駅までの夜道はしずか、大袈裟におててつないで遠回りしよ?

2020/06/02 痛いのを我慢できない友人が死んでしまったセデス百錠(佐藤真由美)

 年々、涙もろくなったり、疲れやすくなったり、生き物として弱くなっていってる感じがする。小さい動物がてちてち歩いている動画とか、見ただけで泣いちゃったりする。
 それはたぶん歳のせいかなと思うけど、最近一番ショックだったのは、気圧の変化に弱くなってしまったこと。

 ほんの1年前くらいまでは、気圧がどうでもわたしには関係なくて、職場でも「かえさんって現代病の類と無縁ですよね」なんて言われていた。
 健康が取柄のわたしは、それですっかり調子に乗っていたのだけど、ここ最近は、気圧の調子で頭痛がするようになってしまった。

 もともと、生きていて頭が痛いなんてことほとんどなかったものだから、最初は頭痛そのものにびっくりして、頭痛持ちの友だちに「頭が痛いんだけどコロナかな、死ぬのかな」とLINEしたら、「ああ、気圧だよそれ」と返事がきた。
 このわたしが気圧なんかに苦しめらていることを信じたくなくて、敵の動向を探るつもりで、気圧の具合で頭痛を予測してくれるアプリをダウンロードした。
 いちいち鎮痛剤の広告が表示されるのもなんだか腹が立つ。
 半信半疑でアプリを開くと、本当に気圧の折れ線グラフが「危険」と書かれたエリアに差し掛かる直前くらいの時間帯に、わたしは毎回律儀に頭痛を起こしていることがわかった。

 ついにわたしも、頭痛で低気圧を察知できるようになってしまった。
 おとなしく鎮痛剤を飲む。たくさんのお水で飲む。
 それにしても、鎮痛剤ってなんでどれも大きな錠剤で、のどに引っかかる感じがするんだろう。
 これをたくさん飲んで死んじゃう人がいるけれど、わたしは錠剤とかカプセルを1粒ずつしか飲みこめないから、もし死んじゃおうと思うようなことがあったとしても、何か他の方法じゃないと時間がかかってしょうがないなと思った。


2020/06/04 500円の喪中

 昨年11月、たきぐちくんという、好きだった俳優さんが死んでしまった。

 好きって言っても、たきぐちくんは活動量がそもそもかなり穏やかだったから、それに合わせてお芝居を見に行ったり、ネット配信の番組を見る程度だったのだけれど、毎年、彼が年末に必ず出ていたお芝居を、来月に控えたタイミングで突然死んでしまったのはかなりびっくりした。まだ30代前半だった。

 わたしの友だちで、たきぐちくんとよくセットでお芝居に出ていた俳優さんを追っかけている子がいるのだけど、たきぐちくんが亡くなった翌月、彼女は自分の母親や愛犬を亡くしたりもして、「かえちゃんは死なないでね」と泣いていた。
 年末、彼女と二人でチケットを取っていた、たきぐちくんが出るはずだった舞台を観に行くと、たきぐちくんの役は、代役の俳優さんが立派に勤め上げていた。

 今月からクレジットカードが更新になった。
 Amazonとか、コンタクト屋さんとか、よく使うネット店舗に登録しているカード情報は取り急ぎ入れ直したけれど、忘れた頃に1通メールがきた。
 たきぐちくんがやっていたネット番組のチャンネルからで、月額500円の引き落としができないとのこと。

 彼が死んでしまった今、一体何に払うお金だかよくわからないけれど、なんとなくそのチャンネルを退会する作業を今はしたくなくて、カード情報を入れ直してそのままブラウザを閉じた。

 わたしの500円がどこにいくのかよくわからないけれど、たきぐちくんのお墓参りだと思ってしばらくそのままにしておこうかなと思う。
 少なくとも、わたしの心が喪に服しているあいだは。


2020/06/07 ごっこあそび

 ごっこあそびが好きだ。

 小さい頃、気に入ってやっていたごっこ遊びはマッチ売りの少女だった。
 バスタオルをイスラム教の女性みたいに頭からかぶって、家の中を練り歩き、台所仕事をしている母の背後から「はーあ、誰もマッチを買ってくれないし・・・お腹がすいたなあ・・・」と話しかけ、食べ物を一口もらったりしてた。

 今もわたしのごっこ遊びは続いていて、一番よくやるのは服装でのごっこあそび。
 わたしが平日にしている格好は、いわゆるオフィスカジュアルなんだけど、その中でも、今日は丸の内OLっぽい格好にしようとか、今日は秘書っぽい格好をしようとか、コスプレ気分で服を選ぶ日が結構ある。

 休みの日は、行く場所や、会う相手に合わせて、何かしらのキャラに寄せた「ぽい」格好をしてみる。
 もちろん、自分が着たい服とか、好きなタイプの格好の中でできる範囲だから、一見してそんなに変化はないと思うのだけど、わたしの中での遊びとして「ぽさ」はすごく面白いおもちゃだ。

 この「ぽさ」って、服装に限らず、発言とか、暮らし方とか、なんでもそうだと思うけど、最初は誰かの真似だとしても、ある程度つづけていくと、いつかは自分のものになって、最後には「ぽさ」と、自分のもともとの持ち味が合わって、新しい何かになると思う。

 今のわたしができたのも、数えきれない誰かたちを真似ることと、自分がもともと持っていたものとの融合だし、これからも色んな人の好きなところを真似ながら、いい感じの人間になっていけたらいいなあと思う。

 ちなみに、今のわたしの髪型は、この紗倉まなちゃんの真似っこ。


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