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守ってあげたくなるリーダー

新しい浦和のリーダーシップの形。私は、小泉佳穂選手を周りの選手たちが支えていくスタイルではないかと予想しています。阿部勇樹選手の引退セレモニーの試合予告に選ばれた、この写真が表しているように。

(読みやすくするために何回かリライトしてます。ご了承ください。)

唯一、リーダーシップへの気構えを問われた選手

ホーム最終戦で販売された特別編集40ページのMDP。このMDPでロングインタビューが与えられた選手は、阿部選手・槙野選手・宇賀神選手・西川選手・小泉選手の5人だけでした。若い選手のロングインタビューは小泉選手だけで、他の選手たちは「その他大勢」という感じに、短いコメントがまとめられていただけでした。

重要なのは小泉選手への次の質問だと思いました。

阿部選手や槙野選手、宇賀神選手がチームを去ります。今後自分がリーダーシップを取っていこうという気構えはありますか?
そういう存在になりたいという気持ちはすごくあります。特にピッチ内で味方を動かして、コントロールする力を身につけないといけないと思っています。ただあの3人は強烈というか、ひときわ存在感があるので、もちろん彼らの代わりにはなれません。気持ちを引き継いで、見習って少しずつ成長していければと思います。

少なくとも、小泉選手自身はそうなりたいと強く思っているようだとわかりました。

小泉選手は謙虚だから、もしそうなってほしいと周りから言われていても自分からは口に出さないだろうし、自分がそれに相応しい存在だとも言わないと思いました。ただ、オフィシャルの媒体において、この質問が投げかけられているのは小泉選手だけでした。

後半の文も、自分にはリーダーは務まらないという意味ではないと思いました。これは謙虚な人特有の言い回しで、もし自分がリーダーシップを取る場合は3人とは違う形になると考えているという意味だと思いました。

影響力のある選手をあえて外す効果

このMDPの西野TDのインタビューには次のように書かれていました。

阿部選手が引退を表明し、宇賀神選手、槙野選手ら10年以上レッズに在籍し、試合経験豊富な選手が契約満了となりました。彼らの経験値は簡単には補えないのではないかと思いますが、そこはどうお考えですか?
3年計画の中で、経験のある選手たちの力を徐々に若い選手、新加入選手に還元していくことを考えてきましたし、行われてきたと思っています。また経験のある選手が減ることで、次の世代の選手たちのリーダーシップが発揮されると期待しています。
もちろん経験のある選手がチームを去ること自体はマイナスですが、総合的に考えればプラスになると判断したので、今回の決断に至りました。よく「世代交代」と言われますが、今季より強いチームを来季に作るために編成を考えているわけで、その結果が世代交代になることもあれば、そうでないこともあります。世代交代が目的ではありません。

経験のある選手という質問でしたが、彼らはチームの精神的支柱になっている選手でもあると思いました。そんな彼らをあえて外すというきわめて重い選択が、世代交代を目的にではなく、強いチームを作るという目的で行われたのだと理解しました。

もし仮に小泉選手がリーダーとなったとしても、影響力のあるベテラン選手がたくさん残っていては、他の選手がそちらを見てしまってリーダーシップが取りにくくなります。そうすると組織運営の観点からは、影響力のある選手を外すという選択も有効になってくるのではないかと。

どんな未来を見たいと思って選択されたにしても、それは選択した側の責任であり、選手には責任はありません。リカルド監督の涙も、その責任を受け止めたものなのかもしれないと思いました。

小泉選手のリーダーとしての素質

小泉選手が中心となった試合のパスワークは見違えるようになります。味方7〜8人、敵含めて10人の動きを計算しているそうです。それだけのことを同時に考えながらプレーできる賢い選手はなかなかいないと思います。

小泉選手の選ぶ言葉は、いつも論理的で温かいなと感じ。論理に嘘がなくて、自分の心にも矛盾しない言葉を瞬時に探しています。自分の栄誉は控えめな表現に置き換えていて、誰も傷つけない温かい表現を見つけてくれます。リアルタイムの会話でそんなことができる人はなかなかいないです。その様子は、多くの選手の動きを認知しながら素早く正確なスルーパスを通すピッチ上の小泉選手の姿と重なりました。

それは普段から深く考えていて頭の回転が速いからだと思うのですが、対照的に、強そうなオーラを一切表に出さない選手です。ことごとく謙虚、そして自然体です。だから選手にもサポーターにも心から可愛がられるのだと思います。周りが守ってあげたくなる、そんなキャラクターだと思います。

私の見る限り、それはそういうキャラを計算して作っているわけではなさそうです。販促をやらせると急にぎこちなくなる所からわかるように、与えられたセリフやポーズは苦手なようです。自分の心から出たもの以外はうまく表現できないのだと思います。きっと自分の心を開くことで、自然体で心を表現してきたのだと思います。

このため今までの「強いリーダー」のイメージとは合わない選手かもしれないです。でも時代の空気が変わってきた中で、小泉選手の在り方は、若い人たちに受け入れられる新しいリーダー像のひとつだと思いました。

愛され守られながら、賢さでチームを率いる。こんなサッカー選手が世の中に知られるようになれば、サッカーを好きになる人がもっと増えるとも思います。

すでに今シーズンからその体制だった可能性

シーズン前半、チームの中心はすでに小泉選手だったのではないかと思っています。試合後のインタビューでチームの意図を説明していたのは小泉選手でした。川崎戦で大敗した後、このまま若い選手たちにやらせようとベテラン選手たちが言っていました。「若い選手たち」と複数形で言っていたのは、小泉選手ひとりに批判が向かわないよう守っていたのではないかと推測しています。

