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介護保険物語 第8回

こんにちは!
社会福祉法人サンシャイン企画室の藤田です。

今回もやってまいりました、「介護保険物語」。
一体いつまで続けるつもりなの?の第8回です。
今回は渋め渋めからのそうかそうかの展開となっております。

さあ、まいりましょう!

■介護職員でも痰の吸引ができるようになった

藤田 今日もよろしくお願いします。

森藤 よろしくお願いします。

藤田 今日は主に次の3点についてお話を伺いたいと思います。

①平成24(2012)年改正の項目「介護職員による痰の吸引に関する改正」
②平成25(2013)年に問題となった「社会福祉法人の内部留保の問題」
③平成27(2015)年改正の項目「特養入居者が要介護3以上に」

では早速①の「介護職員による痰の吸引に関する改正」に関してお話を伺っていきたいと思います。

これは要するに「介護職員でも痰の吸引ができるようになった」ということだと思いますが、これだけでは、「それがどうした?」ということになりかねないので(笑)、森藤部長にお話を伺う前に、少しこのことの背景を説明させてもらいます。

まず第一に押さえておきたいことは、「痰の吸引」は実は「医療行為」だということです。

ここでさらに説明を(笑)。

■痰の吸引とは

藤田 「痰の吸引」についてです。
なんらかの障害がなければ、唾液・痰・鼻汁などは通常ほとんど胃の中に飲み込まれているそうで、飲み込めなかった分は口から吐き出したり、鼻から出したりされていることにみなさんも心当たりがあるかと思います。

その量ですが、唾液は顔の下半分にある耳下腺・顎下腺・舌下腺から1日に1~2リットル、痰は外から体内に異物が入ってきたときそれらを絡め取るように喉の奥から必要な分だけ分泌され、鼻水は鼻の中で1日に2~6リットル(!)が作られているそうです。

だから唾液と鼻水だけで1日に3~8リットル作られているわけで、それらのほとんどは無意識に飲み込まれているということらしいです。

唾液:「唾液とは?」
痰:「せきとたんの研究室」
鼻水:「たくゆう耳鼻咽喉科クリニック 院長ブログ」

ですが、なんらかの障害(呼吸器障害等)があるとそれら「喀痰」を飲み込んだり吐き出したりできない場合があります。そうなると息ができなくて窒息してしまいます。

そこで必要になるのが「喀痰の吸引」という行為です。
わたしなんかは歯医者さんで治療中に唾液の吸引をされていた記憶があります。

吸引は、たまった分泌物を取り除き空気の通り道をよくして呼吸を楽にしますが、吸引カテーテルを挿入して圧をかけて吸引するのですから、吸引される方には苦痛が伴います。

口腔内や気管内の粘膜は柔らかく、鼻の奥にはたくさんの細かい血管があります。したがって、かたいカテーテルが入ることで傷つくことがあります

吸引は、口や鼻、気管の中に直接カテーテルという異物を入れる行為です。汚染した手や器具などを使用して吸引すれば、ばい菌を口や鼻、気管に入れる機会にもなってしまいます。

(参考:テキスト『喀痰の吸引等を必要とする重度障害児・者等の障害及び支援緊急時の対応及び危険防止に関する講義』)

なので「痰の吸引」という行為は「医療行為」だとされています。

■医療行為とは

藤田 でも、あらためて考えてみると、「医療行為」とはなんでしょうか?

「医療行為」とは一般には「医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼすおそれのある行為」とされています。

ある行為が医療行為であるかどうかは、個別に具体的に判断する必要がある、と言われていますが、この「医療行為(=医行為)」を、反復継続する意思をもって行うことを「医業」と言い、医師法第17条では「医師免許を持たない者は医業をしてはならない」ことが謳われています。

つまり「業」としてでなければ(=反復継続して行う意思をもっていなければ)「医療行為」をしても、それを禁止する法令はないのです。

というあたりまで説明させていただいて(笑)、ここからは森藤部長のお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。

森藤 どうも。今説明してくれたように、医療従事者である看護師の立場としては、本当は「痰の吸引」を介護士が行うということにはずっと抵抗感があったのではないでしょうか。それは医療行為なので看護師である自分がやるべきことではないかと。でも現実として、特養で「痰の吸引」を看護師しかやってはいけない、となると、特養では夜間看護師の配置が法的に義務付けられていないので、夜間にも看護師を配置するというのは、夜勤のできる看護師の一定数の確保や人件費などを考えると施設としてはほとんど不可能な要求だったわけですよ。

藤田 ははあ。でも例えば「痰の吸引」をその家族さんがやるのはいいわけなんでしょ?

