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シンプルで最強のまちづくり戦略。「マルシェ」で目指すまち上場

「マルシェ」という言葉を最近よく耳にしませんか?

マルシェとは、フランス語で「市場」を意味する言葉です。オシャレな響きの言葉ですが、意味は日本に昔からある「市」、あるいは英語の「マーケット」と同じです。

つまり、複数の商人が集まって出店し、食品や雑貨など様々なものを売り買いする場所のことです。

シンプルな商いの集合体である「マルシェ」あるいは「マーケット」が、これからのまちづくりの重要なファクターになると私は考えています。

そのメリットは大きく分けて3つ。

①人を集めることができる。
②土地の価値を上げることができる。
③巻き込む人を増やすことができる。

順に解説をしていきます。

「人を集める」ことこそ、まちづくりの永遠のテーマ

※「マルシェ」「マーケット」「市」といった言葉は、このnoteでは全て同義として扱います。それぞれの地域での呼ばれ方に合わせて使い分けます。

田舎でも都会でも、まちづくりの永遠のテーマは、「いかに、継続的に人を集められるか」です。どんなに立派な建物を作ったとしても、人が集まらなければその建物は何の役割も果たせていないも同然です。

人を集めるために、最もシンプルでかつ効果的な方法が「マルシェを開催すること」だと私は考えています。

マルシェこそが、人を集める原点であり、まちの起源でもあります。

東京・六本木ヒルズでは、2003年から毎週土曜日に、茨城県の農家から採りたての新鮮野菜を直送する「いばらき市」と称したマルシェを開催しています(※現在はコロナの影響で臨時休業中)。さらに六本木ヒルズと同じく森ビルが管理するアークヒルズでも毎回約2000人が来場する「アークヒルズマルシェ」を開催しています。(※こちらも、コロナの影響で休業となっている日もあります)。

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画像引用:「アークヒルズ」ウェブサイト内ヒルズマルシェ紹介ページより

六本木ヒルズと言えば、誰しも一度はその名前を耳にしたことがある、超がつくほど有名な施設です。あの六本木ヒルズですら、知名度や立地にあぐらをかかずに、マルシェという手段を使って、人を集める努力をしています。

「マルシェ」や「マーケット」が土地の価値を上げる!?

近年、「マルシェ」や「マーケット」が周辺の経済に良い影響を与えるということが分かってきました。イギリスのロンドン市ではこうした経済効果に着目し、都市戦略としてマーケットを強化する政策も実施されています。

ロンドンでは古くからマーケットが生活基盤としてまちに根付いており、スーパーマーケットチェーン「TESCO(テスコ)」や「The Button Queen(ボタン・クィーン)」などマーケットを前身とした企業も多く存在します。

近年では、オーガーニックやこだわりの高品質商品など、比較的高価格帯のマーケットも人気を集めており、新たなトレンドも生まれるなど、地域住民のニーズの変化にうまく対応しながら、進化を続けています。

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さらに2000年過ぎごろから、マーケットが都市に与える影響が注目されるようになり、様々な調査で、マーケットが周辺店舗での消費活動を誘発していることや、周辺の土地価格の上昇にも一役買っているということが、明らかになりつつあります。

イギリスでは、マーケットがまちの人気を高め、周辺住居の不動産価格が上昇していることも指摘されている

(中略)

不動産価値の上昇がマーケット単体の影響であるか、明確化することは難しいが、駅近く、公園近くの不動産価値が高いことと同様に、良質なマーケットが近隣にあることが不動産価値に影響すると指摘している

「マーケットでまちを変える」(著:鈴木 美央 学芸出版社)より引用

ロンドンの事例から、地域住民の生活を支える場として、また観光資源としても改めてマーケットやマルシェの価値が見直されています。

プロセスに巻き込み、まちづくりの共犯者を増やす

「マルシェ」という言葉は新しく聞こえるかもしれませんが、その概念自体は昔から日本でも親しまれてきたものです。ではなぜ今あえてマルシェを勧めるのか?

