令和5年3月場所5日目雑感

■貴景勝はどこまで前に出続けられるか
なんとか2敗で踏みとどまった貴景勝。竜電相手にほぼ一方的に持っていった相撲といって良いだろう。足の運びはまだ貴景勝らしくないとも思えたが、それでも前に出ていれば何とかなるとも思えた。素早く動かないといけない局面もなかったため、簡単には言えないが、膝の状態も4日目よりはマシとも思えた。状態も良くない中、竜電に対しては失礼かもしれないが比較的やりやすい相手だったとも言えよう。竜電も当然、貴景勝の膝の具合がよくないのは承知だろうし、叩き込めるチャンスは伺っていたのではないかとは思う。だけれども、それを許さないだけの前に出ようとする気持ちは見えた。6日目は「重たい」御嶽海でもあるが、どこまで御嶽海を押せるか。一気に前に持っていける相撲が取れれば。膝の状態が急激に良くなるとは思えないが、負担をかけないで、一日一番取っていけば、何かどこかで兆しが見えるかもしれないとは思い続けたい。

■メンタリティは既に横綱級
今の厳しい状況の貴景勝を支えているのもは何か。精神状態、心理など簡単に察せるものではないが、今の貴景勝にあるものは、一日一番、目の前の取組をこなしていくことは当然だろうが、「自分は横綱になりたい」という前向きな気持ちと、「自分が休んだら大関以上が不在になる」という責任感。この2つが貴景勝を支えているのではないだろうか。休んでも番付が落ちないのは横綱の特権だし、大関も1場所の負け越しという猶予はある。「綱取り」を放棄すれば、来場所は角番になるわけだが、休むという選択肢だってなくはなかろう。でも、まだ2敗。いろいろな可能性が残されている。そして貴景勝が消えれば番付最高位は関脇力士。仮に3敗、4敗してしまって綱取りが消えたとしても。膝の状態が思わしくない中でも出続けてそれなりの結果を残すことができれば。それは番付は大関でも、横綱の責任感を纏った大関と言えるのかもしれないし、そこに向き合っているのも現状ではなかろうか。

■力が足りなかったのか、ツキも足りなかったのか
さすがに若隆景の初日からの5連敗は想像できなかった。スロースターターとはいえる力士が故、初日負けたり、連敗スタートをしてもどこかで立ち直ってくるとも思えたが、まだその兆しは見えないか。「たられば」で言えば、もし御嶽海に寄られた際に膝がついていなければ勝っていた取組とはなるわけだが、リプレイで見れば膝がついているようには見えた。勿体ないと言ってしまえばそれまでかもしれないが、僅かな差。これを運で片付けていいのかわからないが、星が上がらずツキにも恵まれなかった若隆景。立ち合いの鋭さも何か影を潜めているようにも思える。決して力がないとは思わないが、僅かな差がこの結果を生んでしまっているようにも思う。何かきっかけが欲しいところだが、どうなるか。

■敗れたが豊昇龍の粘りは驚くところ
錦木の強烈な小手投げに敗れた豊昇龍だが、倒れ込みながらも錦木の足首の少し上あたりだろうか。ここを掴んで、敗れたとはいえ錦木の手と尻を土俵につかせた。あと10センチでも上を掴めていればどうなったか。敗れはしたものの、豊昇龍らしさを見せてくれたし、最後まで諦めない気持ちの強さはさすがと思うしかなかった。とはいえ、錦木相手に小手投げを食らうような相撲を取ってしまい敗れて序盤黒星先行の2勝3敗は残念な結果としか言いようがないのだが。

■阿武咲の圧力は増している
いくら先場所、終盤まで優勝争いに加わったからとはいえ、8枚目での10勝5敗。最後は役力士に3連敗で場所を終えた。その3連敗の相手の1人が5日目に対戦した霧馬山だ。立ち合い当たると霧馬山の横の動きについていけず、そのまま土俵に這った。それが先場所の阿武咲だ。阿武咲が負けるときの典型的な形と言っても良かろう。はっきり言えば、今場所もこのような展開になるか、霧馬山が廻しを取って寄っていく絵すら浮かんでいた。だが、霧馬山が阿武咲の正面で勝負に行ったこともあるだろうが、阿武咲は前に圧力をかけ続けた。先場所はいくら平幕中位で勝ち星を積んでも霧馬山相手だと敵わない、霧馬山が簡単にあしらったとも言えてしまう相撲だったが、その霧馬山を阿武咲が阿武咲の相撲で勝ち切ったのを見ると。先場所の阿武咲以上に今場所の阿武咲は強い、圧力を増しているようにも見えた。ツボにはまれば強い力士なのは誰しもが承知だろうが、ツボにはまらなくても。地力で役力士に勝てた。そんな印象を受けた。阿武咲がワンランク上がっていると言ってよさそうだ。

■ここまでで一番強いのは大栄翔
初日から5連勝で序盤を終えた幕内力士は4人。毎場所言っているが4勝1敗の力士まで含めて、今場所好調の力士と言ってよいとは思う。そんな中で一番強く見えるのは大栄翔か。5連勝しているのだから当然ともいえるのだろうが、今場所好調というよりも復調していると言ったほうがよさそうな正代を一気に押し込んだ。受けてしまい上体が起こされてしまい後ろに下がり出した正代ともなれば、そこから正代が抵抗するのもなかなか難しくもあるのだが、抵抗させる隙すら与えずに確実に手を出し押し込んでいる大栄翔。5日間、この相撲が続いている。比較的、押しやすいとも思える力士との対戦も続いてはいるが、成績、内容を鑑みると、序盤で最も強く、良かったのは大栄翔だと感じている。

■幕内下位の注目力士
新入幕の金峰山と北青鵬が4勝1敗と大方の期待通りの滑り出しを見せたといって良いだろうが、予想できる範囲といって良いのかもしれない(私は北青鵬は案外ここで苦戦するのではないかと場所前は見ていたが)。だが、見逃せない相撲を取っているのはいわゆる「平幕2桁」の力士の中では琴恵光なのではないかと思っている。4日目は200キロの剣翔を真正面から寄り切ったかと思えば、5日目の小兵同士の対戦と言ってよい千代翔馬を琴恵光らしい相撲ですくい投げた。ほぼほぼ幕内の半分から下にいる力士ではあるが、相撲っぷりも見ていて面白い力士だし、安定して幕内の下位にはいられる。おかしな言い方十両に落ちるところまではいかない力量の力士。金峰山が6日目にそんな琴恵光と対戦する。今の地位よりはるか上を期待される金峰山や北青鵬にしてみれば、琴恵光が壁になってしまうようでは困るのだが、この期待値の高い新入幕2人が好調琴恵光にどうぶつかっていくのかは見ものかもしれない。

■まだ2/3残されている
序盤5日間を終えると、大体、好調力士、不調力士ははっきりとしてくる。だが、優勝争いとなると、まだ全くわからないといって良いだろうし、大栄翔であれ、高安であれ。そして翠富士、錦富士。それが誰だろうが今の時点で優勝を語るには尚早だろう。いくら好調でも、この4人のうちの誰かが残り10戦全勝で駆け抜けるとは思えない。序盤不調だった力士が調子を取り戻してくることだって十分考えられる。中盤で大きく展開が動くことだって十分あり得る。ただ、貴景勝の綱取りの火は消え切ってはいないし、一発の強さを持ち合わせている力士も多い。ここまで冴えない力士もそれなりにいることも確かだが、かなり面白い、先が読めない場所になっていることは確かなのではないだろうか。

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