森藤 それはいいんです。家族さんは「痰の吸引」を「生業」としてやるわけじゃないから。ただ業務としてやってはいけないんですね。

在宅で家族さんやボランティアさんが無償で痰の吸引を行なうぶんには、医療関係者から研修や指導を受けるなど一定の条件のもとではありますが、まったく問題はないということなんです。

素人がやろうがベテランがやろうが誰がやろうが、うまくやりさえすれば誰も文句をいう人はいなかったんです。

ところが、痰の吸引が必要な人は何も家庭の中にしかいない、というわけではなく、他の場所にも存在していることがだんだん世間に明らかになってきたんです。その代表的なものが一つは盲学校、聾学校、養護学校など特別支援学校であり、もう一つが特別養護老人ホームなどの高齢者施設だったわけです。

そうした背景がありつつ、このことが最初に問題になったあるできごとがあります。

■「痰の吸引」問題の端緒

藤田 ははあ。それはどんなできごとなんですか?

森藤 当時在宅で介護を受けていた痰の吸引を要する障害児が何かの用事で外出することになり、家族が付き添えないのでヘルパーを雇って付き添ってもらい痰の吸引も併せ行ってもらおうとしたところ、医療関係者でないヘルパーが「生業」として痰の吸引をすることはまかりならん、と医療関係の筋からクレームがあり、では一体どうしてくれるんだ、などと家族関係者との間でひと悶着あったということです。

※調べてみると、厚生省の次のテキストがありました。これのことかもしれません。
「ホームヘルパーが行う「たんの吸引」の「業務性」について」

でもこの問題は特養での「痰の吸引」でも同じなわけですよ。私が特養とかかわりを持ち始めた頃は措置制度の頃だったんだけど、痰の吸引を必要とする入居者はやはりおりました。実際に介護職員による痰の吸引も行われていました。

これを違法行為と言えばそうなんですが、当時は、その行為が正当化されるだけの事情がある場合には違法性が阻却(そきゃく:さまたげること)されるという考え方により、いわば大目にみてもらっていたんですね。

だけど、この痰の吸引を医療関係者でない者が行なうことが違法状態なのだということが世間や介護業界で話題になり始めると介護職員の中には動揺する人も少なからず見受けられました。

それでこのまま曖昧な形で放置することはもはやできなくなってきていたんですね。だけど、一方で特養においては痰の吸引の必要性を理由にして入居者の受入れを拒否することはできない状態でもあった、と。

そこで、医療関係者ではない介護職員にどうしたら合法的に痰の吸引をやらせることができるのか、という模索が何年間にもわたって行われていたんですね。その結果が平成24年(2012年)の法改正という形になったんです。

■「痰の吸引」の改正、実は画期的なこと

藤田 うーん。でもどうもよくわからないんですが、看護師サイドが介護士による「痰の吸引」を問題視したという、その理由がどうも納得いかないんですが?それはなんでなんでしょう?

森藤 それはね、いろんな職業には資格を要する職業がたくさんありますよね。その中で業務独占と名称独占という区別があるのはご存じでしょう? これを看護職である看護師と介護職である介護福祉士に当てはめてみると、看護師資格は業務独占の資格で看護師の行う業務は看護師資格のない人には絶対携わることはできません。一方介護福祉士資格は名称独占で介護福祉士は「自分は介護福祉士である」と名乗ることはできますが、介護福祉士が行う業務については誰が携わっても何の問題もありません。

つまり、「痰の吸引」は医師・看護師など医療従事者の独占業務にあたるので、他の人が(たとえうまくできても)その行為を行なうことを受け入れることはできないのです。それを認めてしまうと「看護師資格って何なの?」ということになってしまいますよ。今の介護福祉士の資格がそうでしょう? だから、業務独占の範疇に無資格者が侵入してくることは絶対認めることはできないのです。 

