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みかの原わきて流るるいづみ川いつ見きとてか恋しかるかむ

中納言兼輔

みかの原わきて流るるいづみ川いつ見きとてか恋しかるらむ

(みかのはらわきてながるるいづみがわいつみきとてかこいしかるらん)

 あなたが美しい、あなたが華奢な字を書いている、あなたから良い香りがする、あなたが数々の男を夢中にさせているらしいという噂を聞くたびに、みかの原をザックリと分かちて流れるいづみ川のように私の心は張り裂ける。会ったわけでもないあなたを思って、なぜ毎夜毎夜こんなに胸苦しいのか。今夜も苦しい。私のあなたよ。

みかの原…歌枕。現在の相楽郡木津川町のあたり。恭仁京が置かれていた。

わく…分ける。湧くとも読める。みかの原(瓶原)には瓶が埋められたという話もあるそうでその話に拠るなら後者だけど、分けるという訳が一般的。

いづみ川…今の木津川の古名。「みかの原わきて流るるいづみ川」までが序詞。なので、いつみかわ、いつみきとてかと「いつみ」を重ねることで「いつ見きとてか」を導き出している。

見る…男女関係になる。

なんでこんな歌が詠まれたのだろうな、不思議な歌だなと思っているうちにひと月ぐらい経ってしまっていました。

かつて都が置かれた地や広く深い川を詠み込んで厳かな様子でもあるので、「まだ会ってない君のことが好きっ」っていう感じの恋に恋する少年の歌だとは思えませんでした。また、アイドルを大切に思って応援する少年の祈りが込められているようにも思えませんでした。あまり少年感がなかった…。少年っぽくはないけれど熱もある。壮年男性の遊びではない恋でしょうか。ですので私も、「湧く」ではなく「分く」で訳し、彼岸と此岸を分けてしまう川を暴力的な隔たりの象徴と解釈してみました。この歌も、よみびとしらずの歌なのでしょうかねぇ。

中納言兼輔

出典 古今和歌六帖、百人一首27番歌

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