昔ながらのやり方はよろしくない、もっときちんとしたものにしたい、それならICTの活用だ、とこういうことでしょうね。

今回のテクノロジーの力による介護現場の革新が人材確保にどのくらい効果をもたらすのか大いに関心のあるところではあります。

ですがそういう部分を変えるだけでいいのか?とは思いますよね。

変えなきゃいけないところって他にもいっぱいあるんじゃないの?って思っちゃう。

今回の改正のこの項目は要するに、入りやすくします、入ったら働きやすくします、ってことですけど、それで本当に人が入ってくるの?ということなんですよ。

いやいや。入ってこないんですよ。


介護の仕事に人が来ない 社会的イメージの問題

藤田 確かに。でもなぜなんでしょう?なぜ人が入ってこないんでしょう?

森藤 介護の仕事に魅力がないわけではないと思うんですよ。

介護の仕事は言わば、利用者とのインターフェースなわけで、大事な仕事です。すごい大事。介護の仕事はとても大事な仕事なんです。

でも世間の介護の仕事に対する印象は、排泄介助、大変だ。食事介助、大変ですねえ。そんなものでしょ?でも実はちっとも大変じゃないんですよ。対応してる職員はそんなこと少しも考えてないでしょう?

藤田 そうなんですよね。わたしも実際の介護を始める前、ヘルパー2級をとったぐらいのときは、他人の排泄物なんてとても触れないだろうなって思ってました。でもいざやってみると3日もしないうちに慣れちゃう。あれは不思議でしたねえ。

森藤 そうなんですよ。実際はそう。

でもね。世間が大変だと見ている、だから人が来ないんだろう、じゃあお給料を上げてあげよう、って。これじゃだめなんですよ。大変な仕事だから給料をあげるんじゃないんです。介護の仕事はとても大事な仕事。だから給料を上げるんです。

人が来ないから給料を上げて人に来てもらう。そんな考え方がだめなんですね。

給料が安いから辞めていくって人は、実はほとんどいないんです。

藤田 なるほど。そうかー。わたしなんかつい、人が来ないんなら時給をグンと上げればいいと考えていましたね。

じゃあなぜ辞めていくんでしょう?介護の仕事自体は日常的で楽しい仕事じゃないですか?それでも辞めていく人が多いのは、やっぱり人間関係だと思うけど、この業種って他の業種に比べてスタッフ間の圧が強いとかあるんでしょうか?

森藤
 うーん。それは違うと思いますよ。

他業種の人もそれはそれで大変でしょう。それに比べると介護の仕事はまだ楽じゃないでしょうか。

それに人間関係のコーディネートはこれはもう施設側の問題ですよ。少なくとも半分は組織の問題だと思います。システムの問題。

藤田 ほほう。じゃあなぜ辞めるんでしょう?人が来ないんでしょう?

森藤 先程も少し言いましたが、世間では介護の仕事は下級の人がやる仕事だと思われてるからだと思います。例えば准看護師がやっていることは介護士とほとんど変わらないのに、看護師だというだけで介護士とはイメージが違うでしょ?

藤田 なるほど。でも北欧の国の介護士はどうでしょう?ずいぶんその辺りの世間での見られ方って違うような気がしますが?

森藤 確かに北欧の介護士はとても立派な仕事だと彼の国の世間では見られてますよね。それはもう、日本とは違う。そうしたイメージは国が作り上げたのだと思います。

日本で福祉っていうと、恵まれない人を助ける仕事っていうイメージでしょ?そうなっちゃうとそれを助けるのもそこそこの人でいいや、となっちゃう。

北欧はそうではない。これはもう国の成り立ちから違うからしょうがないところがあります。北欧の各国はどこも人口があまり多くないでしょ?

<参考:ノルウェー=436万人、スウェーデン=883万人、デンマーク=523万人、フィンランド=511万人、アイスランド=27万人、平成9年の数字>

https://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/kiroku/s_hashi/arc_97/gaiyu97/jre_hyo.html

藤田 そう言えば、人口が少ないと民主主義がうまく作動するっていう話を聞いたことがありますけど、日本の1億2000万人とは全然違いますね。

そのあたりの骨格からして違うからあまり参考にはならないかもしれませんね。

森藤 そうかもしれませんね。でも北欧がそうだったように、日本でも国がそういう形にしていく必要はあると思います。

同時に、現場のわたしたちが声を上げていく必要がある。給料を上げろって。そのときに、介護の仕事はとても大事な仕事なんだから、すごい仕事なんだから上げろって言わなきゃいけませんよ。

そのためには、介護士自身が誇りをもって働くことです。自分たちのやっている仕事は本当にすごい仕事なんだと思う必要がある。


誇りをもって働く 介護保険導入の弊害

藤田 なるほど。そう思えるようになるにはどうしたらいいんでしょう?

森藤 職種をしっかり区別することが大事です。看護師は自分がやってる仕事を介護士にはやらせないでしょ?介護士もそうならなきゃいけません。

わたしたちのやっている仕事は素人にはできませんから、お手伝いは結構ですって。

何度も話してる気がしますが(笑)、わたしが前にいた職場では、(もちろん措置時代のことですよ)全職員を直接処遇職員と間接処遇職員という言い方できっちり分けていました

直接処遇職員っていうのはいわゆる介護士のことで、利用者の身体に直接触れてもいいわけです。間接処遇職員っていうのは事務員とか給食の人とかで、利用者の身体に触れるような仕事はしていない人たちです。

直接処遇職員は、自分たちの仕事を決して間接処遇職員にはさせませんでしたね。

わたしは事務の仕事だったので間接なんですね。だからちょっとした場面で利用者の介護をしようとすると、遠くからでも介護士がやってきて、ダメですって断られていましたよ。

彼らはそのくらい自分の仕事に誇りをもっていたんですね。

藤田 へええ。そのお話をお聞きするのは確かに何回目かのような気がしてきました(笑)。

そうした、かつての介護士たちの誇りって、当時はどこでもそうだったんでしょうか?それとも森藤部長のおられた施設が特別だったのか?

森藤 いや、当時はどこの施設も同じように誇りをもって働いていたと思います。それが現在はさっぱり失われてしまっているわけです。

藤田 そうですか。それはなぜんなんでしょう?やっぱり介護保険が始まったことと関係あるのでしょうか?

森藤 ええ。そうだと思います。介護保険が始まって誰でも介護の世界に入ってこられるようになったからでしょう。

藤田 なるほど。


<広島弁まとめ>

介護の仕事はホント人がおらん。募集掛けても掛けても誰も来やせんわあ。じゃけえ、今おる者(もん)はひっちゃかめっちゃか忙しうてかなわんよのう。なんとか人に来てもらおう思うて、国も改正のたんびに色々やるんじゃけど、全然なんともならんけえ。じゃけどなんでこげに人がおらんのじゃろ?そう考えてみりゃあ、そりゃやっぱり、社会いうか、大勢の人の見方の問題で、介護の仕事はあんまりみっともええ仕事とは思われとらん、いうんが根本の問題じゃ思うんよ。そがいなこたあないのにのう。なんでそがいなことになったんか言うたら、やっぱり介護保険ができてから、誰でも参加できるようになったけえ、いうんが大きい思うよのう。ほんじゃけえ今わしらのように介護の仕事に就いとる者(もん)が、誰でも彼でもやれる仕事じゃないんでいう誇りをもって働いていくことが大事じゃろう思う

以下はまた次回(最終回)!


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