アニメソング解体新書/サーシャわが愛(宇宙戦艦ヤマト・新たなる旅立ち/1979年)

 

 アニメソングの発露として、かっこよさやカタルシスの裏側に、やさしさや思いやりといったものが存在する。

 それが子供に向けられたものであるとするなら、なおさらである。

 

 「母モノ」とこの項で呼んでいるアニメソングの中でも、母に主格を置いた歌は珍しい。

 「サーシャわが愛」はそのひとつである。

 この歌は、イスカンダルの女王「スターシャ」が自分の娘「サーシャ」に向けて歌ったかのような印象を受ける。

 おそらく、作詞の阿久悠もそういう意図を持って書いたのだろう。

 

 わたしは、この歌は1979年の夏休みにはじめて聴いた。

 そのときの驚きは相当であった。

 歌そのものがではなく、歌っている人物が誰か、である。

 エンディングに流れるこの歌を聴きながら「これ、島倉千代子やんな?」と思ったものである。

 しかも、エンディングロールに「サーシャわが愛」とだけ出て、誰が歌っているかはわからなかったのである。

 

 「あれは、だれやったんやろー」

 

 夏休み中にもかかわらず、ヤマト好きの仲間が集まって「だれやったんやろー」と話し合ったりしたが、その話題は一瞬にして終了。

 「暗黒星団帝国ってなんやねん!」に話題が終始した。

 その程度であった

 聞いたときの驚きは相当であったはずだが、それを持続することはできなかった。

 しかし、なぜあのときにヤマトの歌が島倉千代子だったのか。

 実は、わたしたちはあまり深く考えていなかった。

 当時、高校生だったわたしにとって、島倉千代子は遠い存在だった。

 大晦日の紅白歌合戦に出てくる歌の上手なおばさんくらいの認識だった。

 

 それまでにも「さらば宇宙戦艦ヤマト・愛の戦士たち」の主題歌を沢田研二が歌ったこともあったし、そんなこともあるんだろうくらいに思っていた。

 

 これはあとになってわかることなのだが、テレビ版の主題歌を歌ったささきいさおは日本コロムビアの所属(当時)なのに沢田研二はポリドールの所属(当時)。

 この「新たなる旅立ち」は「ドリフ大爆笑」と同じ枠(フジテレビ系の火曜日7時から、関西在住のわたしは関西テレビ)の放送。

 劇場版「宇宙戦艦ヤマト」のテレビ放送は「ゴールデン洋画劇場」の枠でフジテレビ系

 「宇宙戦艦ヤマト」をはじめとする、「ヤマト2」「ヤマトⅢ」のテレビシリーズは日本テレビ系。

 レコード会社や放送局の枠を超えて、「宇宙戦艦ヤマト」というコンテンツは動いていたのである。

 ちなみに、リメイク版の「宇宙戦艦ヤマト2199」はMBS/TBS系(大阪では毎日放送)である。

 そして、島倉千代子は宇宙戦艦ヤマトの音盤を出していた日本コロムビア所属の歌手。

 この歌にしてはじめて、日本コロンビア(学芸部)は自社の著名歌手をアニメソングに起用することに成功するのである。

 

 実は、この起用。

 とんでもない秘話が存在したのだ。

 わたしもラジオで本人の口から語られるのを聞いた。

  2003年の春まで、大阪は朝日放送ラジオで放送されていた、「歌はおまかせ小山乃里子です」という番組があった。

 パーソナリティの小山乃里子さんは関西ラジオ界の重鎮。

 各方面に顔が利き、さまざまなゲストを呼んでのトークも楽しい番組だったのだが、そのゲストの一人が、島倉千代子だった。

 小山さんと島倉さんは旧知の間柄。

 そのフリートークの中で語られたのが、この歌の誕生秘話だった。

 

 「新たなる旅立ち」は放送された1979年といえば、島倉千代子の借金が極大だったころである。

 ヤマトの音楽を担当していた宮川泰氏から「マンガの歌、歌ってみる気はある?」と声をかけられ「歌うことしかできないから、歌います」と、答えたという。

 

 「それがね、戦艦ヤマトの歌だったのよ」

 

 本人はもっと子供向けのかわいらしい歌か元気な歌を想像していたそうだが、その後プロデューサー(西崎氏)と会って、作詞の阿久悠とも対面で歌詞を読み「自身に子供がないこと」を了承してもらって歌ったのだそうだ。

 

 西崎氏がレコードの発売前に相当な金額を前払いしてくれたことを、バラエティ番組でご存知のあの調子でふわりふわりを語っていた。

 そういえば、作中で、母であり女王であるスターシアはイスカンダリウムの採取を阻止するために、イスカンダル星もろとも自爆して果てる。

 「サーシャわが愛」は、女の泣き歌を得意とする島倉千代子には珍しい、哀切な子守唄でもある。

 こどものいないことを了承してもらったというのもうなづけるし、消え入りそうな歌声が、あのころには珍しくなっていた心情吐露型のアニメソングにマッチしている。 

 機会があれば一度じっくりと歌詞をよく吟味して、歌ってみてほしい。

 時代に埋もれた名曲であることがわかることだろう。

  

 

『サーシャわが愛』

作詞:阿久悠 作曲・編曲:宮川泰

歌:島倉千代子、フィーリング・フリー

 youtube:http://youtu.be/71Za5Qd4uYk

 歌詞:http://www.jtw.zaq.ne.jp/animesong/u/yamatoa/sasha.html

 カラオケ:Joysound/UGA:941141 DAM:ありません