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人生のコンマ(スワロフスキーのスタッズみたいな)

私はUS Popsが大好きだ。大学生の頃からAFN(米軍基地内のラジオ局)で聴けるRick dees weekly top40を聴いていた。結婚して出産したあとしばらく聴いていなかったが、1年半くらい前からまた聴くようになった。

そのヒットチャートに、K-popのDynamiteが入ったことで、BTSも聴くようになった。彼らは音楽活動以外にも、自分たちでいろんなクイズやチャレンジなどをするコメディ番組もやっていて、それも見たら、個々人の性格の違いやそれが絶妙に上手く噛み合ってグループが上手く行っている様子が伝わってきた。
みんな割と育ちが良いのが、集団生活で訓練されてきたのか、とにかく人柄が穏やかで頑張り屋だと知って、私もArmy(BTSのファンの総称)になった。


そんなBTSのリーダー・キムナムジュン(RM)の言葉に
「僕たちを自分を愛するために利用してください」がある。
また、彼の作った歌詞に
『僕をcomma(コンマ)に使って、じゃあ次のphrase(フレーズ)にあなたを移らせてあげる』という一節がある。
自分は文章でいうところのカンマ。あなたが次のセンテンスに進むための存在とファンに語りかける姿勢は、僕たちをどうかご自分のために役立てて下さいという意味では先の言葉と同じだ。

実際のところこんなに輝かしい、スワロフスキーのスタッズみたいなコンマなんて、私の人生にはもったいない。けれどもアイドルの存在意義を再定義してくれたような気がする。アイドルは明るい光だけれど、ファンの人生の全てではなく、最終目標なんかでもなく、あくまでコンマなのか。

今や世界中の人たちがスーパースターの輝きを見つめている。
世界中のどこに住む誰にだって、推しは必要だ。気持ちに明るさと動力をもたらす。
しかし直接会って何かするのではなく、距離感が必要だ。どんなに全てを捧げたって、直接返ってくるものは無い。
心に推しを持つことは、太陽と人間の距離感に似ている。太陽のようにまぶしい光源を直接見つめてしまうと、他の場所に目を移したら黒い残像が残り目に悪いとされている。いくら好きな気持ちが高まっても、現実の暮らしや金銭事情に及ぼす悪影響を忘れてはいけない。

暮らしには太陽光が欠かせないように、私たちファンにとって推しは動力、エネルギー、モチベーションだ。推しを推すことを遅ればせながら知った私はそう思っていた。
しかし本人たちは、これから全然長く続く人々の暮らしの中で、何か役に立つ1モーメントになりたいだけと願っているようだ。
太陽は眩しすぎて本体がよく見えないように、アイドル本人のちょっと待って!という声はなかなか届かない。

つい先日、BTSメンバーがデザインしたアパレル商品や雑貨が発売されたが、これまで散々みんなが買ったグッズとは違う手法で販売されたらしい。韓国からの個人輸入という形になり、品代を振り込んだ後に別途関税が請求され、大混乱が発生した。
Armyの熱狂は苛烈を極めている。最近ではBTS関連のアイテムを求め、死にものぐるいの行動に出て、さまざまなファンダムの中でも特にマナーが悪いと噂されている。
私は貿易の仕事しかしていないので、仕組みは全て理解できるが、確かに身近に発生する初めての輸入だった人は多いだろう。中には「関税なんて普通払わないよね?架空請求なんじゃない?あたし払わないで押し通してみる!」なんて言う人もいて、ため息をついてしまった。

キムナムジュンは、僕たちのような光に集まって、僕たちを崇拝して、全てを捧げて下さいなんてことは全く言っていないのに。
ファン一人一人のそれぞれの人生の役に立てたら良いなと思ってるよ、というスタンスなのに。

ファンダムが大きくなりすぎると、本人たちの声は届きにくくなる。また、他のファンダムから流れ込んだ人が、他のファンダムの流儀を持ち込むこともある。日本のアイドルの推し方同様に、たくさんグッズを買うことがファンの証!みたいな主義の人も多く、あまりガッツリ同じ沼の住人になろうとは思えない。音楽は聴くが、ファンダムには参入しない。

沼といえば、アルバイトをするようになって、私は深夜ラジオを聴けなくなった。時間のやり繰りも難しく、タイムフリーでも聴いていない。
大人ひとり、乳幼児2人の辛い時期は、深夜ラジオという娯楽しか私にはなかった。まさしく光だった。
しかし私の人生のセンテンスも、もしかしたらラジオスターの推しというキラリと光るコンマのおかげで、次のフレーズに移ったのかもしれない。「あ!今週も聴けなかった!」と残念に思って執着することなく、仕方ないと思えるようになった。

何年も同じ沼で同じ推しに捧げ続ける人と比べたら、私はいかにも軽薄で、移気な人だ。
でもその分、短いセンテンスがたくさんある中で、少し光るコンマがたくさんあるのではないだろうか。
良いんだから悪いんだか分からないが、私の人生はたぶんやたらとキラキラしている。

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