映画「ロード・オブ・ザ・リング」第1部「旅の仲間」〜映画の最後に何が起きたのか〜

パルス・ガレン;旅の仲間に何が起こったのか

 

 今回の映画の最後で一行はバラバラになってしまいます。これは、指輪の力が彼らの間に働いた故の結果ですが、指輪が旅の仲間に何をもたらし、そして一行がどのように離散したのか考えてみましょう。

 

 ラウロスの大瀑布の手前で船を岸につけ、一行はこれからどうすべきか考えます。滝を船で下るのは(幾らロリアンの船でも)無理ですから、ここから東岸に渡りモルドールへ向かう道を探すか、或いは西岸から南下しミナス・ティリス(ゴンドールの都)に向かうかです。

 

Aragorn:  We cross the lake at nightfall. Hide the boats, and continue on foot. We approach Mordor from the north.

アラゴルン:夜になったら湖を渡ろう。そして、船を隠し徒歩で旅を続けるのだ。北からモルドールに入ろうと思う。

Gimli:       Oh yes? Just a simple matter of finding our way through Emyn Muil? An impassable labyrinth of razor sharp rocks? And after that, it gets even better! The festering, stinking marshlands, as far as the eye can see. 

ギムリ:ああ、そうかい。エミン・ムイルを抜けるのはさぞかし簡単なことだろうよ。切り立った鋭い岩でできた不抜の迷宮だ。しかも、その後にはもっといいものが待っている。見渡すかぎり、うんざりするような悪臭のする沼地だぞ。

Aragorn: That is our road. I suggest you take some rest and recover your strength, Master Dwarf.

アラゴルン:それが我らのとるべき道だ。しかし、その前に少し休んで体力を回復させよう、ドワーフ殿。

Gimli:      Recover my

ギムリ:休みね・・・。

Legolas:  (to Aragorn) We should leave now.

レゴラス: (アラゴルンに)すぐに発ったほうがいい。

Aragorn: No. Orcs patrol the eastern shore. We must wait for the cover of darkness.

アラゴルン:いや、オークたちが東岸を警戒している。夜を待って、闇に紛れたほうがいい。

Legolas:   It is not the eastern shore that worries me. A shadow and a threat has been growing in my mind. Something draws near. I can feel it.

レゴラス:私が心配なのは東側ではないのです。暗い影と恐れが私の心に兆している。何かが近づいている、そう感じるのです。

Gimli:      Recover strength. (To Pippin) Pay no heed to that, young hobbit...

ギムリ:まず、体力を回復しなくては。(ピピンに)そんな予感なんぞ気にするな、なあ、ホビット君。

Merry:     Where's Frodo?

メリー:フロドはどこ?

(Aragorn sees Boromir gone as well)

(アラゴルンはボロミアもいないことに気付く)

 

 この時点では、アラゴルンは夜を待って東岸に渡り、みんなでモルドールに向かおうと考えていることがわかります。原作では後の行程についてのやり取りがロリアンを出発した後に何度かありますが、映画にはありません(カットされたらしい・・・)。そこで、原作から補完して考えますと、「北からモルドールへ」と考えるアラゴルンに対して、ボロミアはこのまま南下してイシリエン(河の下流でモルドールの西側にあたる)まで行き、西からモルドールに入ろう、と主張していたでしょう(イシリエンは弟が守っているはずです)。南下すればゴンドールに近づくことにもなりますし、ボロミア自身はゴンドールを守るためにミナス・ティリスに戻るつもりだと原作では言っています。

 

 アラゴルンの提案した道がいかに困難なものか、ギムリが突っかかるように話ながら説明しています。エミン・ムイルの切り立った岩山、悪臭漂う沼地・・・。いやもう、こいつぁサイコーだぜ、といった感じです。もちろんギムリはそうは言いながらも、一行がこの道を選択すれば一緒に行くつもりだったでしょうが、運命のいたずらで結局ギムリは別の道を行くことになり、フロドとサムがこの道を選ぶことになります。

 

 「夜まで休もう」アラゴルンはそう提案し、ギムリも賛成します。もっともギムリの方は「休んで体力を回復したからといって道が楽になるわけじゃないが・・・。」と苦笑気味です(多分。訳にちょっと自信がない)。一方、レゴラスはすぐに発つべきだと主張します。エルフのもつ予見力が彼に暗い予感をもたらしているのです。そのとき一行はフロドとボロミアがいなくなっていることに気づきます。そして、事態はここから急展開を迎えることになります。

 

 

 一行から少し離れた場所でフロドはボロミアと出会います。ボロミアは薪を抱え、意味あり気に微笑を浮かべながらフロドに近づいてきます。

 

Boromir:   None of us should wander alone. You least of all. So much depends on you. Frodo? I know why you seek solitude. You suffer. I see it day by day. You sure you do not suffer needlessly? There are other ways, Frodo. Other paths that we might take.

