あの頃は大切だった諸々が再生ごみになる金曜日

2020/05/07 言っても言わなくても同じこと

  明け方、悪夢がこわくて目を覚ましたはずだった。
 けれど、目覚めた次の瞬間にはもう、何がどんなふうに怖かったのかまるで思い出せず、あきらめてもう一度目をつむった。何かが怖かったんだよなあ、ともう一人の自分が首をかしげていた。
 予定の時刻に再び目を覚ますと、やっぱり何も思い出せなかった。

 体を起こすと、昨晩脱いだパーカーが、床に動物みたいに丸まっていた。
 ふと、抱きかかえられるくらいの大きさの、まるっこい動物を飼うのはどうだろうかなどと考えたりした。

 ゴールデンウィークは、どこにも行かないまま、誰にも会わないまま、嘘みたいに終わってしまった。いや、嘘みたいではないか。全然現実だった。
 思い返せば、ちゃんとゴールデンウィークの日数分生活があったし、何か買ったり、何か食べたり、何かを見たりしていた。
 わたしはこの状況を、いつまで拗ねてるつもりなんだろう。

 リモートの朝礼は、毎度画面に映る人が代わり映えせず面白くない。
 今日は、広告のことをやっているおじさんが、なぜか一瞬インカメラとアウトカメラを切り替えた瞬間があり、上半身はワイシャツを着ているのに、下半身は寝間着で、ベッドに足を伸ばして座っている様子が映って、それはちょっと面白かった。
 職場の人の、ごちゃごちゃとした部屋の様子や、ベッドや、寝間着のズボンを見るのは不思議な気持ち。
 この人、この後また寝るんだなと思った。

 仕事は案の定忙しかった。
 取りこぼしがないようにと思えば思うほど、仕事と仕事の間の余白の部分が失われていき、そこに社用携帯の着信音が突き刺さってくるような瞬間の連続だった。
 たまらず、社用携帯を分厚い毛布の折り目に隠して、知らんぷりしてみたりもしたけれど、毛布の隙間でもけたたましい着信音は鳴りつづけ、知らんぷりしているほうが疲れた。
 一つ息を吐いて、しぶしぶ通話ボタンを押すと、その瞬間に電話が切れた。一瞬、誰も彼も、みんなみんな嫌いみたいな気持ちになった。

 でも、本当に誰も彼もみんなみんな嫌いだったら、人と会えない今の状況をこんなに拗ねているのは変だし、わたしはやっぱり人が好きなんだと思った。



2020/05/08 人付き合いの正解がわかんない

 仕事中、後輩から泣き言のチャットが届いた。
 昨日事務所に出勤した際、代表から八つ当たりみたいな怒られ方をしたらしく、退職すら考え始めていると言う。

 彼女を叱りつけた代表弁護士は、たしかに癖が強くてよく怒るし、怒る内容もめちゃくちゃで、不条理な思いをしている所員は数えきれない。

 怒りっぽい人のもとで、過度な我慢をするのではなく、無理のない範囲で長く居続けるには、やっぱりこちらが大人になったり、妥協したりするのが手っ取り早いように思う。

 そもそも、いい大人なのに感情をむき出しにして怒ったり、それを人にぶつけてしまうのは、誰よりも本人が感情に振り回されてるように見えるから、つらいだろうなと思ってしまう。
 感情のままに怒り狂っても、大して気持ちが良くない上に、怒りをぶつけた相手とか、それを見ていた人・聞いた人からも嫌われちゃったりして、なんだかとっても損というか。

 だから、相手がどうでも良いことで怒り出したら、付き合ってる彼女が生理で機嫌が悪いときの彼氏になったつもりで対応するようにしてる。
 やさしく、刺激せず、逆らわない。
 後輩にも、「あれは生理みたいなものだから忘れていいよ」と伝えた。

 わたしの人付き合いの仕方って、長く付き合っていくとか、その場をやり過ごすとか、穏便さという点ではけっこういいんじゃないかなと思っているんだけど、相手の成長とかに思いを馳せ始めると、ちょっとどうなのかなってときもある。

 相手の成長、ってなんだろう。
 その前に自分だよなあ。


2020/05/09 ちゃんとした一人

 伸びに伸びていたネイルを直しに街へ。
 外出時間が短いと、かばんが小さくても不安じゃないことに気がついた。
 母からもらった、ビーズの刺繍がたくさん施された小さなかばんを引っ張り出して持って行った。

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[携帯財布でおわり、みたいなかばん]


 お店に着くと、今まではなかった入店時の検温や、ネイリストさんとお客さんを隔てる飛沫感染防止のアクリル板が導入されており、こういう頑張りがさっさと報われる世界であってくれと心から願った。

 街の人通りは、これまでとそんなに変わっていなかったけれど、営業するようになったお店が増えて、一瞬今がどんな時期なのかわからなくなった。
 けれど、よく見ればすれ違う人はみんなマスクをしていたし、ルミネもマルイもお休みだった。

 緊急事態宣言以降、家にアルコールを持ち込む機会が増えた。
 わたしはお酒が弱いし、単に飲みの席が好きなだけで、お酒そのものをどうこう思ったことはあまりなかったから、家で一人で飲むことはほぼなかった。
 それが、飲み会がまったくなくなった今、単純にお酒の味が恋しくなる瞬間があることに気がついた。
 今もコンビニで買ってきたシードルを片手にこれを書いてる。

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[瓶で飲むとなんでもうまい]


 文字とお酒の相性は良いなあと思う。
 お酒を飲みながら読書するのも気持ちがいい。内容がひとっつも理解できなくたっていいし、明日目が覚めて、何も覚えていなくたっていい。
 熱くなった頬と、すこしだるくなった体で姿勢悪く座って、自分に関係のない物語をただ読むだけ。

 ここ数日、ちゃんと一人にならなきゃな、とよく思う。
 なんとなく、何かしらの方法で、何かとつながっている時間が絶え間なくつづいている感じ。それが悪いことってわけではないんだけど、なんとなく、本当に必要なものを、必要な分量だけ残して、だんだんに減らしていってみようかなと思った。
 もっと大人になるために、これまで大人になってくる過程で増やしてきたものを、今度は少し減らす必要があるかもしれない。
 大人になる前の、もっとシンプルに暮らしていた時のことを考えてる。

 お酒を飲んでいるので鼓動が早い。
 トク、トク、トク…って自分の心臓の動きが振動で伝わってくる。

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[昼に見た花]

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