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ChatGPTが牽引する生成AIブームはどう変化するのか?グローバル企業が注目する技術トレンド

かつてSF映画の舞台装置のひとつであったAIは、今や私たちの生活を支え、滑らかにする、日常生活に組み込まれたツールとして慣れ親しまれています。これまでも研究開発現場では生成AIへの注目は大きなものでしたが、OpenAI社のChatGPTローンチにより生活者にまで技術が普及し、ブームと呼ばれるほどビジネスシーンでも盛んに取り上げられています。

グローバルに及ぶ生成AIブームの潮流を読むには、国内の変化だけでなく、他国の最新事例にまで目を向けねばなりません。そこで本記事では、AironWorks 代表・寺田 彼日さんと、Sun* CTOs・嘉戸裕希さんの対談をお届けします。

AironWorksは、イスラエルに開発拠点を置き、AIを用いた次世代サイバーセキュリティプラットフォームを開発する企業です。Sun*は、ベトナム、インドネシア、マレーシアに技術教育の提供を行いながら、ベトナムのR&D組織でのAIの研究開発にも注力しています。グローバル展開する企業のファーストランナーによる生成AIスタートアップの事例や技術トレンドに関するディスカッションから、生成AIブームの今後を見据えました。


生成AIブームの起こりと転換点

寺田:グローバルには、セキュリティの訓練を行う教育プラットフォームがすでにいくつか登場していますが、生成AIを活用した高度な自動化・最適化を実装したプラットフォーム開発に成功しているのは我が社だけです。我々が開発を始めたのは2020年。その前年から、テックトレンドにメタバースやWeb3といったキーワードが登場しています。特に2021年にFacebook社が社名をMetaに改称したタイミングで、検索エンジン上でのデータ量が跳ね上がりました。そして生成AIのブームのさらなる隆起は、2022年11月、OpenAIのChatGPTローンチによるところが大きいですね。

ChatGPTの登場は、我々のビジネスにとっては追い風となったんです。開発初期の2020年頃は投資家に、我々のセキュリティサービスを「AIとAIを敵対的に学ばせることで、強化していくんです」と説明しても、技術のシステムが伝わりづらかった。それが今は、「ChatGPT的に、ハッカーが攻撃をつくってくれるシステムですよ」と言えば、すんなりとイメージを共有できます。

嘉戸:今年(2023年)の春頃にさらに生成AIブームが盛り上がりを見せたのは、日本でのChatGPTの有料化の時期だと記憶しています。。

実は、2021年頃、Googleなどの企業が、現在のChatGPTに近い技術を開発していたんです。しかし、当時は「あまりにインパクトが大きな技術だから、世に出せない」と判断されていました。技術自体は、さまざまな企業が開発を繰り返していたんです。それがやっと、多くの人が触れられるサービスとなって登場したのがChatGPT。つまり、生成AI自体は、そんなに目新しい技術ではないんですよね。計算機によるチャットはかつては、“人工無能”と呼ばれた時代もありましたが、ChatGPTはまるで人間と会話しているかのように自然言語を操るところが相当な衝撃となりました。

4月には、AIの急速な発達による人類への影響を危惧した専門家たちが、開発にブレーキを掛けようと働きかけた動きもありました。しかし、効果は希薄だったと思います。むしろどの企業もアクセルを全開にしている状態。なので今後も生成AIの技術は拡張し、適応領域が広がっていくと予想します。

寺田:私は、生成AIはインターネットのインフラに近いものだと捉えています。エンジニアから見て、今後の生成AIブームはどのような潮流を辿ると思いますか?

嘉戸:人工知能やAIといったキーワードは、時代によって指し示すものが変化します。古典的な制御工学の技術をエアコンに用いて“AI搭載エアコン”という謳い文句で販売していた時代もありましたが、今、それを謳い文句にすると違和感がありますよね。。また、深層学習による文字認識が最先端技術だった2013年は、AIといえばCNNや、RNNでした。最近は、当時の技術をAIと表現すると「ちょっと古いよね」と思われてしまうことでしょう。

新しいものが、新しいAIとして認識されていく。そしてある程度熟した技術は、AIと呼ばれずに日常生活に溶け込んでいくのではないでしょうか。

寺田:キーワードとしてのITに似ていますね。かつては“IT系企業”がカテゴリーとして存在していましたが、今ではITを活用していない企業なんてありませんから、IT系企業がどのような企業を表現するのか曖昧になりました。