ボロミア:我々は一人で歩き回ったりしないほうがいい。特に君はそうだ。君には大きな使命が課せられているからな。フロドよ。わたしにはどうして君が一人になりたいのかわかるよ。君は苦しんでいる。わたしはそんな君を毎日見ているんだ。だが、無駄に苦しむ必要はないんじゃないか?別の考え方もあるんだ、フロド。我らが取りうる違う道がな。

Frodo:      I know what you would say, and it would seem like wisdom, but for the warning in my heart.

フロド:あなたが何を言いたいのかはわかります。もし、わたしの心に警告がなければ、その言葉は賢明な言葉のように響くのですが。

Boromir:   Warning? Against what? We're all afraid, Frodo, but to let that fear drive us to destroy what hope we have. Don't you see, it's madness. 

ボロミア:警告?何に対して?わたしたちは皆、恐れを抱いている、フロドよ、だが、我々は恐怖に駆り立てられて希望を破壊しようとしているのだ。正気の沙汰じゃない、そう思わないか?

Frodo:     There is no other way.

フロド: それ以外に方法はないのです。

Boromir:  I ask only for the strength to defend my people! If you would but lend me the ring

ボロミア:わたしが言っているのは、指輪の力を我が民を守るということに限って使うということだ!君さえよければ指輪をわたしに貸してくれ。

Frodo:     (Backs away) No!

フロド:(後ずさりして)だめです!

Boromir:  Why do you recoil? I am no thief!

ボロミア:なぜ逃げようとする?わたしは盗賊ではないぞ!

Frodo:     You are not yourself!

フロド: 今のあなたは本来のあなたじゃない! 

Boromir:   What chance do you think you have? They will find you. They will take the ring. And you will beg for death before the end! You fool! It is not yours save by a happenstance. It should have been mine!

 (Lunges forward towards Frodo)  Give me the ring! Give it to me!

ボロミア:我々にどんなチャンスがあるというんだ?やつらはおまえを見つけ、指輪を奪うだろう。そして、おまえは死んだほうがマシ、ということになるぞ。愚か者め!指輪は偶然おまえの手に渡っただけだ。本当ならわたしのものだ!

(フロドに襲いかかる)指輪をよこせ!そいつをわたしによこせ!

(Boromir manages to get hold of Frodo)

(ボロミアはフロドを捕まえようとする)

Frodo:     No!

フロド:いやだ!

(Frodo disappears, and hits Boromir) 

(フロドは姿を消し、ボロミアを突き飛ばす)

Boromir:   I see your mind!! You will take the ring to Sauron! You will betray us! You go to your death! And the death of us all! Curse you!! And all the Halflings!

ボロミア:貴様の魂胆が読めたぞ!!貴様は指輪をサウロンに持っていくつもりだな!我々を売り飛ばす気だ!どうせ殺されるのに!我々も道連れにする気だな!呪われろ!チビどもめ、皆、呪われてしまえ!

(Frodo, still invisible, hits Boromir again).

(フロドは姿を消したまま、再びボロミアを突き飛ばす)

Boromir:  (His anger passes, and he says softly:) Frodo? Frodo. I must find him. Please, Frodo

(ボロミアは我に返り、優しく言う)フロド、フロド。ああ、わたしは彼を探さなくては。お願いだ、姿を見せてくれ、フロド。

 

 この場面で、ボロミアは指輪の力によって豹変し、フロドに襲いかかります。ゴンドールに指輪を持って帰り、その力を利用して国民を守りたい。指輪は彼のそんな純粋な責任感につけ込み、その思いをねじ曲げてとうとうこのような行動をとらせるのです。「悪ならざるところのない」指輪の、恐ろしい力が明らかになる瞬間なのです。

 フロドは指輪を使って姿を消し、ボロミアから逃れます。そして豹変したボロミアの姿から、ガラドリエルが彼に告げた「指輪は仲間を一人、また一人と滅ぼしていくだろう」という言葉の真の意味を理解するのです。指輪に支配された眼前のボロミアには、彼本来の姿は微塵もありません。「You are not yourself!」というセリフには、「本当のボロミアはこんな人じゃないはずなのに!(指輪の魔力で変えられてしまった!)」というフロドの嘆きが込められています。

 フロドが逃げてからボロミアは我に返ります。そして自分がしたことに気付き、激しく後悔するのです。しかし、ボロミアに過ちを嘆く暇も与えず、オークたちの襲撃によって、事態は風雲急を告げることになります。

 

 

Aragorn: Frodo?