藤田 はあー、そうなんですかねえ。

森藤 ともかくそういう問題があったわけで、それがこの改正のおかげで、特養の介護士も堂々と痰の吸引を行なうことができるようになったんですね。このことはある意味画期的と言ってもよいのではないか、と思いますよ。

藤田 そうなんですか。

森藤 だからこそ、この改正が通るまでには、看護業界団体などとは相当すったもんだがあったみたいですよ。

藤田 この改正が通ったのって、介護保険が始まって12年後ですもんね。なるほど。そういうすったもんだが裏の方でいろいろあったんですねえ。はあー。

そこまで聞くと面白いですねえ。すったもんだがあったのにそれを乗り越えて成立した、そういう意味で画期的なわけですか。

森藤 介護士としては、医療行為をやっていいのか?という疑問をずーっと抱きながら介護をしてたわけですよ。それがこの改正後は、堂々とやれるようになったわけですから。そういう気持ち悪さはもうなくなったんですね。

藤田 そういうことを伺うと「痰の吸引」だけで一冊の物語が書けそうですね(笑)。

ありがとうございます。

では次の話題です。②「社会福祉法人の内部留保の問題」ということですが、これなんかわたしなんかは考えたことも注目したこともない問題ですねえ(笑)。とても渋い(笑)。

ひとつよろしくお願いします。

■社会福祉法人、実はお金持ってた?

森藤 これは要するに社会福祉法人が金を貯め込んでいたことが公になって、それが問題になったということなんですね。

職員の処遇が悪い、悪いっていうことが言われてて、それを聞いて世間は、お金ないんだなあ、と思っていたのに、よく調べてみると、一杯持ってるじゃん、と。あるんなら職員に出してやればいいのに、なんでこんなに貯め込んでるのー、ということがことの発端なんだよね。

藤田 ここでちょっとだけ言わせてもらうと、調べてみると、平成25年の社会保障審議会介護給付費分科会で、特養の内部留保額を試算した資料が公表され、なんと、特養1施設あたり平均約3.1億円、総額で約2兆円もの内部留保があったことがわかったという(笑)。

※参考:「特別養護老人ホームの「内部留保問題」を考える」

森藤 そうなんだよ(笑)。信じられる?(笑)

藤田 いやあ。これ知ってわたしなんかすぐにうちの内部留保の額を調べましたよ(笑)。

森藤 ないでしょ?(笑)

藤田 ここでは言えませんが(笑)。でも3億1千万もあったって。そりゃ驚きますね。

森藤 そうでしょ。世間の人は、なんだ?ってなるよね。

このままだと社福が悪者になってしまうんで、こういう事情もあるんだよ、ということをちょっと知っておいて欲しいと思いましてね(笑)。

要するにふつうの会社だったらね、お金を貯めておいてそれを将来の設備投資や事業拡大に使うのは当たり前に行われていることなんだけど、そういう当たり前のことが社福ではできないんだよね。

そもそもこの内部留保の問題っていうのは介護保険が始まってから起きたんですからね。それまでの措置制度の頃は、もしお金が余ったらそれ全部返してましたからね。

■措置制度の時代の社会福祉法人の収入

森藤 まず、措置制度の頃の社会福祉法人では法人の収入はどのように確保されていたか?というと、各法人はその月の特養の入居者数などを計算し、それを実績報告として管轄官庁に提出します。管轄官庁はそれに対して、入居者1人当たりの経費(あらかじめ決められているのですが)などに基づいてその月の措置費を支給します。このあたりは今の介護報酬の請求とほとんど同じです。こうして得られた措置費の枠内で特養などの事業が運営できるようやりくりするわけです。

で、もし、経営を効率的に回して運よく措置費が余ったらどうするか?というと、残念ながら各法人の懐に入るわけじゃないんですよ。年度末に1年間の収支を計算して余剰金があればほとんど全額管轄官庁に返還することになるんです。そこで、法人としては、措置費ぎりぎりで運営できるよう物品を購入したり、人件費に上乗せしたりするわけだけど、ま、毎年のことなので、措置費を承認する管轄官庁もそんなに残余金がでるような措置費を支給するようなことはありません。

藤田 措置時代は貯めようがなかった?

