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楠木正成の娘千早姫と沖田総司(創作メモ)

南北朝時代の軍記物「太平記」に出てくる宝剣「菊水」、これが沖田総司の刀「菊一文字」と同じものだったという設定を思いついた。

さて菊水が出てくる太平記の一節、「大森彦七」の筋はこうだ。
南北朝時代、北朝と南朝の戦い「湊川の戦い」で大森彦七は北朝側の侍として南朝の名将楠木正成を倒し、その刀「菊水」を奪う。
その5年後、大森彦七が川を渡ろうとすると若い娘が渡れず難儀していた。なので背中に背負うと身の丈八尺の鬼に化けた。
鬼は楠木正成の怨念の化身で、宝剣を取り戻そうと襲いかかってきたのだ。その後何度も怨念が彦七を悩ませたというのが太平記の記述。
この話をもとに明治時代に歌舞伎「大森彦七」が作られ、「新歌舞伎十八番」に選ばれている。そちらでは筋がアレンジされており、本人ではなく娘の千早姫が般若の面をかぶって仇討ちに来たことになっている。彦七はその正体に気づき、正成の最後を語り、負けたふりをして菊水の刀を返す。

で、私の創作世界では太平記と歌舞伎の設定を混ぜた。彦七を襲ったのは「本物の鬼」であり「正成の娘の千早姫」であった。
大森彦七が楠木正成の元に踏み込んだとき、そこには腹を切って息絶えた正成と一族、そしてただ一人怨念によって鬼となり家族を火葬する幼い千早姫がいた。北朝側の彦七は南朝側に引き渡すこともできず、連れて帰れば敵側の血を引くものとして殺さざるを得ない。哀れに思った彦七は楠木正成の焦げた首と刀を亡骸からもぎ取り「楠木正成討ち取ったり!」と叫んだ。自身の功名ではなく、千早姫に仇討ちという生きる理由を与えるために。
成長した千早姫と1戦交えた彦七は刀を返すが、それで終わりとはならず千早姫を危険視した室町幕府によって千早姫は封印される。
そして時は流れ、幕末になると勤王思想の高まりによって楠木正成が英雄視され千早姫もそれに呼ばれるように復活する。
千早姫も倒幕のため暗躍するが、彼女の前に立ちふさがるものが現れた。新選組の天才少年剣士「沖田総司」、そして拙作の主人公にして半人半鬼の神々の使者「日ノ本鬼子」である。
激闘の末千早姫を倒す総司と鬼子だったが、名刀「菊水」、いや「菊水一文字」を前にした総司はそれを持ち逃げしてしまう。すでに銘付きの「加州清光」を持っていたが、鎌倉から南北朝にかけて活躍した刀匠一派「一文字」の打った天下の名刀は総司からすれば本来なら手の届かない代物だった。だが宝剣を二度も盗まれる千早姫ではなかった。「剣の腕前と引き換えに寿命を削る呪い」がかかっていたのだ。
「菊水一文字」を手にした総司は凄まじく強かった。だが、新選組の最大の戦いの前に寿命が尽きてしまう。沖田総司は「菊水一文字」を決して抜かないようにという遺言と共に実家の姉に送った。
現在、千早姫は「菊水」の帰りを待っている。

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