星野源

2月21日 koe

午前3時
パソコンを開いた。

落ち込むと聞きたくなる声がある。
友達の笑い声、死んだじいちゃんの説教、必ず褒めてくれる隣の席の上司、必死に青春の中で息継ぎする初期の小出祐介、怒る上田晋也、怒られる有田哲平。それ聞く僕の笑い声。

僕の好きな人が退社する。別に同じ会社の人でもなんでもなく、たまにオフィスに来る取引先の人って程度なんだけど、僕がディレクターになって初めて一緒に仕事をした人で、僕にとっては大事な初めての人。彼氏がいるかは怖くて聞いてない。多分いる。1つ年下のその人は、かつてCAをやってたってくらいだからとっても可愛らしい人で、頭も切れる。確か今の会社で4社目かな?レコード会社にイベンター、広告代理店とか言ってた。でもそんなミーハーな職業経験では考えられないほど音楽と映画に精通してて。OGRE YOU ASSHOLEにジャーマンプログレッシブ、スプラッター映画が好みって、いやあんたどんな青春時代送って来たんだよと(※このことを考えるといつも「男の影響では?」というシンプルな疑問が脳裏に浮かんで来るので、それを振り払うのに幾分必死になる)。すごく穏やかな声をしている彼女は、関西出身。オフィスに2ヶ月ごとにしか来るか来ないかぐらいなので、いつも最初は敬語。でも話が盛り上がって来ると次第に関西弁が漏れて来て「ごめんなさい」といっつも謝る。そんなところも可愛い。2ヶ月に1度、必ず褒めてくれる隣の上司の席に座らせて延々と2人で喋ってた。

いいや。その人の魅力で終わっちゃう。落ち着け。
今日、その人が3月で会社を辞めるというのをわざわざ電話をしてくれたのがとにかく嬉しかった。

1ヶ月前に仕事変えるかもしれませんって相談をたまたま受けた時に、僕は転職の経験がないから「そんなコロコロ仕事変えて結局何になりたいんですか?」ってヘラヘラ笑って質問してみた。4、5社なんて自分には到底考えられない。そんなアホ丸出しな質問が逆に芯を食ってしまったらしい。彼女はその場でちょっと半べそをかいた。必ず褒めてくれる隣の上司の席。久々に女を泣かせてしまった(母ちゃん以外経験なし)。焦った。

「そういうストレートな事ってあまりみんな言ってくれなかったので嬉しかったです。自分自身に焦ってました。3月中にまた顔出して、ご挨拶に行かせてくださいね」

1月の終わりには転職しようと面接を受けていた会社に全て断りを入れ、今の仕事をちゃんと頑張ってみようとしていた矢先、学生の時から憧れていた仕事のオファーが急に舞い込んで来てしまったということも話してくれた。

「お電話でちゃんと伝えたかったんです。ほんま良かった。」

週明け、仕事で落ち込んでいた。

落ち込むと聞きたくなる声がある。
話す彼女、それ聞く僕の笑い声。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?