森藤 そう。貯めようがなかった。繰越金っていうのが少し出てましたけど、それ監査で見られますからね。これなんですか?ってなもんで。

だから3月近くになってお金が余りそうだってなると、それなんとかして使うんですよ(笑)。

わたしが居たところはヘルパーステーションがあったから、そういう時はバイクを買ったりしてましたね。

藤田 ほうほうほう。バイクですか。

森藤 でもそんなに余らないですよ。毎年のことですからねえ。

■介護保険ができると内部留保ができ始めた

藤田 でもまあそういうわけで措置時代は内部留保なんてありようがなかったけど、介護保険が始まると内部留保ができ始めた。そのあたりの理由はなんでなんでしょう?

森藤 返さなくていいですからね。それが貯まってくるんですよ。

藤田 ちょっと待ってください。介護保険になって株式会社も参入できるようになったわけですが、株式会社の場合は内部留保の問題は起きないわけですか?もっとも株式会社は特養はもてませんが。

森藤 株式会社は利益を目的にしてるけど、社福はそれはだめでしょ、貯めちゃいけんよ、ということなんですね。社福の場合は税金面の優遇もありますしね。

■介護保険の時代の施設経営上の最大の問題

森藤 でね。介護保険になったときの経営上の最大の問題は、その年度の予算が足りなくなったらどうするかということです。当然その赤字分は法人が自己負担して埋め合わせなくてはなりません。管轄官庁に泣きついてもだめですよ。

措置時代だったら、経営がうまくいかなくて予算が足りなくなりそうだったら、管轄官庁と掛け合って追加で予算をつけてもらうことができたんです。もっともその追加予算を管轄官庁がかってに決められるわけではなくて、その自治体の議会の承認を得て補正予算を組んだりなど、そう簡単じゃあないんです。それに、法人としてはお金乞いをするのは体裁が悪いし、法人責任者(理事長など)の手腕が問われますので、実際は追加で予算が出たというような話はあまり聞いたことがありませんけどね。

でも措置時代だったらそういうこともできたわけです。でも介護保険時代にはそういうことができませんからね。じゃあ赤字分の埋め合わせはどうやってするのか?と言うと、

①理事長あるいは理事が資産家の場合、寄附をして埋め合わせる
②銀行から借入する

というところでしょうか。でも、①は、金額にもよりますが、理事長や理事がいくら資産家であってもそんなにポンポンと寄附をだせるわけじゃないでしょう。②も、銀行としても何か後ろ盾がない限り安易にホイホイとお金を貸してはくれないでしょう。もちろん株式会社ではありませんので、株を発行して資金調達をするというわけにもいきません。

ですから、絶対そうならないよう、毎年経費を節減し人件費を切り詰め赤字にならないようにするか、万が一赤字になったときのために毎年残余金を内部で抱え込んでおく必要があるんですよ。実は、それが積もり積もって内部留保と言われる状態になってしまったんですね。

さらにもう一つ大きな心配ごとは、やがて老朽化してくる特養の建物の建て替えの問題があります。

いずれにしても社会福祉法人にとって将来の法人・施設運営に対する大きな不安が根底にあり、それに備えての資金確保をしておかなければ、というのが内部留保を貯める一番大きな原因だったと思います。一部に言われるような私腹を肥やす云々というのは的外れな批判だということを言っておきたいと思います。だいたい、本当に私腹を肥やしたいのなら内部留保になんかしませんよ。

藤田 なるほど。で、平成25年に社福の内部留保が問題になったわけですが、森藤部長に伺うと、それももっともだと(笑)。仕方ないことなんだと(笑)。

それはわかりました。でもこの平成25年のときは、問題になって、それからどうなったんですか?

