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【CHANTEL②】(フィクション>短編)

§2.  橙
土曜の朝に目が覚めた時、枕元にシャンテルが座っていた。
シャンテルの大きさに改めてぎょっとした横山が、気を取り直し、顔を撫でてやると、猫は瞳をつぶって気持ちよさそうにシャンテルは体を預けてきた。柴犬程もあろうか、体長85㎝の大きな仔猫の重さが、約15kgもあろうか、胸に覆い被さった。

「お、重いなぁ、お前。あ、そうか…。お前を貰って来たんだっけ」

独り言を言いながら、右手で野獣の様な声で喉を鳴らし、ゴロゴロ甘える猫をヨイショッとひざ元に下ろして、抱えて、左手で寝床の横にあった煙草を手に取って、昨日の職員達の話を思い出していた。

自分に腹を見せて寝転んでじゃれるシャンテルと遊んでやりながら、腹の地肌にある斑点や、身体の筋肉を触感で確認したりしてみた。日々、大きくなる体躯や、顔つきが不思議な程、落ち着いていた。


「横山、お前、この仔さ、お前になれてしまっている事もあるしさ、暫時、こいつを引き取れるかな?大久保さんが怖がって引取らねぇんだよ」
動物愛護の斎藤理事が処置室に入って来て、仔熊用の檻に入った美しい黒い猫について、横山に謂った。

「…それは構わないっすけど…、こいつ、可愛い奴だし」
斎藤が言うには、NPOを経営する大久保は、寄付金や助成金を申請しながら、キチンと経営をプラス傾向に保持してきた。町内にあるどんな愛護団体よりも大久保の団体にはこの町では結構既知数の動物好きがおり、彼に嫌がられた動物を別の人が引き取ることは、常識的に有り得なかった。

「…問題ないっすよ、コイツ。サイズって事ですか。確かに、馬鹿デカいですけど、人懐こくて優しい可愛い奴ですけどね」
斎藤が笑った。
「大久保さんがアレは黒豹だって言って、聴かねぇんだよ。要は、サイズ、それと、全身に広がる斑点」
「斑点…」
確かに、シャンテルと名付けた大猫の子供には黒い斑点が地肌に見えた。
「斑点は雉猫きじねことかバーミィーズでしょ。それに多分、こいつ、目がグリーンだったり、橙だったりだから、ボンベイミックスだと―」
「ボンベイは…、…っと。どれどれ」
斎藤は近くに遭った動物生物学種の本を開いてボンベイミックスの外観を確認した。
「あ~。…アメショーとバーミィーズの混血昼に琥珀色の瞳、宝石みたいな緑系の瞳、筋肉質で美しくかなり大柄、かな。黒豹の外見を真似て再生された…と」
「琥珀、そうですね。奇麗な瞳ですよ」
「確かに筋肉質だね」
「大きくて、重いっすよ。バーミィーズの影響で斑点がありますね」
斎藤は了解を意味する大きな頷きをしつつ、
「ん、ん、分かった」
と言った。檻の中を見ると、
幼いが矢鱈大きな黒猫が飽きた様な顔で斎藤を見ていた。
斎藤はニッコリ笑いかけた。

(つづく)





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