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みんな豚だ

「そんなに食べてばかりいて、ぶうぶうと文句ばかり言うなんてあなた本当に豚みたい」
「なんだと、そんなこと言うなら本当に豚になってやるブー」
と言ったが早いか瞬きをした後に自分は豚となっていた。豚の蹄とは案外可愛らしいものだな、と思うくらいには落ち着いていた。

「さあ、こちらへ。ご案内いたしましょう」
でた、案内キャラ。そうじゃないと話が進まないもんね。シルクハットをかぶったそれらしい案内豚に特になんの疑問も持たずについていくと、さまざまな豚がひしめき合うとても天井の高い豚舎に到着した。

「あのお金をたくさん抱えてる豚はなんだい」
「あちらは資本主義の豚でございます。労働者をこき使って、たくさんの資本を食べ続ける経営タイプの豚です。なかには労働者の生活を守るんだと奮闘する突然変異種もでますが、たいてい淘汰されますね」

「あの食べものや自分をスマホでとってるのは」
「あちらは承認欲求の豚でございます。SNSでいいねされたり、チヤホヤされる気持ちを食べる豚ですね。自分がキラキラした側にいるということで安心したいという、同調圧力の敗北者かと」

「あっちのなにやら揉めてるのはなんだい」
「あれは個人主義の豚です。ワークライフバランス、働き方改革、自分らしさなどを振りかざしては仕事で社会に価値を提供できていないことを必死にぶうぶうといいわけしているのです。苦言を呈してるのはブ長でしょうな」

「なんだか欲や思考に偏りがある豚ばかりだな」
「それが豚の生きるエネルギーなのです。欲のない、思考がフラットな豚などあっという間に燻し出されて、ハムやソーセージとなって誰かの餌食になるだけです」

そこでハッと目覚めた汗だくの僕を、大きく鼻の穴を広げて「…大丈夫?」と心配する彼女。みんなが豚だとしても、こいつには真珠のひとつでもくれてやりたくなった夏の夜。

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