森藤 ある意味うやむやになったんですよ(笑)。

藤田 笑わさないでくださいよ(笑)。問題じゃないか、ってなったけど、結局うやむやになったんですか?(笑)

■施設の内部留保問題を受けて、会計処理を公表するように

森藤 要するにね、3億1千万、そういうお金がね、会計上出たとしても、本当にそんなお金があるの?どこにあるの?ってことなんですよ。自由に使えるお金なんかじゃないんですよ。いつかは建物の建て替えなり、修復なりなにかに使う予定のお金なんですから。

だったらそういうお金をね、秘密にしないで、公にしろ、と。

それで今は会計処理を公表するようになったでしょ。このときから公開するようになったんですよ。公開してあって、将来何かに使うためのお金っていうことがわかるようになっているなら、なんの問題もないんじゃないの、ってなったんですよ。

藤田 公表するようになったのは2015年の改正でですか?

森藤 そうです。社会福祉法人としての改正になりますけどね。

藤田 株式会社も会計処理の公表が義務付けられたんですかね?

森藤 それはどうだろう。株式会社のことは詳しくはないので。

藤田 なるほど。つまりこういう例えですね。

わたしんちはカミさんが全部お金握ってるから、お小遣いももらってないんで、でも何かあるとこれこれに使いたいからって言うと、それだけはくれるんですよね。だから措置時代ですよ、わたしんちは(笑)。

森藤 使った後それを証明しなきゃいけない(笑)。

藤田 領収書出さなきゃいけない(笑)。

でも多くの人は、お小遣い毎月もらって、それを貯めてなにかの時に使ってるわけで、これは介護保険時代ですよね(笑)。こっちの方が新しいですよね。自由に使えるし。

ということで、では次のお話にいきましょう。

■要介護3以上でないと特養に入れないことに

藤田 次は「特養入居者が要介護3以上に」ということなんですが。

これは平成27(2015)年の改正の項目ですね。ではお願いします。

森藤 この改正の主旨はつまり、特養を重度の人をみる専門の施設にしたい、ということなんですね。

特養は重度の要介護者の入居する施設で、軽度(要介護1や2)の要介護者は在宅で地域包括ケアシステムの中でケアを受けてください、という国の方向性が明確化されたということなんですよ。

藤田 はああ。なるほど。そういうことですか。

森藤 そう。今は要支援1,2の人を総合事業に流してますが、そのうち要介護1の人も言われるかもしれませんよ。要介護1の人も総合事業へどうぞって。

藤田 はああ。じゃあ、介護認定の判定基準を変えてくる、っていうことはないですか?

森藤 あると思う。でもねえ、それ変えるのは、あり得るけど難しいかもしれませんね。現場でやっている人の声もあるし。今の人の介護認定はどうなるの?っていう問題もあるし。

藤田 でも、そうなったとき、特養はそれでいいのかもしれませんが、特養以外のサービスはどうなるんでしょう?

森藤 特養が重度を受け持って、それ以外の人がデイとか訪問とかを使うということなんでしょう。重度の人が在宅にいると大変だ、ということもあるでしょうね。

要介護1や2の人にそんなにお金使っていいの?っていうことでもありますよ。

藤田 え?それはどういう?

森藤 特養に要介護1や2の人が入るということは、建物とか人材とかの資源をそういう人にも使っているっていうことですからね。

藤田 なるほど。

森藤 それともうひとつ。

大体が特養の入居者については要介護1・2の占める割合は、今当サンシャインでも1割程度しかなくて、あえて要介護3以上と限定しなくても要介護3~5が圧倒的に多人数であるという事実があるんですよ。

なのに、なぜ入居者を要介護3以上に限定したのか?

確かに軽度の人が入居してしまうことで重度の方の介護が十分に行われない、という建前は言えるでしょうけど、当サンシャインでも現在でも要介護1・2の人が全く入居していないわけではなくて、実は特例的入所で要介護1・2の人もちょこちょこ入所しているんですよ。だから、現在の要介護1・2の占める割合は改正前の割合とそんなに大きく異なっていないという現実がありますよ。

それなのに、なぜ入居者を要介護3以上に限定したのか?

