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終わらないエンドロール

2016年、6月。
毎晩スペースシャワーTVを観ながら、ビールに溺れる日々。ビールはもちろん、オリオンビールだ。僕らサンシャインは沖縄に来ていた。6月の1ヶ月間、沖縄にある吉本の劇場、沖縄花月にお世話になった。
毎月、東京から若手芸人が沖縄に派遣されていて、僕らにも白羽の矢が立ったのだ。仕事で沖縄で1ヶ月過ごせるなんてこんな最高なことないよ。しかも沖縄の6月なんてとっくに海に入れるほどの気候で、今年は最高の、生涯忘れられない夏になりそうだぜ。

とは束の間。初日に飛行機乗りすごして、46000円自腹で払って沖縄に。いきなりクライマックス。ちゃんと涙が出た。しかも寝過ごしたとかじゃなく、ちゃんと1時間前に余裕を持って空港着くように向かったのに、途中で人身事故が起きて、電車を乗り換えることになって。その乗り換えた電車も人身事故が起きて。1日に2回、人身事故って。そんなことあんのかよ。冷や汗ってあんなに出るんだな。1リットルはちゃんと出た。

不慮の事故だから、色んな手続きをしたら、多分飛行機代もなんとか返ってきたと思うけど、なにぶん沖縄1ヶ月出番の初日で。そんな初日から出番を飛ばす訳にはいかない。待ってるお客さんがいるんだ。そんな乗り遅れなんか、言い訳になんねえよ。

急いで、握りしめていた1ヶ月分の全財産5万円から、46000円払って別の飛行機に乗った。沖縄に着いてからも劇場までノンストップでダッシュした。出番をトリにしてもらい、走りながらコントの衣装に着替えて、出番まで残り1分。なんとか間に合った。良かったぁーと安堵する劇場のスタッフさんと信清に頭を下げ、挨拶した。ネタ時間は10分。望むところだ、コント1発だよ。初めまして、沖縄。僕ら東京からあなた方笑わせに来たぜ。暗転の中、僕らは意気揚々と舞台に板付いた。明転、コントがはじまる。

5人しかいなかった。魚市場の帽子を被ったおじいちゃん5人。お客さんの3人が缶チューハイ呑んでて、2人が寝てた。すぐに、コントするのをやめて漫才に切り替えた。臨機応変って言葉をあんなにも体現したのは多分人生で初だ。自分ら福岡出身で同じ九州っすよね〜へへへ。ネタというより、もう町内会の集まりに孫が遊びに来たみたいな感じで10分間過ごした。ぶっちゃけ、信清が1人で10分ギャグやってた方が盛り上がったんじゃないか。漫才しながら、46000円が頭をちらつき気絶しそうだった。

痺れるスタートを切り、僕らの地獄の沖縄合宿の幕は開いた。とは言え、マンスリーマンションを借りてもらい、そこで久しぶりの1人部屋。そんなもんで沖縄での日々は福岡の大学の一人暮らしの時となんら変わらなかった。ひたすらスペシャでMV観て、考え事してネタ作って寝落ちするまで呑んでいる。懐かしいなー。こうやって毎回夜更かしして次の日の一限に寝坊して友達に怒られていた気がする。ちょうど沖縄の本屋で買った又吉さんの新刊「夜を乗り越える」を読んでいる。タイトル通りとは言わないが、こんなどうにもならないような夜を繰り返して繰り返して、今もまだ懲りずに繰り返してる。飽きがこない。まだ夏でもない。うるせえよ。


2010年。僕が東京吉本の養成所、NSC16期生として入学したのはもう6年前。当初、お笑いブームも沈下してるとあっても入学者は1000人。福岡のど田舎の小さな町に生まれた僕は中学の同級生ですら50人しかいないのに、芸人目指すってやつが1000人もいたって、今考えたら天文学だ。同期と言っても、もちろんお笑い事務所は吉本だけではないから、他事務所も入れたらもっといる。その中で人力舎の芸人で同期のシャラップてやつがいる。今は人力舎を辞めてフリーで、「そうじゃねえだろ」ってコンビのシャラップって名前でやってる。なんだよその名前。100個質問したいよ。

シャラップは、僕らがNSC時代の他事務所対抗ライブだったり、1年目にルミネであったおしゃべりベトナム大戦争っていう小藪さんMCのトークライブも見に来てくれていたそうだ。なんてマニアックなやつに。後に一緒のライブの時に聞いた。それからネタライブや、大喜利ライブで一緒になることがあって話すようになり、仲良くなった。僕らの単独ライブも見に来てくれて、面白いあいつに面白いと言って貰えるのはとても嬉しかった。嬉しかったんだよな。

そんなシャラップから、病気になって今後活動が難しいからコンビを解散するって話を聞いた。どうやら原因不明の病気で、普段の生活してる時でも、急に全く身体が動かなくなる時があって、医者や相方と話しあって、結果コンビを解散することになったと。6年目になって、この仕事に諦めがついたり、結婚したり、家庭の事情だったり、他の仕事に就くだったり、いろいろな理由で同期が辞めていったけど。こんな悲しくて悔しいことはない。神様はいない。いねえんだよ。