アラゴルン:フロド?

Frodo:     It has taken Boromir.

フロド:ボロミアが指輪の魔力に捕われてしまった。

Aragorn: Where is the ring? 

アラゴルン:指輪はどこだ?

Frodo:     Stay away!

フロド:来ないで!

Aragorn: Frodo! I swore to protect you.

アラゴルン:フロド!わたしはあなたを守ると誓ったのだ。

Frodo:      Can you protect me from yourself?! (shows him the ring) Would you destroy it? (He puts his hand out, as if offering the ring to Aragorn).

フロド:じゃあ、あなたは絶対に大丈夫なんですか?(指輪を見せる)この指輪を壊すことが出来ますか?(手のひらに指輪をのせ、アラゴルンの方にさしだす)

(アラゴルン・・・エレスサール・・・。指輪が囁きかける)

Aragorn:   (Aragorn kneels beside Frodo, and closes Frodo's hand over the ring.)

      I would have gone with you to the end. Into the very fires of Mordor.

アラゴルン:(アラゴルンはフロドの前にひざまずき、フロドの手を指輪とともに閉じる)

      君と共に最後まで、モルドールの焔の中まで行きたかった。

Frodo:     I know. Look after the others. Especially Sam. He will not understand. 

フロド:ええ、わかってます。他の人たちをよろしく。特にサムを。サムはわかってくれないだろうけど。

(Orcs can bee seen coming)

(オークたちがやって来る)

Aragorn: Come, Frodo. Run. RUN!

アラゴルン:行け、フロド。走れ、走れ!

(Aragorn comes out and faces an orc army. He fights them)

(アラゴルンは振り返り、オーク軍と向かい合う。彼はオーク達と戦う)

 

 フロドがアラゴルンに「とうとうボロミアは(指輪に誘惑され指輪の魔力に)捕らえられてしまった!」と言い、それに対しアラゴルンは「指輪はどこだ」と答えます。アラゴルンはボロミアが指輪への誘惑に駆られて、フロドから指輪を奪ったのでは、と心配したわけです。しかし、そう心配するアラゴルンすら「来ないで!」とフロドは拒否します(「指輪はどこだ」という質問が、指輪の力で猜疑心がかき立てられたフロドには「指輪はどこだ、俺によこせ。」という意味に聞こえたのかもしれません)。フロドが自分を拒んだことで、「アラゴルンも指輪の誘惑に負けて自分を襲うのでは」とフロドが自分を恐れ疑っていることをアラゴルンは知ります。そこで彼は「フロド!わたしはあなたを守ると(エルロンドの会議で)誓ったのだ」と言って、フロドを安心させようとします。

 しかし、フロドの心はなおも揺れます。ガラドリエルがフロドに言った「指輪は仲間を一人、また一人と滅ぼしていく・・・。」という言葉が、彼の脳裏に甦ってきます。ボロミアは滅ぼされました。次はアラゴルンかもしれません。彼は本当に指輪の力に負けることなく、最後までわたしを守ることができるのだろうか。その気持ちが次のセリフになります。指輪の力のために、信頼すべき仲間すら疑わなくてはならない、悲しい言葉です。

「あなたは指輪の魔力に抗して最後までわたしを守りきれますか?そもそも指輪を破壊することがあなたにはできますか?」

 フロドは指輪をアラゴルンに突きつけます。指輪からは「アラゴルン・・・エレスサール(エルフの石;アラゴルンの別名)・・・」という誘惑の囁きが聞こえてきます。

 その瞬間、アラゴルンはフロドが恐れているものがいったい何か、ということを悟ります。『指輪はボロミアだけでなく自分をも誘惑している。わたしの先祖、イシルドゥアは指輪に誘惑され、その結果滅びの道へと至った。自分の血には同じ弱さがある。同じことが起こりうるのだ。まさにそのことをフロドは恐れているのだ。指輪が仲間達を一人、また一人と堕落させ、滅ぼしていくことを。』

