何もない僕に残ったもの
朝が来た。
ベットから起き上がるのが億劫で、かと言って二度寝する余裕もない。
余裕というか度胸がない。変なところで真面目な僕は(今日はだるいから休もう)と思ったとして、それを実行する勇気がない。ないないずくしの平平凡凡で、今日もまた1日が始まる。
朝の支度は毎日が同じことの繰り返しで、もう何をどうしているかもあまり記憶にない。今日は歯を磨いて出ただろうか。朝ごはんに久しぶりにフレンチトーストを食べたのは昨日だったか。この年でこの記憶力じゃ、30になるころにはもう自分が何者なのかもよくわからなくなっているんじゃないかと想像してやめた。笑えなすぎる。
もちろん登校ルートもいつもと同じ。家を出てまっすぐ進んで、突き当りで曲がって坂を下る。郵便ポストを左に曲がってあとはずっとまっすぐで着く。これももうおそらく目をつぶってでも通えるぐらい身に染みている。それは言い過ぎたけど。
大きな苦しみもなければ、大きな喜びもなく、感情の揺れがほとんどない。なんていうかあれみたいだ。あの、なんだっけ。ご臨終です、っていうときのやつ。モニターに映し出される直線。死を可視化させる直線。僕の感情の振れ幅はほとんどなくってあんな感じだった。死んでるようなものだった。だけど
「あれ、今日も寝たままの登校? 危ないよ~?」
あの子が突然僕の前に現れてから、僕の感情は息を吹き返した。声が聞こえると心臓が高鳴り、視界に入ると目で追ってしまう。ふとした時に今何してるのかなと思ってしまう。僕はあの子のことをほとんど知らないのに、あの子はいつも僕のすべてを見透かしたような瞳で見つめてくる。そして僕はゆだねてしまった。僕の感情の行方を。何もない僕の感情の中に芽生えた、もしくは唯一残っていたのかもしれないこの感情がどう育つのかを。
「そんなに器用じゃないよ」