うなぎ

うなぎが食べたい。そう思い続けてはや数週間。この間の土日出勤の振替で平日にゆったりと時間がとれる日が来た。ザ・デイ・ハズ・カム。絶滅するかもしれないという話は一旦おいておこう。俺には必要なんだ、あの細長い生き物が。こってりとタレをつけたあの焼き具合が。タレの染みたご飯が。

しかし希少なうなぎを食べようというのだから、こちらも万全の状態で臨まねばならない。神は細部に宿る。朝食は軽めのシリアルで済ませて、昼は抜きだ。陽も傾き、平日の小学校を終えた子供たちとすれ違いながら、駅に向かい、うなぎ屋に向かう電車に乗る。急行うなぎ行き、出発進行。ガタンゴトンと揺れる列車が空っぽの胃の胃液をシェイクして溶かしているのを感じる。いいさ、帰り道にはそこでうなぎがごはんとランバダを踊るのさ。

意気揚々と駅を降り立ち、一目散に向かったうなぎ屋の軒先で見たのは「定休日」と書かれた古ぼけた板だった。いつ定めたのだ、誰が定めたのだ、俺の許しを得たのか。どうせ土日にしか行かないだろうと調べもしなかった自分の浅はかさを悔いるしかないのか。

うちひしがれた1人の男は、牛丼チェーン店に吸い込まれて、焼肉定食を肉多めでオーダーした。化粧の濃い行きずりの女とヤケになってSEXしたような気分だったが、腹ペコの身体にはその安い肉の脂が目を見開くほど身体に染み渡るのを感じて、ああ人は欲には勝てないのだなと、ぼんやりビールジョッキを傾けるのだった。

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