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⑴母親のはなし 高校三年生の春、母親を癌で亡くした。母親を亡くすまでの一年間、記憶は乏しくどのシーンを思い返しても色彩は薄暗い。まるで私が死んでいたかのように思う。 「母親が死んでしまう」 という漠然とした恐怖から自分を守る為、心の感度をシャットダウンしてしていた。一人で母親の見舞いに行った帰り道、母親が見たがっていた振袖をまとい二人きりになった病室。どんな顔をすれば良いのかわからなかった。 どうにか心を保とうと必死だったので、私しか見えていないし、私すら見えて