私が廃村の土地を買う理由ーまちを丸ごとホテルにするという新しいまちのカタチ
大都市の過密と田舎の過疎化という二極化によって、今日本にはたくさんの廃村があります。人が住まなくなり、手入れがされなくなった土地はどんどん荒んでいきます。
所有者ですら持て余してしまうそんな荒野の土地や、そこにある建物を私は今せっせと買い集めています。
なぜ、そんなことをするのか?答えはもちろん、儲かるからです。
村まるごと買い占めても3,000万円
人も住んでいない、アクセスも悪い土地をわざわざ欲しがる人はほとんどいません。ですので、廃村や限界集落と言われるような地域の土地はものすごく安いのです。
土地の値段が安いと、仲介手数料も微々たるものにしかならないので、田舎では不動産屋も存在しません。そうして土地の流動性が悪くなると、人の手入れが行き届かなくなりその地域はどんどん荒廃していきます。
私は今、とある計画のために香川県にある廃村をまるごと購入しようとしているのですが、全て買い占めたとしてもかかる金額はだいたい3,000万円程度。
都会では、家一軒も買えないくらいの金額です。
廃村の一部の土地だけを持っていても役に立たないかもしれませんが、ある程度まとまった規模の土地となると話は別です。ましてや村まるごととなると可能性は大きく広がります。
そう。
アイデア次第で、ここに新しく「まち」を作ることができるのです。
まちをまるごとホテルにする―アルベルゴ ディフーゾに学ぶ分散型ホテル
イタリアの「アルベルゴディフーゾ」という取り組みを聞いたことはありますか?町の中にある空き家をリノベーションして、町全体をホテルとして活用するという考え方です。
従来のホテルであれば、大きな建物の中に宿泊する部屋があり、レストランがあり、バーがあり、遊び場があり…という仕組みになっていますが、「アルベルゴディフーゾ」は全く逆の考え方です。
町のなかにある一つひとつの家や店舗を、ここは客室、ここはレストランとして、町をまるごと一つのホテルのように見立てます。
そうすることで訪れた人も、自然とまちの中を回遊し、一つのハコモノを作って集客をするよりも、まち全体に活気をもたらすことができるようになります。
私が廃村を買ってやろうとしていることの一つが、この「アルベルゴディフーゾ」です。
ホテルになったまちは日本にも。
実は、この「まちを丸ごとホテルにする」という考え方は、すでに日本でも取り入れられ始めています。
例えば滋賀県の大津市にある「商店街ホテル 講 大津百町」。昔ながらの商店街の中に、町屋をリノベーションした客室が点在しています。
画像引用:「商店街ホテル 講 大津百町」公式サイト
宿泊者はこの部屋を拠点に、商店街の別の場所にあるラウンジでくつろいだり、レストランで食事をしたり、お惣菜を買って部屋に持って帰ったりとまちを楽しむことができます。
また、東京の谷中では、下町情緒たっぷりなホテル「hanare」があります。おふろは昔ながらの銭湯で。また町の自転車店ではレンタルサイクルもあります。他にも着物のレンタルや、写真館での撮影など様々な体験をすることができます。
画像引用:「hanare」公式サイト
このように、ただ宿泊するだけでなく、「泊まる」ことそのものがアクティビティの一環として楽しまれる傾向は今後さらに強くなっていくと思われます。
衰退の先を描く―過去ではなく未来を見る
誰も住んでいないような廃れた村の土地を買う私の姿は、周囲の人にとってはとても奇妙に見えるそうです。でも私からすると、「こんなに可能性の塊なのに、なんで皆買わないんだろう?」と逆に不思議に感じます。
こうした小さな村や町、建物そのものの価値の考え方にはまだ大きな勘違いがあります。
建物の価値は何で評価されるか?それは、建物にかけた過去の金額や今の現状ではなく、これから未来に稼ぐ金額です。
冒頭に、3,000万円で廃村が買えるという話をしましたが、見方によっては「3,000万円でも高い!」と思われるかもしれません。しかし私には、その土地や建物が稼ぐ未来の絵が描けているので、ものすごくお得な買い物だと考えています。
ところで、廃村の安い土地と建物で作ったホテルは、一泊いくらのホテルになると思いますか?
原価ベースで考えると、都会のホテルよりも安くあるべきとなってしまいます。しかし価値ベースで考えると、一泊数万円のホテルになる可能性もあります。
例えば、香川県三豊市にある「父母ヶ浜」はアクセスも悪く、観光客にも人気とは言えない田舎まちだったのですが、近年、インスタ映えがきっかけに訪問者が急増しています。
画像引用:写真は三豊市観光交流局のWEBサイトより
インスタスポットとして若者に人気になった一方で、複数人で訪れる彼らにとって、その場所には魅力的な宿泊場所や飲食店がなく、地元にお金が落ちないという問題がありました。
そこで、村にあった戸建て住宅をリノベーションしたおしゃれなホテルが作られました。数千万円で作られたそのホテルの中の1つには、1億円以上の値段がついたものもあると聞いています。
バリュエーションは3倍以上、利回りで言えば30%以上です。
こうして得た収益はさらなるアクティビティの投資に回すこともでき、よりまちの価値を高めることができるようになります。
町や村は一度廃れてしまったら、もうそれで終わりと考えられることが多いですがそんなことはありません。むしろそこから、何にでも生まれ変わることができます。
大都市や、人がたくさん住む地域のまちづくりは、ある意味プレイヤーが限られています。やりたいことをやろうにも、お金もかかるし、利害関係者も多く、できないこともたくさんあります。
でも、ここでなら、何でもできる。
都会の開発は大手のデベロッパーさんにお任せして、私たちは、「衰退の先を描く」を一つのテーマに、これからも田舎のまちづくりに取り組んでいきます。
株式会社SUMUS 代表取締役
小林 大輔