 その恐れが現実のものとならないために、フロドがいったい何をしようとしているのか、アラゴルンはそのことにも思い至ります。『指輪が仲間の内にあるかぎり、指輪の力が仲間達に常に働き掛け、誘惑し堕落させようとするだろう。仲間達を指輪の魔力から守るためには、自分が一人で、仲間から離れてモルドールに行かねばならない、そうフロドは決意したのだ。』そのことが次のセリフになります。

「あなたと最後まで、モルドールの焔の中まで共に行きたかった。」(でも、フロド、あなたが一人で行くと決意したのなら、その気持ちを尊重するよ。)もうこれ以上共に行けない。苦渋の決断をアラゴルンはします。

 しかし、フロドはアラゴルンが自分の気持ちを理解してくれたことを知り、今まで張りつめていた気持ちを緩めてアラゴルンに言います。

「わかってます。みんなによろしく。特にサムに。でも、サムは理解してくれないだろうなあ。」(アラゴルン、わたしと一緒に来られないことをあなたが残念に思ってくれる気持ちはわかります。でも、僕は一人で行きます。それが指輪所持者としての僕の決断なんです。みんなには会わずに行きます。会えばみんな一緒に行く、って絶対言うから。特にサムは。みんなを巻き込まないために、このまま一人で行きます。みんなによろしく伝えてください、アラゴルン。ああ、でも僕の気持ちをサムはわかってくれるだろうか。)

 アラゴルンは、指輪の破棄という重荷をただ一人で背負っていくという、フロドの覚悟に敬意を表しながら彼をそっと見やります。しかし、次にフロドの剣が光っているのを見て、オークがすぐそばに迫っていることに気がつきます。かくなるうえは、フロドを無事に送りだしてやること、これがフロドのために仲間として出来る最後の仕事です。アラゴルンはフロドに叫びます。「行け!フロド。走れ、走れ!」

 フロドを逃がすとアラゴルンはオーク達の方を振り返ります。「フロドが去るまで貴様らを決して通しはせぬ。」決意を秘めた彼は剣をゆっくりとかかげ、たった一人で敢然とオークの群れに立ち向かっていきます(この場面のアラゴルン、めちゃめちゃ恰好いいですよね・・・)。

 

 

 フロドは次にメリーとピピンに遭遇します。偶然にしてはちょっとでき過ぎという気もしますが、そこは目をつぶって、と。

 

(Frodo can be seen running away. He hides behind a tree. Merry and Pippin can be seen in a more safe hiding place) 

(フロドは逃げようとして、木の後ろに隠れる。メリーとピピンがもっと安全な場所からそれを見ている)

Merry:     Frodo!

メリー:フロド!

Pippin:     Hide here, quick! Come on!

ピピン:ここに隠れろ、はやく!こっちへ!

(Frodo shakes his head)

(フロドは頭を振る)

Pippin:     What's he doing?

ピピン:何してるんだ?

(Frodo shakes his head again)

(フロドは再び頭を振る)

Merry:     He's leaving!

メリー:一人で行くつもりだ!

Pippin:     NO!

ピピン:そんなのダメだ!

 (Pippin jumps out of his hiding place, and Merry follows. Orcs can be seen coming). 

(ピピンが飛び出し、メリーが後に続く。オークたちがやって来る)

Merry:     Run, Frodo. Go!

メリー:走れ、フロド。行け!

Merry:     (waving at orcs) Hey, hey you! Over here!

メリー:(手を振って)ほらほら、ここだ!こっちだ!

Pippin:     Over here! Over here! This way!

ピピン:ここだ、ここだ!こっちだぞ!

Pippin:     It's working!

ピピン:うまくいった!

Merry:     I know it's working! Run!

メリー:よし、いいぞ。走れ!