練習後や試合中に選手が自然に集まってサッカーの議論ができる雰囲気が、前半の浦和の個人的に好きなところです。あれは去年までの浦和では難しかったはずです。それが小泉選手が作るチームの雰囲気なのではないかと思ってます。

シーズン後半は江坂選手がピッチ上のリーダーシップを取っていたようです。小泉選手が勉強になると言っていたので、嫌な気持ちにならない指示の出し方などを勉強できたのかもしれないと想像しています。それを身につければ小泉選手もピッチで味方に指示を出せると思うし、それによってもっと高度なチームプレイが実現できるはずだと思っています。

小泉選手が走るとピッチの他の選手が輝いて見えます。前半戦でユンカーや他の選手たちを輝かせていたのは小泉選手だと思います。だから同じように、小泉が輝かせた江坂選手や平野選手も早く見たいですし、小泉選手が本気で作り込んだ全力の浦和を見てみたいと思っています。

阿部選手とオシム氏に似ている小泉選手

阿部勇樹選手は「謙虚でおとなしい」選手だったそうです。

オシム監督はそんな阿部選手を、ジェフのキャプテンに据えるという選択をしたと知って驚きました。当時阿部選手は21歳だったそうです。

そんな阿部選手はオシム氏のような指導者になりたいと言っていました。それは、もし阿部選手がこれから同じことをしようと考えていても、おかしくはないということも意味しています。

ではなぜオシム氏はキャプテンとして阿部選手が適任だと判断したのか。その答えは最新のインタビュー記事にありました。

サッカーにとっても、サッカーに関わりサッカーを愛するすべての人々にとっても、阿部はひとつの模範だった。彼は持てる力の100%を常に発揮し、必要に応じてポリバレントにプレーした。知性はサッカーにおいてとても重要だが、多くの人たちはそのことを忘れている。知性が鍵であることを。サッカーはシンプルな競技ではない。人々が考える以上にずっと複雑だ。そして阿部はすべてを理解していた選手のひとりだった。攻撃でも守備でも、何をしなければいけないかを。チームメイトにも的確に指示を出した。素晴らしい試合を実現するためには、彼のような選手が必要だ。

今のチームでこのような特徴を持った選手は、私は小泉選手だと思いました。

偉大な選手は相応しい環境のなかでは偉大であり続けることはできるが、阿部が示したのは謙虚さだった。望ましくない状況においても謙虚でいる。多くの選手が自分はメッシだと思い込んでいる今日の状況で、彼は極めてノーマルだった。

記事を読み進めるほど、オシムの目に映った阿部選手と、今の小泉選手がよく似ているのだということがわかりました。

オシム氏が重ねる言葉と、インタビューで小泉選手が話す言葉もよく似ていると感じました。価値観が似ている感じです。

阿部選手はオシム氏のことが大好きだと言っていたので、きっとこういう人が好きなんだろうなと思いました。

阿部選手の今シーズンでの引退

阿部選手は浦和のキャプテンです。なので、自分が闘えなくなったという理由で、今後のチームのリーダーシップについて具体案なしに引退するような人間ではないと思いました。

自分と同じものが見えていて、次のリーダーとして十分な素質を備えた、かつての自分のような若い選手が目の前にいる。その状況が、今シーズンでの引退を決めた理由のひとつではないかと思いました。

もしそうなら、阿部選手の引退セレモニーの試合に、あの開幕戦の写真を選んだのはすごいと思いました。小泉選手の肩を抱いて祝福する阿部選手。小泉選手についていく汰木選手。笑顔で任せて去る槙野選手と宇賀神選手。

他の写真も選べた中で、この試合のテーマとしてこの開幕戦の写真を選んだところに、阿部選手やチームの気持ちがこもっているのかもしれないと思いました。

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謙虚なリーダーは周りが支えていく

リーダーシップを取れる選手が「出てくる」とはどういう過程なのか。人の上に立つ、キャプテンスタイルのリーダーなら「俺について来い」と名乗り出るイメージだと思います。

だが謙虚なリーダーの場合は「この人についていこう」という空気が自然には発生しません。このため周りの意志によって、リーダーに据えるプロセスが必要になります。オシム監督が阿部選手に行ったのはそれです。また、今クラブで起こっていることもその一環である可能性があります。

謙虚な人の話は疑って聞いたほうがいいです。自分の栄誉に関することが、巧妙に言葉の裏に隠されてしまっているからです。加えて、守ってあげたくなるタイプにも注意したほうがいいです。外部からの批判を受けないように、周りが協力して情報を隠してしまうからです。

だから次期リーダーが誰か、誰からも明言されずにいるのだろうと想像しています。もしかすると、このまま明言せずに進めていくのかもしれないです。

リーダーが困っているときは、周りが声を出して支えていけばいい。そうやって声を出す選手が、多くの人が想像しているリーダーかもしれません。でもそのとき声を出す選手は、一人よりも複数の方が効果的です。そうやってみんなで新しいリーダーを守りながら、協力して支えていけば大丈夫だと思っています。

2021年のこのチームは、そういう素敵なチームだったのかもしれないなと思いました。

集合写真の小泉選手は頼もしげでした。来季、どんなチームを見せてくれるのか、とても楽しみにしています。

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