嘉戸:全く同じ構図だと思います。

寺田:生成AIがブームとなっているからこそ、近い未来ではAIというキーワードが使われなくなっているかもしれませんね。

生成AIの台頭で日本企業は加速できるか

寺田:VCはトレンドが大好きなので、ブームが起こっているところへの投資が盛んです。日本だけでなく、アメリカでもイスラエルでも、「生成AI系スタートアップです」と口にするだけで、VCが耳を傾けてくれるようになることも。イスラエルにTLV Partnersという、生成AI領域にアクティブに投資しているVCがあります。TLV Partnersが作成したスタートアップマップに登録された生成AIを事業とした企業は57社あり、うち17社がグローバル展開をするユニコーン企業です。

みなさんは、紛争関連のニュースでイスラエルを目にする機会が多いのではないでしょうか。外的圧力の強い国なので、新しい技術を活用して自衛に活かすことを国が積極的に推奨しています。歴史の長いMobileye社は、アインシュタインが設立したヘブライ大学で研究していた画像解析技術を用いて、自動車衝突防止システムの開発を進めていました。コアの分析アルゴリズムの研究が活発な国なんです。最近では、言語的なモデルを作る企業が増え始めた印象があります。

グローバルで流行っているAI技術で、嘉戸さんが注目しているものはありますか?

嘉戸:やはりGPTを中心とした大規模モデルによる分かりやすい成果でしょう。驚くほど自然な文章や動画を簡単に生成することができる、これは今までは不可能だったことです。これらが社会に少しずつ浸透していくフェーズだと感じています。日本では“社内専用のChatGPT”の導入がニュースになりましたが、この先は社内の内部文書を検索できる仕組みの導入に着手し始め、急速に普及するとみています。

より先進的な企業ではさらに一歩先の、自律的に動くエージェントの開発が活発になりそうです。ノーコードツールでの業務効率化は、日本でも3年前ほどに流行していました。しかし、定型業務はそれらでカバーできましたが、臨機応変な対応を求められる業務などはカバーできずにいました。現在のLLMの技術を使えば、例外的な業務までも扱える、自律的エージェントが生み出せるのではと期待しています。実際、すでにそういったサービスをリリースしている企業はグローバルに目を向ければ存在します。ただ、利用料がかなり高額なんですよね。現状は価格がネックとなって導入が難しいのではないでしょうか。

寺田:これまでのソフトウェアは、価格がスケーラブルでしたが、生成AIはコンピューティングのパワーが必要なので、価格がいつ下がるのかまだ不透明ですよね。多額を注ぎ込んで高度な技術を開発するのと並行して、タイニーモデルで一定の成果を上げる技術も進歩しているので、徐々に価格は下がってくれると予想します。

嘉戸:そうですね。普及に伴ってより利用しやすい価格に落ち着いてくれれば、と願っています。

寺田:日本企業がLLMを活用した社内サービスの開発に着手しているという話がありましたが、日本語対応LLMの進化は期待できますか?日本政府が、OpenAIに対抗しようと200億、300億の研究予算を確保する動きもあります。個人的には、数千億は投資してほしいと考えています。

嘉戸:企業の研究には限度があるので、国が主導してほしいですね。アメリカの研究予算は日本の比ではなく、日本企業は予算額ではとても相手にならない状況です。。

ChatGPTを使ったことがある方は体感されているかもしれませんが、日本語とChatGPTの相性はあまりよくありません。学習データに英語が多いと思われるので、英語と文法が大きく異なる日本語では、英語利用時と違って良い結果が得られない場合があります。

Sun*はベトナムに開発組織があるのですが、ベトナム語は日本語よりさらに学習データにおける割合が少ないと思われるため、ChatGPTは使いづらいんです。なのでベトナムでは、ChatGPTをメインで使うことはせずに、他のLLMをファインチューニングして利用しています。

寺田:そのように技術適用されているんですね。Sun*では、最近、どのような技術変化が起きましたか?