 

 今までは一行の中で単なる癒し系メンバーだったメリーとピピンですが、ここで彼らが本当は明敏なホビットたちであるということを示します。はじめは一緒に隠れようとフロドを呼ぶ二人ですが、フロドが悲しげに首を振り拒否したことで、彼が何をするつもりなのかということに思い至ります。「君たちとはもう一緒には行けない。」フロドは無言でそう告げているのです。

「(一人で行くなんて)ダメだ!」思わず隠れ場所から飛び出してしまう二人ですが、周りを見るとたくさんのオークが近づいてきます。危機が迫っていることを知ったメリーは、フロドのために自分に何が出来るか、一瞬考えを巡らせます(彼らも「うっかり八兵衛」としてではなく、フロドを守る仲間として一行に加わったはず・・・ですから)。オークにはホビットたちを見分けることは出来ないでしょう。メリーの出した結論は自分たちが囮となってフロドを逃がそう、というものでした。彼は直ちに行動に出ます。ピピンもメリーの考えにすぐに気が付き、歩調を合わせてオークをおびき寄せます。そして二人はオークを引き連れながらフロドとは反対方向に走り出します。

 

 

 まんまとオークをおびき出すことに成功した二人ですが、その代償としてオークの群れに取り囲まれてしまいます。こりゃもうダメかな、二人がそう思ったとき、ボロミアが彼らを救うためにやって来ます。ボロミアは自分がフロドにしてしまったことを償うために、メリーとピピンを庇いながら必死で奮戦します。しかし、とうとう最後にラーツ(オークの大将)の放った矢がボロミアを捉えます。2度までは立ち上がったボロミアですが、3本目の矢を受けて力尽き、そしてゴンドールの角笛は真っ二つに割れました。敬愛するボロミアのそんな姿を見たメリーとピピンは我を失ってオークに向かっていきますが(そう、彼らにとってボロミアは兄のように本当に敬愛する存在なのです)、屈強なウルク・ハイたちにはとても敵わず、捕らえられ連れ去られていきます。力尽き、連れ去られる彼らを見送ることしか出来ないボロミア。そんなボロミアをウルク・ハイたちは無視して去っていきます。そして、膝をつきもはや立ち上がれないボロミアにとどめを刺すために、頭を狙い矢をつがえるラーツ。ですが、次の瞬間、ボロミアの角笛の音に応えてアラゴルンが駆けつけます。

 

A last orc is about to shoot Boromir in the head, but just then, Aragorn comes to his rescue. He fights the orc, managing to cut off its head. Then he runs back to Boromir.

最後のオークがボロミアの頭に向かって矢を放とうとした瞬間、アラゴルンが救援にやって来る。彼はオークと闘い、首をすっ飛ばして倒す。そして、アラゴルンはボロミアのもとに駆け寄る。

Boromir:  They took the little ones.

ボロミア:奴等は小さい人(ホビットたち)を捕まえていった。

Aragorn: Stay still 

アラゴルン:そのまま動くな。

Boromir:  Frodo. Where is Frodo

ボロミア:フロド、フロドはどこだ?

Aragorn: I let Frodo go.

アラゴルン:私はフロドを行かせた。

Boromir:  Then you did what I could not. I tried to take the ring from him

ボロミア:ああ、あなたは私には出来なかったことを為したのだな。私はフロドから指輪を奪おうとしたのだ。

Aragorn: The ring is beyond our reach now.

アラゴルン:指輪はもはや我々の手の届くところにはない。

Boromir:  Forgive me. I did not see it. I have failed you all.

ボロミア:許してくれ。私には分かっていなかった。全てを無にしてしまったのだ。

Aragorn: No, Boromir. You fought bravely. You have kept your honour.

アラゴルン:いいや、ボロミア。あなたは勇敢に戦った。誇りを守ったのだ。

(Is about to take an arrow out of him). 

(ボロミアから矢を抜こうとする)

Boromir:   Leave it! It is over. The world of men will fall. And the whole world will come to darkness. My city to ruin.

ボロミア:そっとしておいてくれ。もうおしまいだ。人間の世は滅ぶだろう。そして世界は全て闇に覆われるのだ。私の都も灰燼と帰すだろう。

Aragorn:  I do not know what strength is in my blood. But I swear to you, I will not let the White City fall. Nor our people fail.

アラゴルン:私の血にどのような力が宿っているのかは知らぬが、私はあなたに誓おう。白の街も我らの民も滅びるままにはせぬ。

Boromir:  Our people. Our people.

ボロミア:おお、我ら、我らの民と。

(He reaches for his sword, which Aragorn hands to him. He clasps it to his chest)

(彼は剣に手を伸ばし、アラゴルンが彼に剣を手渡す。ボロミアは剣を胸に当てる)

Boromir:  I would have followed you , my brother. My captain. My king.

ボロミア:あなたに従っていきたかった、我が兄弟、我が長、我が王よ。

(He dies)  

(彼は死ぬ)

Aragorn: Be at peace, son of Gondor.

