見出し画像

歯を残す工夫・片山式暫間固定編 #15

重症歯周病の歯はどこまで活かせるのか?
我が師:片山恒夫は、「抜くしか無い、望み無し」と言われた歯を長期間活かし続けてきた。
その実例は、私も編集委員として加わった
「開業歯科医の想い Ⅱ・片山恒夫セミナー・スライド写真集」として出版してある。
全てのスライド写真の配置・配列を担当した。

実際の臨床では、歯科医院のテクニックや最新機器だけでは歯は残せない。
ブラッシングをはじめとする患者さん自身の生活習慣改善がキチンと成されてはじめて可能となる。
その上で様々な処置が同時進行していく訳だ。

「お任せします」=「人任せ」は治療放棄に等しいのだ。

そんな訳で、今回は「暫間固定」について触れてみたい。
暫間固定って何だ?
文字通り「歯を暫くの間固定しておく処置」のこと。
重症歯周病の歯を活かすために、治療初期に必須の処置。

何はともあれ、実際のケースを見てみよう。
「上の前歯が抜けそう」が来院動機。
前歯がフラフラで、話をするたびに柳の枝の様に揺れる。
食事はおろか、歯ブラシも当てられない状況だ。

初診時の口腔内写真
初診時のX線写真

初診時のX線写真では、歯槽骨(歯を支える骨)がほぼ無い様な状態だ。

そこで、写真の様にワイヤーやプラスチックを使って、フラフラの歯を仮止めする。
骨折治療のギプスを思い浮かべて欲しい。

骨の吸収が激しい場合、根の治療は必須
骨の回復と歯の位置の改善

さて、ここでほとんどの歯医者と患者さんが
大きな間違いを犯す。
「先生、これでご飯が食べられます!」
「そうだね、ちゃんと噛める様に固定したからね。」

待て待て待て!チョッと待て!
そんなことしたら、一気に抜けてしまうぞ。

暫間固定は何のために行うのか?
1:噛むためではない
2:先ずは安静を保ち
3:ブラッシングする為に固定する
4:患者さんがブラッシングで歯垢を落とすのではなく
5:はじめは歯科医院側で歯垢を落とす
6:その上で、歯垢の再付着を防ぐ為のブラッシングを指導
7:歯肉が改善すると歯は移動し、元に戻ろうとする
8:その為、毎回固定を外し、移動に合わせて再固定する
9:噛み合わせも変わるので噛み合わせを調整する
10:症状改善に合わせてブラッシングを変えていく
11:来院の度に7〜10を繰り返す
12:安定したところで永久固定や入れ歯の処置へ移行する

「安定したところ」とは何か?
患者さんの「健康へのベクトル」が上向きになること
即ち「自立&自律」だ。

上の入れ歯は片山式のKKK装置
上顎・術前術後

この患者さんは、片山方式に取り組み始めて間も無い頃の
ケースだ。
暫間固定の方法も片山式の基本に忠実だが旧式だ。
今ではもっとスマートに、キレイに実施できる。

しかし、旧式な手法だが、歯を残す為の基本的な事項は
網羅されている。

医療の分野に限らず、様々な領域で
基本の伝承が途切れたが故に起こる事故が
多発している昨今。

AIに正しい情報を飲み込ませる為にも、
新しい技術の開発と同時に、枯れた技術を一層磨く必要があると思う。

歯の保存のための様々な工夫ついて、
次回からも実例を提示していこうと思う。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?