嘉戸:多くのSun*エンジニアが、GitHub Copilotの活用を始めました。まだまだデータの蓄積が不足していることから、AIだけで開発をすることは難しいのが現状です。なので、人間が主体となって、それをサポートしてくれるツールとしてAIやノーコードツールを用いる、人とAIの共存が起きています。
寺田:GitHub Copilotの導入で、開発の効率化は進みましたか?

嘉戸:領域によっては、開発コストが9割減となったケースもあります。全体的に見ると、2〜5割減の成果につながっているかなと思います。ただ、GitHub Copilotの利用主体であるエンジニアの力量によるところも大きいのが正直なところです。AIが生み出したものは完璧ではないので、作ったものを精査する目が欠かせません。技術力の高いエンジニアが、さらに強くなっていく開発現場になっていると感じます。

社会の形までも変える新しいAIビジネス

寺田:生成AIといっても、適応分野は多岐にわたります。今後、適用が期待できる産業分野はありますか?

嘉戸:セキュリティー分野における、画像や動画などの真正性を担保する技術に注目しています。昨今、フェイクニュースへの注意喚起がマスメディアでも取り立たされていますよね。生成AIによって、動画や画像がリアルかつ簡単に作れるようになり、セキュリティー技術への信頼の揺らぎを感じます。

たとえば、私の顔写真が、万引き現場を撮った防犯カメラの映像に合わせて加工されると、どうなるでしょうか。それが証拠となり、罪を訴えられるかもしれません。そういうリスクのある時代はすぐそこに迫っています。画像や動画に証拠性を持たせる技術を開発するスタートアップが登場すれば、その技術は産業的に成功するでしょう。

寺田:ディープフェイク系の編集に使われない、アンチディープフェイクの画像が作成できる技術を開発するスタートアップがイスラエルにはあります。紛争に関するフェイクニュースがSNS上で広く拡散されていて、若年層にもたらされる精神的影響への懸念は、イスラエルの重大な社会問題となっているんです。最近、ゲーム上でのフィクションの爆破を、イスラエルへの爆撃の映像だと騙って若者を扇動するフェイクニュースも目にしました。紙幣の印刷に用いられる“透かし”のようなものを、ネット上の画像や動画にも組み込む技術の開発が進んでいます。

嘉戸:日本にもそのうちやってくる技術かもしれないですね。寺田さんがほかに注目しているAI企業はありますか?

寺田:イスラエルには、最古株のユニコーン企業のLightricksや、OpenAIの対抗馬になると目される自然言語処理を専門としたAI21labs、イスラエル国防軍の諜報部隊に在籍していた技術者が設立したD-IDなど、注目企業が多数あります。

Lightricksは画像分析のAIを開発していて、みなさんもアプリケーションストアで気軽にダウンロードできます。最近では、BtoB向けに広告クリエイティブをAIで簡単にできるサービスをリリースしていました。コアな技術を活用しながらカジュアルなサービスをリリースするスタートアップが増加傾向にある印象です。

あと、面白いなと思ったサービスを開発している会社がサマンサです。AIと疑似恋愛ができるデーティングアプリで、マッチングアプリのように異なる性格を持ったユニークなAIがたくさん登録されていて、チャットを重ねることができます。斬新だと感じたのが、チャット相手はAIなんですけど、AさんというAIは、サービス上に一人しかいない設定になっている点です。つまり、マッチングアプリと同様、Aさんが他の人と恋に落ちたら、こちらの都合に関わらずAさんとはチャットができなくなります。AIと恋人になる映画が過去にありましたよね。そんな世界観がすでに実現していて、怖さもありながら、新しい愛の形なのかなとも感じています。

嘉戸:ますます日本の少子化が進んでしまうのではないでしょうか……。AIの会話能力は、どんどん人間のそれに近づいていますよね。私の友人が、AIを使ったVTuberとVTuberで、ゲーム実況をさせる動画を作成していました。まだ「この会話は人間がしていないのではないか?」と引っ掛かりを覚える箇所はあるのですが、数年後にはAI同士が漫才をするくらいにまで発達していてもおかしくないくらい進歩が目覚ましいものです。

寺田:AIに質問しても微妙な回答しか得られない場合もまだあって、人によるチューニングとデータセットの拡充が必要ですね。ただ、今後の技術革新によっては、AIが人の手を離れる未来もあるかもしれません。本日はありがとうございました。

嘉戸:ありがとうございました。


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