アラゴルン:安らかに眠れ、ゴンドールの子よ。

(He kisses his forehead)

(彼はボロミアの額に口づけをする)

 

 この部分はダブっていますが・・・。

 

 ここで、アラゴルンが指輪の誘惑をはねのけフロドを行かせたことで、ボロミアはアラゴルンにボロミア自身にはなかった意志の強さを見いだします。これは、(祖国を愛するが故にその思いを指輪にねじ曲げられた結果だとしても)ボロミアには出来なかったことでした。このことによって、ボロミアはアラゴルンが自分より強い人間であることを認めるのです。

 あなたと違って自分は指輪の誘惑に負けてしまった、指輪の恐ろしさを自分は本当の意味では理解していなかった、そんな悔恨の念が謝罪の言葉となってボロミアの口をついて出ます。しかし、アラゴルンはボロミアをけして責めたりしません。それは、アラゴルンが人間の弱さというものを知っているからです。アラゴルン自身が人間の弱さ(そしてその弱さを受け継ぐ血筋)というものにずっと苦しんできたからです。ボロミアがなぜそれほどまでに指輪の力を欲したのか、仲間として旅を共に続けるうちに、ボロミアの気持ちを痛いほど理解したアラゴルンからは、けしてボロミアを責めるような言葉は出てこないのです。

 アラゴルンは優しく語りかけながら矢を抜こうとします。ですが、ボロミアはその手を拒否します。死にゆく彼の心を絶望が覆うからです。自分はここで死に、都は守り手を失い灰燼と帰すだろう。『白の都は、人間の世はもうおしまいだ。ガラドリエルは「まだ希望は残されている」と言ったが、もはやゴンドールにはなんの希望も残っていない。』ボロミアが絶望したとき、再びアラゴルンは語りかけます。

「私の血にどのような力が宿っているのかはわからない。しかし、私はあなたに誓おう、白の都も我らの民も滅びるままにはせぬ。」

 この瞬間、アラゴルンは自らを(イシルドゥアの末裔という)血統の呪縛から解き放ち、死んでいくボロミアに対し、ゴンドール王として民を守ることを誓います。今まで人間の弱さというものに迷いを覚えていたアラゴルンが、ようやく自分自身の運命について決断するのです。その言葉にボロミアは「ゴンドールに残されていた希望」が本当は何であったのかを悟ります。それは指輪の力ではありませんでした。

 ボロミアは答えます。「おお、『我らの民』と言われるのか、アラゴルンよ。そう、ゴンドールの民は、王であるあなたと執政(の跡継ぎ)である私、我らの民なのです。」(いわゆる「noblesse oblige」(高貴なるものの責務)というものでしょう。その責務を果たす(=自分たちの民を守護する)ことをアラゴルンはボロミアに誓ったのです)ボロミアはアラゴルンを自分の上に立つ王であると認め、執政の子として主君に忠誠を誓うために剣を探し求めます(西洋の騎士がよく行いますね)。ボロミアの意図を悟ったアラゴルンは、落ちていた剣をボロミアに握らせます。

 そして、ゴンドールの王たるべきアラゴルンに、ボロミアは剣を胸に当てて忠誠を誓いながら「我が王よ」と呼びかけ、自分の代わりにゴンドールを守護してくれることを託して散っていくのです。我が主君が愛する祖国を必ず守ってくれると信じ、絶望から解き放たれ、心安らかに笑みを浮かべながら・・・。

 

 

 一方、メリーやピピン、ボロミアの犠牲のおかげでフロドは首尾よく船のところまで逃げ延びることに成功します。そしてフロドは自らの決意に従い、一人で船を出そうとします。しかし、ただ一人フロドの決意を考え当てたサムが、フロドについて行くためにそこへ駆け戻ってきたのでした(この場面、原作通りサムがフロドの考えを見抜くセリフが欲しかった・・・)。

 

Sam:       (Is running through the bushes, trying to find Frodo)  Frodo!

サム:(薮を抜けて、フロドを探し求めて走ってくる)フロド様!

Frodo is seen holding the ring on the palm of his hand.

フロドは指輪を掌の上に載せている。

 

FLASHBACK :回想シーン

Frodo:     I wish the ring had never come to me. I wish none of this had happened

フロド:指輪がわたしのところに来なければよかったのに。こんなはずじゃなかった。

Gandalf:   So do all who live to see such times, but that is not for them to decide. All you have to decide is what to do with the time that is given to you.