それは、ずばり入居待機者を減らすため、と言うより、入居待機者の人数を本当に入居が必要で入居申し込みをしている人の数に近づけたかったからなんです。

それまで入居待機者と言えば200人だの300人だのすごいところは500人とか、本当にそんなに特養に入って介護を必要とする人がいるの?と思わざるを得ないような数字でした。

でもね。この入居待機者の中には、すぐに入居する必要はないけど、とりあえず申し込んでおこうといって要介護1の人や、極端な場合では要介護度もついていない人の家族が申し込んでくることも多々あったわけです。

そこらを走り回ってる元気なお年寄りでも、今のうちに予約だけはしておこう、っていうことです。

しかし、世間の人は入居待機者というと、今にも倒れて、寝たきりになり介護を受けなければ生きていけない人、というふうに考えがちです。そんな人が特養の入居を待機してて、その数が200人とか300人とかってなると、これどうなってるの?、国は一体何をしているのかー!(笑)と思ってしまう。

藤田 そうです、そうです。わたしもそんな風に思ってました(笑)。

森藤 でしょ?でも今言ったように、実情はそんな感じじゃ、全然ないんです。だからそんな誤解のような思われ方を正したい。

そこで、入居要件を要介護3以上に限定することで、この待機者の数字から軽度の要介護1・2の人を締め出したわけです。それは確かに効果抜群でした。当サンシャインでも以前は待機者が2~300人ぐらいいましたが、今は多分数十名程度になっているのではありませんか?

このように、入居待機者の数字をより実情にあったものにするという意味で、この改正は大成功だったわけです

藤田 なるほど。お話を伺うと、これまでは「そうなの」ぐらいにしか感じてなかったこの改正も、とても面白いお話なんだな、と思いました。

この改正ができるまでは、そこら中を走り回ってる人でも特養の入居を申し込みはできてたけども、この改正ができて以降は軽度の人は入居申し込み自体ができなくなったわけですか。

森藤 いやいや。今でも申し込みをしてはいけない、ってわけじゃないと思うんですよ。軽度でも申し込みはできるんです。でもその際に施設側が事情を話して、結局受けないようにしてるんじゃないかなあ。

藤田 そうかあ。300人待ちなんてことになってて、入居は予定では3年後です、なんてことになってる常識があったら、なるべく早めに申し込んでおこうって、家族さんは思いますよねえ。

でもこの改正でそんなに待機者はいませんよ、っていうことになったら、申込みもまだいいかってなことになりますよね。受ける方も断りやすくなって。

それで待機者が減って、マスコミとかに騒がれなくなるわけで。

そうかあ。やっぱりお話を伺うと面白いですね。

森藤 わたしの持論ですがね(笑)。とにかく重度の人にお金をかけてしっかり面倒をみることが第一で、軽度の人にはあまりかけなくていいんですよ。それで生き死にに係ることにはならないでしょう?

藤田 森藤部長はよくおっしゃっておられますよね。介護保険は「自立支援」となってるけど、ある程度重度になると、もう自立目指すより安楽に生きていきたい、っていうのが本音になる、って。

全体の介護観もそんな風になりますかね?

森藤 う~ん。どうですかねえ。

藤田 国もそんな介護観を認めるようになるもんでしょうか。でもその場合、線引きが難しいでしょうねえ。ここまでは自立で、こっからは余生だって。できないかもしれませんね。

森藤 これは一般に言えることなんだけど、100あるうち、99はこうした方がいいんだけど、1つのケースがすごい害を受けるっていう場合があると、それは絶対ダメってなりますよね。

藤田 悪平等ってやつですね。

森藤 だから政策なんかもその1つケースのために、なかなか前に進めない。そんな事情がありますよね。だから日本の経済・社会は停滞してるんですよ。

下に合わせるから。

上をしっかりやって、そこで出た富を下に分けるなんてやればいいのにね。

藤田 そうですねえ。悪平等って言ったけど、上と下って、認めるわけにいきませんものね。認めない方がいいのかもしれないし。よくわかりませんね。

そんなお話を伺うと、奥深いですね。介護の話から世界を見れる、なんて。

今回もとても面白いお話でした。また次回もよろしくお願いします。

森藤 強引にまとめましたね(笑)。ありがとうございました。

収録日:2021年5月4日(火)


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