その理由の一つが、価値観の変化です。

今は、プロセスをより重視する時代に変わりました。完璧な完成品を見せること以上に、作り上げていく道中を共有し、一緒に取り組む、応援してもらうといったプロセスに価値を見出されることも少なくありません。

マルシェは一人で開催することは絶対にできないのです。場所を提供する人、空間を設計する人、出展者さん、お客さん・・・など多くの人を巻き込みながら成立するマルシェは、街づくりのプロセスに参画する人を自然と増やしていきます。

誰を巻き込むか。どう巻き込むか。

この問いがとても重要です。

続くマルシェ、続かないマルシェの違い

日本でも、いたるところでマルシェはすでに開催されています。2,3回であればどの地域でも行われたことはあるでしょう。しかし継続できているところは、多くはありません。

まちの価値を上げるために開催するマルシェは、一度や二度ではなく、定期的に開催して、「マルシェのためにあそこに行く」と思われるような場所を目指していく必要があります。

マルシェを継続していくための3つのポイントをご紹介します。

①ゴールを設定する

マルシェを開催する際に最も大切なことは、「ゴールを設定する」ことです。言われてみると当たり前だと思われるかもしれませんが、実はマルシェの開催そのものが目的となってしまい、その先のゴールを見据えられていないケースが多くあります。

私はコンサルとして、地域の工務店さんが主催するマルシェの企画を支援することが多いのですが、その場合は「地域の人とつながり、住宅の依頼をもらえる」ことが最終的なゴールとなります。

先の六本木ヒルズの例だと、おそらく土地の価値を上げ続けることを目的に開催されていると思います。

マルシェの効果測定の指標として、売上や来場者数が取り上げられることが多いですが、ゴールから逆算して考えた場合、指標となる数字はそれだけとは限りません。

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※上図のように、ゴールから逆算してKPIを設定します。

「人々がそこで何をしているのか?」という、豊かなシーンとしてのゴールの本質を表す指標が何かを考えることが、実はとても大切です。

もちろんゴール設定によっては、最初にあげた「来場者数」や「売上」が最重要となる場合もありますが、アクティビティの多様性や滞留時間を調査するなど、活用の効果を自分たちなりの尺度で評価することが必要です。

②コンセプトを統一し、リーダーを決める

マルシェにおいても、コンセプトの統一は絶対です。皆の意見を聞いて、最大多数が納得できるような妥協点を探すのではなく、リーダーが絶対的なコンセプトを決め、そこはぶらさないという姿勢が重要です。

例えば、ロンドン市内で20のマーケットを運営している会社、ロンドン・ファーマーズマーケットでは、生産地や飼育状況など、出店者に明確な基準を設けています。

こうした基準があるからこそ、食の安全に対する意識が高い層に支持をされるマーケット運営が可能となっています。

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特に同じ地域の有志メンバーが集まって開催するマルシェの場合、元からそこにいる人の声が優先されたり、ことを荒立てたくないがために皆の意見を聞こうとして収集がつかなくなったりすることがあります。

「これでいきます!」と言い切る力を持つリーダーの存在はかかせません。

③空間をデザインする

さらにマルシェづくりに欠かせないのが、空間設計です。コンセプトに見合う出店者さんを募って、店を出してもらえば成立するわけではなく、お客さんがどこから入ってきて、どのように歩き、どこで休み、どこで買うのかといった導線設計は、まさにマルシェの肝。

ベンチの置き方、無料席と有料席のすみ分け、店舗の配置といった細かい設計が、その日の命運を握ります。

私が主に支援をしている地場工務店さんは、もともと空間設計のプロです。そんな彼らにとっても、マルシェの空間設計はとてもセンスが問われるといいます。

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※画像引用:「マーケットでまちを変える」(著:鈴木美央 学芸出版社)p211より。

例えば、上に引用させていただいた図は、埼玉県の「Yanasegawa Market」のレイアウトです。

ここでは、店舗を広場の真ん中に何列かに分けて並べるのではなく、横一列にズラリと並べるユニークな配置が採用されています。これには、公園が持っている魅力を活かしたいという意図があると、本の中で紹介されています。

マルシェの設計には、これといった正解の型があるわけではありません。開催場所によって、形状や特徴が全く異なるからです。その場所ごとに、「ここをどのような空間にしたいか」「訪れた人に、ここでどのように過ごしてほしいか」などシーンの想像を膨らませながら設計をしていきます。

地元の魅力が集まる「マルシェ」

マルシェというのは、地域のアーティストさんや農家さん、お年寄りから子どもまで、様々な人と人がつながり、そのまちの魅力が一同に会する場です。

異業種交流、世代を超えた交流、観光客や移住者の来訪など、さまざまなつながりがそこで生まれます。

人と人とのつながりというのは目には見えませんが、まちの価値を上げる重要な要因の一つです。

私は、まちの価値が上がり、土地の値段が上がったり、そこに住みたいと思う人が増えるようになることを「まち上場」と名付けています。マルシェは、まさにまち上場のための第一歩です。

ぜひ、あなたの街でもマルシェを開催してみませんか?

株式会社SUMUS 代表取締役
小林 大輔

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まちづくりの成功と失敗を分けるもの。その最大の要因の一つが「トータルプロデューサー」の存在だと私は考えています。

コンセプトを統一し、まちを一体にできるリーダーの重要性について、具体的に書いています。

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