その解散ライブを阿佐ヶ谷ロフトでやるから、シャラップから僕らにも出てほしいとオファーがあった。2つ返事でオーケーした。吉本から同期のカランも一緒に出た。元サボテンの古賀が新しく組んだコンビだ。オールナイトで好きな芸人呼んで好きなことやるんだと。僕らは、2年前に初単独でやった葬式のネタをしてほしいとのことで、2年振りにやることに。そして企画の1つで、ハゲて太った大鶴義丹似のおじさんとクマムシのネタを完コピしてほしいと。なんだそれ。何度でも言う。なんだそれ。

本番当日。本当に大鶴義丹似の太ったおじさんがスーツ姿で笑顔でやって来た。よくよく聞くと、僕より全然年下だった。なんだそれ。

「サンシャイン坂田です。よろしくお願いします」
「初めまして、大鶴肥満です」

なんだそれなんだそれなんだそれ。嵐のようだぜ。

ライブが始まり、シャラップがコンビのネタをする。ネタの途中で、新しい相方と変わった時、泣いちゃったよ。ふざけた馬鹿みたいなネタなのに、グッときちゃったな。僕らの葬式のネタもお客さんも別に僕らを知ってるファンでもないけど、とても暖かく、嘘みたいに楽しく出来た。
そして、大鶴肥満との、クマムシのあったかいんだからの漫才。僕は全力で完コピしたけど、途中テンション上がって3発ぐらい思い切り頭を引っ叩いた。初めて会ったその日におじさんのハゲ頭をあんなに叩くことはもう今後ないだろう。めちゃくちゃ面白かった。その後すぐ大鶴肥満は、ガクヅケの木田くんとオリラジさんのパーフェクトヒューマンしてた。袖から見て馬鹿すぎて笑い死ぬかと思ったよ。

信清も地味に、はんにゃさんのズクダンズンブングンゲームの完コピやって死んでた。

そのあともクレイジーでファニーな夜は続き、朝まで。途中の休憩で、一緒だったカラン古賀と外の地べたに座り、一緒に呑んだ。2人きりで呑んでしっかり話すのは随分久しぶりに感じた。多分、4年ぶりかなー。昔瑞江に住んでた時は毎日一緒にいて朝まで喋ってたから。とは言っても、引くぐらい下戸で一滴も酒が駄目なあいつが呑むのは午後の紅茶ミルクティー。久しぶりに呑むわこれ、と言ってた。じゃあいつも何飲んでんだよ。いつだってチャーミングだ。

クレイジーな企画が続き、朝。エンディングで皆でその日1番ハネてたホットパンツマンってネタをした大学生の子と一緒に、ホットパンツマンを連呼した。だって奇跡のようにウケてたんだもの。なんだそのエンディング。それでもなんだか、これはもうあの夜に、あの場にいた人にしかわかんねえと思うけど、なんかもう、とてつもなかったんだよ。お客さんも演者も皆、6時間ずっと馬鹿みたいに笑ってたし、なんだかもう。病気で解散するって言ってんのに、みんな笑ってるし、最高に面白かったし、僕はよく分からんけど、人間の勝ちだと、お笑いの勝ちだと思ったんだよな。エンドロールで流れる、いつまでも終わらない引くぐらい長いシャラップの終わりの挨拶に、銀杏BOYZの東京が流れてる。僕は東京に来て、確かに夢の途中で、それを共有してる人達がいて、どうにもならない運命があって、それでも抗って、逆らって、小さな世界で闘って、誰にも知られない夜があるのだと。ふと、皆を見たらすげーいい顔してたんだよ。皆ぶっさいくでブスで汗どろどろなのに、すげーいい顔してたんだよな。きっとこんな夜を、こんな瞬間をずっと繰り返したいのだ。心臓はずっと高鳴ってる。あの光景を見てほしかったな。神様はいると思ったよ。

シャラップは体調は良くなってはないけど、解散はするけど、お笑い活動は1人で体調と相談しながらやっていくそうで。簡単には言えることではないけれど、とても嬉しい。だって面白いのだから。優しいやつに優しい世界であってほしい。


沖縄ではありがたいことに毎日舞台に立ててる。中には沖縄の方で僕たちを知ってくれてる人もいた。なんて嬉しいんだ。頑張ろうと心から思う。イオンモールの営業でネタ終わり、5歳ぐらいの男の子に、

「お願い!ゲロ吐いて!お願い!本当お願い!面白いから!ゲロ吐いて!お願い!!それか金髪にして!!!」

と懇願された。近くにいたその子のお母さんに、息子さんゲロ好きなんですか?と聞いたら、

「そんなわけないでしょ!!忘れてください!!!!!」

と、ブチ切れられた。
お笑いむずっ。忘れらんねえよ。

*****

追記

シャラップは今、シャラ〜ぺっていうまたしてもふざけた名前で、活動を続けてる。体調は万全じゃないにしろ、お笑いやってるなら万歳だ。ちなみに、大鶴肥満くんは今「ママタルト」ってコンビでやってて、たまにライブで一緒になったりすると僕はやっぱりこの夜を思い出しちゃう。そんでニヤニヤしてしまう。そりゃ思い出しちゃうよな。そんな夜だったもの。

読んでいただきありがとうございます。読んで少しでもサポートしていただける気持ちになったら幸いです。サポートは全部、お笑いに注ぎ込みます。いつもありがとうございます。言葉、全部、力になります。心臓が燃えています。今夜も走れそうです。