見出し画像

若者のすべて 2018.5.14

雨の音でぼんやり起きて、またぼんやりと眠って、自分のお腹の鳴る音で起きた時にはもう夕方だった。昨日の単独の開放感からか緊張が解けたのか、身体のあちこちが痛く、何故か腹筋も筋肉痛で、這うようにお風呂に入った。髪乾かしながら単独のアンケートを読んでたら、また寝てて。起きて、あと10分で閉店する近所のスーパーに急いでかけこんで、財布に300円しか無く、100円のイカの塩辛と、奮発して豪華に200円のレトルトカレーを買った。もらった缶ビールと一緒にカレーをかきこんだら、また倒れるように寝て、気付いたら夜は明けて、明日が今日になっていた。一体、何度寝したんだろうか。計20時間は寝てたかもしんない。合間、合間で、隣の部屋のソファで一緒に住んでる同期のタイが寝てるのを確認出来たから、ずっとこの部屋だけ時間が止まってる感じがしたけど、ちゃんと時間は過ぎてて、いやぁ寝すぎたなぁ。寝すぎたねぇと。なんだか漫画の聖お兄さんのイエスとブッダみたいな会話をして1日が終わった。いや、始まったのか。

芸人になってから8度目の春。約2ヶ月弱の間で、痺れる夜がいくつもあった。数えだしたらキリがない。いくつものたまらない夜があった。

4月21日。僕は沖縄にいた。ホテルの最上階の中華料理屋、Tシャツ短パンから着慣れないスーツに着替えて、生まれて初めて祝賀会たるものを経験した。後ろを振り向けば、絶景の海が見える窓際の席で。雨が降ってて助かった。高所恐怖症なもんで、これで景色が良すぎたら、ただでさえしまくってた緊張にブーストかかってたよ。

話をいただいたのは今年の1月で。担当の社員さんから、STORYS.JPさんとよしもとの協業企画、自分語り映像化プロジェクト『カタリエ』に文章を投稿してみないかという話だった。STORYSはビリギャルなどの作品を輩出してて、去年からよしもとと提携していて、今回、「芸人になったきっかけ」で書いてみないかとのことだった。以前からずっと僕のこの拙いブログや、単独ライブなどを評価してくれる社員の竹山さんからのお話で。断る理由など何1つないじゃないか。喜んで承諾した。

あの何もない街に生まれてから今までの。たかだか何も成してない、しがない30年の、芸人になってからの7年を。思い出して思い出して呼び起こして見つめ直して、何回も脳内のタイムマシンで戻っては、戻りすぎて涙が出てくる夜を繰り返して、いろんな人の顔を思い浮かべて、ゆっくりと丁寧に心を込めて書いた。

サイトで文章が公表されてから、思いがけない反響があった。同期や、先輩や後輩芸人、スタッフさん、社員さん、お客さん、いろんな人から良かったと声をかけてもらった。卒業してから全然会えてない地元の友達からも連絡が来た。いろんな形でエールをもらった。覚えてる、俺全部覚えてるよ。君とあん時こんな話したよな、卒業式一緒に写真撮ったよな、覚えてるの俺だけかと思ってたよ。君も覚えてくれてて、なんだよ、ずっと気にかけてくれてたのかよ。すごくすごく嬉しい。僕があなた方の言葉にどれほど嬉しかったか、涙が出るんだよいつも。本当にありがとう。

話を聞いたのは沖縄の祝賀会の1週間ぐらい前で、無限大ホールで社員の竹山さんに聞いた。
「大賞おめでとうございます。」

声にならない悲鳴が出た。受賞の発表がまだ先で公表出来ないから、発表までしばらく秘密でということで。2人で声を殺して万歳した。やっと少し恩返し出来た気がしますと言う竹山さんに。何言ってるんですか、こっちの台詞ですと。やっと今まで力になってくれた方や、応援してくれた方に少しだけ恩返し出来た気がした。僕みたいなもんを気にかけてくれた、応援してくれた、出会ってくれた全員に抱きしめてほっぺにキスしたい。何回だってありがとうと頭を下げたい。だって僕の書く文はただ、今まで出会ってくれた人との日々や夜を、酔った勢いで書きなぐってるだけの日記だもんな。なんも凄いことない。凄いのは僕と出会ってくれて、人生に混じってくれたあなた方だ。


誰にも内緒だと言うけど、我慢できず、相方の信清と単独についてくれてる後輩作家とタイにだけ伝えた。無限大ホールの隅っこで、信清に伝えると、おお、やったな!!と自分のことのように喜んでくれた。こいつの素晴らしいところは人の喜びを200で喜べるところだ。喧嘩は死ぬほどするし、ムカつくことだらけだが、こいつは多分誰よりも幸せに楽しく生きるだろう。どうか死ぬときはこいつより先に死にたい。きっとギャグかなんかやって盛り上げてくれるに違いない。先に死なれた日にゃたまらない。地獄のように泣いて長すぎる弔辞に、皆が引くに違いないからだ。


沖縄では、社員さんやSTORYSの社長の清瀬さんや、同じく大賞を受賞した須田さんと、とても熱く真っ当な酒で乾杯できた。このきっかけをくれた清瀬さんと、何歳も人生の先輩なのに、僕らは同期ですよこっからかましましょうと言ってくれる須田さんに感謝しかない。


沖縄から帰ってきて、受賞したことが発表されて、それをきっかけに知って読んでくれた先輩方やみんなにも沢山祝いの言葉をいただいた。他事務所の芸人さんからも別の現場で沢山声をかけてもらった。おんなじように道の途中で、日々をもがいて闘ってる同士たちからの声は胸に何よりも響いた。

単独の前日に、ポイズン吉田さんのオールナイトトークライブにお呼ばれした。ゲストに笑い飯の西田さん、虹の黄昏さん、僕らサンシャインという。嘘だろと思うような痺れる夜だった。小学生の頃にM-1で見た憧れの人達と、こんなにも全員尊敬してやまないスーパーおもしろ兄さん方と酒飲めて語れる夜があるとは。楽屋のモニターで吉田さんと西田さんのトークを、虹さんと4人で酒飲んで喋ったあの瞬間をなんて言えばいいんだろうか。西田さんと楽屋で信清と3人なった時に、勇気出して、

西田さんお酒は飲まれるんですか?