ガンダルフ:こういう時代にめぐりあわせると、みなそう思うものだが、選ばれし運命を今更どうこうすることは出来ぬ。それより、いま、自分が為すべきことを考えるのじゃ。

END OF FLASHBACK :回想シーン終わり

 

(Frodo closes his hand over the ring, and sets out in one of the boats) 

(フロドは指輪を握りしめ、ボートで漕ぎ出す)

Sam:       (Reaches the shore) Frodo, no!!!

サム:(岸に着く)フロドさまぁ、待ってくだせえ!

(He enters the water)

(河に飛び込む)

Frodo:     (Softly, to himself) No, Sam.

     (優しく、つぶやく)ダメだよ、サム。

     (To Sam) Go back, Sam. I'm going to Mordor alone. 

     (サムに)戻れ、サム。わたしは一人でモルドールに行く。

Sam:       (wading deeper into the water)

     (水が深くなってくる)

    Of course you are... And I'm coming with you!!

     もちろんですだ。そして、おらも一緒に行く!!

Frodo:     You can't swim. Sam! (Sam's head goes under water) SAM! 

フロド:おまえは泳げないじゃないか、サム!(サムが水没する)あぁっ、サム!!

(Frodo rows the boat back. Sam is under water, his right hand reaching upwards. Then Frodo's hand appears in the water, and it grabs Sam's. Frodo pulls Sam into the boat).

(フロドはボートを戻す。サムは水中に沈み、右手を上に伸ばす。フロドの手がサムを掴み、ボートに引っぱり上げる)

Sam:     I made a promise, Mr Frodo. A promise. Don't you leave him Samwise Gamgee. And I don't mean to. I don't mean to.

サム:  おらは約束したんです、フロドの旦那。約束してきたんです。フロド様から離れちゃなんねえぞ、サムワイズ・ギャムジーよ、って。そして、そんなことはしねえ、絶対にしちゃならねえ、って。

Frodo:     Oh, Sam.

フロド:ああ、サム。

(They hug each other) Come on, then.

(お互いを抱きしめあう)じゃあ、二人で行こう。

 

(注;サムの言い回しは日本語訳に準拠)

 

 フロドはガンダルフとのモリアでの会話を思い起こし、「今、自分が為すべきこと」、すなわち「仲間を守るために一人でモルドールに向かうこと」という決意をもう一度確認します。一方、サムも自分の約束を果たすために、川に飛び込んでフロドを追います。泳げないために溺れそうになったサムをフロドはボートに引き上げて助けます。サムは必死に訴えます。「けしてフロド様を置いていったりしない。絶対にフロド様と一緒に行くんだ。自分はそう約束してきたんだ。」と。

 モルドールまでフロドについて行く、何があってもフロドとともに行く、自分はそう決めている、とサムは言います。ガンダルフと約束したのです(野菜泥棒をしているメリーとピピンに出会う前のトウモロコシ畑のシーンで、サム自身が「ガンダルフと約束した」と説明しています。そこでは「I don’t mean to.」という、今回と同じセリフが使用されています)。そう訴えるサムの声には「たとえフロド様の命令でも絶対に戻らない」という力があります(この場面のショーン・アスティンの声には本当に力があります)。その言葉に心を動かされたフロドはサムを受け入れ、「じゃあ、共に行こう」と言うのです。そして二人は旅立っていきます。モルドールに向けて。

 

 

 フロドとサムは旅立ち、ボロミアは逝き、メリーとピピンは攫われました。9人で出発した旅の仲間はとうとう3人になってしまいます。

 

Legolas:  Hurry! Frodo and Sam have reached the eastern shore. (He begins to push a boat out into the water)

レゴラス:急がなきゃ!フロドとサムはもう東岸に着いていますよ。(船を湖に押し出そうとする)

(Aragorn makes no sign of following.)

(アラゴルンは追う素振りを見せない)

Legolas:  You mean not to follow them.

レゴラス:追わないつもりなんですね。

Aragorn: Frodo's fate is no longer in our hands.

アラゴルン:フロドたちの運命はもはや我らの手の内にはない。

Gimli:      Then it has all been in vain. The fellowship has failed.

ギムリ:じゃあ、全ては無駄、旅の仲間は失敗というわけか。

Aragorn:  (Walk over to Legolas and Gimli. He places his hands on their shoulders).