と聞いたら、

飲むけど、全部吐いちゃうねん。

と言う西田さんに3人で爆笑した。


吉田さんとのトークじゃ、僕のブログが好きで、更新されたら奥さんにも伝えるほどだよと言われた。僕はもう10杯は生ビール飲んでてベロベロだったけど、飛び上がるほど嬉しくて全部覚えてる。


虹の黄昏野沢さんが、帰りにベロベロでくしゃくしゃの笑顔で言ってくれた。明日単独頑張ってね。絶対上手くいくよ。だってさ、絶対上手くいくよ。


一瞬、朝方にロックンロールの神様を見た気がした。目を凝らしてもっかい見たら、メイク前のババアだった。涙がひっこんだ。


その次の日の単独ライブは、僕らがネタを5本やって、敬愛する兄さん方に審査してもらうコンテスト方式の単独で。審査員の皆さんはKOCのチャンピオンや、ファイナリストでもうコントの達人ばかりで。今までにないプレッシャーで2ヶ月間謎の頭痛と肩こり、地獄の追い込まれ方をした。はじまって見れば沢山のお客さんで、仲間の芸人たちも沢山見学に来てくれて。痺れる緊張の中、なんとか1時間を駆け抜けた。厳しく愛情のある審査をしていただいて、コメント一個一個、後でDVDで見直して、全て全部心臓に刻んだ。ネタの作り方や、見せ方の弱いところが露呈して、ネタを噛んだりもして、自分じゃまだまだだと、何も満足することは出来なかったけど、とても意味のある。意味のある夜だったとする為に。沢山の感謝を返すために。こっから、こっからまた踏ん張って駆け抜けるしかない。もっと、もっとだ。


そんなこと言ってたら、緊張の糸がとけたのか20時間寝て、1日が終わった。そう言えば今日は母の日だった。

沖縄から帰ってから、母ちゃんに電話で受賞の報告をした。よかったやんね!ととても喜んでくれた。1番とるってのは中々出来んよ、凄いことや、あんたは私の宝物や。とシラフじゃ到底言えないようなことを平気で言ってきてくれる。ありが、、とお礼を言おうした瞬間、ただ調子に乗んなよ。謙虚に、誠実にやと。毎回ちゃんと釘を刺してくれる。わかってる、わかってると繰り返した。
とりあえずその書いた紙、コピーして郵送で送ってばい。と、文明が何もない農家の嫁に、カタリエという媒体でスマホから読める、、、と説明するのも難しく、実家の兄ちゃんに聞いて、と全部を任せて電話を切った。

しばらくして、母ちゃんからメールが来た。


見たよ。父と二人で、声出して、笑い感動しました。これをきっかけに、夢が叶うように母は、御百度参りに行こうと思います。どこに行けば、いいか
わからないので、筑後の恋木神社に行くよ。だから、もし、チャンスを逃したとしても、諦めないでね☺必ずや夢叶う日が来るから太も望も、凄いやんと、いつも光のこと羨ましく思ってるし自慢して応援してるよ


なぜ毎回メールの時、一人称が母、父なのか。改行と、絵文字のタイミングも、句読点の有無も。僕が言うのもなんだが、文章としてダメ出しすればキリがないかもしれないが、僕はいつもこの人の言葉にグッときてしまう。この人の言葉には嘘がないからだ。


ただ、御百度参りて戦争に行くわけでも無いし、しかもこの恋木神社とは、僕の地元にある日本で唯一の鳥居にハートのついた、縁結びの神社で。中に入っても嘘だろぐらいハートだらけの、地元の女子中高生とカップルしかないない地元のデートスポットで。そんなところに、還暦近い農作業着のお母さんが必死の形相で御百度参りしてたら、町ぐるみの大問題になるに違いない。せっかくの青春を謳歌してるカップルに、戦時中にタイムスリップさせるのは気の毒だ。

いや、いいよ!気持ちだけ受け取るわ。ありがとう、まあすぐに売れて世界旅行プレゼントするから健康だけ気をつけて元気に仲良くいてや。
と、何年も言い続けてる強がりを返信して、涙を拭いた。

僕はまだこんな強がりしか母の日に送れてない。情けない息子だ。世界旅行はまだとうてい無理だが、近々東京旅行でもプレゼントしようかと思ってる。仲良い兄さんや同期たちに会わせたい。手料理とかは全く出来ないが、絶対好きになると思うんだよな。息子が言うのも気持ち悪いが、めちゃくちゃいい女なんだよ。


単独終わって怒涛の3連休の2日目。お金の無さに反比例する有り余る時間に目眩がした。今日はコントの設定を100個出そう。馬鹿でなんの身にもならないどうしよもないコントを。押入れから扇風機を出した。夏はもうそこまで来てる。

読んでいただきありがとうございます。読んで少しでもサポートしていただける気持ちになったら幸いです。サポートは全部、お笑いに注ぎ込みます。いつもありがとうございます。言葉、全部、力になります。心臓が燃えています。今夜も走れそうです。