     Not if we hold true to each other. 

アラゴルン:(レゴラスとギムリに歩み寄り、二人の肩に手を置く)

       いや、互いの絆が残っているかぎり、旅の仲間は終わりではない。

Gimli:      (Places his hand onto Aragorn's)

ギムリ:(手をアラゴルンに重ねる)

Aragorn:  We will not abandon Merry and Pippin to torment and death. Not while we have strength left. Leave all that can be spared behind. We travel light. Let's hunt some orcs.

アラゴルン:我らに力が残されているかぎり、メリーとピピンを見捨てるわけにはいかない。要らぬものは置いていけ。身軽に旅をするのだ。オークたちを追いかけるぞ。

Gimlil:      YEAH!!!

ギムリ:おぉっ、そうだとも!!

Legolas:  (Smiles)

レゴラス:(微笑む)

(They run off)

(彼らは走り去る)

 

 レゴラスは当初の目的にしたがってフロドを守るために船で彼らを追いかけようとします。しかし、既にフロドと別れる決意をしたアラゴルンは、二人を追いかけようとはしません。「彼らの運命はもはや我らの手の内にはない。」フロドとサムはそれぞれ自分の運命にしたがって一行から離れていったのです。アラゴルンはそのことを言外に伝えます。

 「じゃあ、旅の仲間は失敗だったというわけか。」彼らはフロドを守るために集まったわけですから、フロドが去った今、ギムリがそう言うのはもっともです。しかし、アラゴルンはそれを否定します。

「我らに絆が残るかぎり、旅の仲間はまだ終わりではない。」

 この絆で固く結ばれた「我ら」は残された3人のことだけではないでしょう。攫われたメリーとピピン、去っていったフロドとサム、そして死んでいったボロミア(や落ちていったガンダルフ)さえも含む意味で「我ら」なのです。そして、彼ら9人が共有する「Fellowship」というものは、たった一言で表すことが出来るような浅薄なものではないはずです。彼らは生死を共にしてきた、真の意味で「仲間」なのですから。

 『残念ながらフロドとサムの運命は自分たちからは離れた。しかし、メリーとピピンの運命は我々から分かれてしまったわけではない。』たとえ一緒でなくても、互いに絆があると信ずるかぎりメリーとピピンは仲間なのです。アラゴルンは、『旅の仲間はこれで終わりではなく、まだやるべきことがある。メリーとピピンをオークから助け出そう』と最後に残った二人に訴えます。そして、ギムリとレゴラスはそれぞれのやり方でアラゴルンの思いに応えます。ギムリはドワーフらしい力強い声で、レゴラスは端然と微笑んで。

 

 

Frodo and Sam are seen looking over to Mordor

フロドとサムは遥かなモルドールを見やる

Frodo:     Mordor. I hope the others find a safer road.

フロド:モルドールか。他の仲間たちの道は僕らより良いものでありますように。

Sam:       Strider will look after them.

サム:馳夫さん(注;アラゴルンのこと)がちゃんと面倒を見てくれますよ。

Frodo:     I don't suppose we'll ever see them again. 

フロド:もう、みんなと会うことはないだろうなあ。

Sam:       We may yet, Mr Frodo. We may.

サム:また会えますよ、フロドの旦那。きっと。

Frodo:   Sam.  (He smiles)

I'm glad you're with me.

フロド:サム。(微笑んで)

    おまえが一緒にいてくれて良かった。

 

(訳注;映画「韋駄天」=小説版日本語訳「馳夫」=原書「Strider」=アラゴルン です)

 

 フロドとサムはエミン・ムイルの山中から遠くモルドールを望見します。暗い闇に覆われた国です。そこに向かう二人の道は、希望よりも絶望の方が多い道でしょう。でも、他のみんなにはもっと希望があるように、そんな気持ちがフロドの口をついて出ます。加えて、みんなにはもう会えないだろう、そんな絶望的な考えもフロドの胸中を去来します。フロドの心は目の前の道同様、暗くなっていきます。

 そんなフロドをサムは精いっぱい励まします。シンプルな言葉ですが、その言葉にはフロドを思う気持ちが溢れています。そんなサムの気持ちに触れたフロドは、すぐそばにサムがいることの意味、そしてそれが自分に重荷を背負う力を与えてくれることを悟ります。最後のセリフ、心の底からフロドは言います。

「サム、おまえがともにいてくれて本当に良かった。」

 

 〜完〜

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