「スペースコレクターみゅう」第3話【秘密】
サァァァァァァ。
雨。
長く降り続くその空間は、まるで、時間が止まったみたいだった。
窓の外は、真っ白で、雨音しかしない、そんな日曜日だった。
「外、出てみようかな……」
時計の針は、まだ、朝の6時を差していた。
◆
小学六年生の時、みゅうは、両親を失った。
兄弟もいなかったので、みゅうは、今のマンションに、たった一人で暮らす事になった。
三人で暮らしていた家は、おじいちゃんとおばあちゃんが処分した。
おじいちゃんとおばあちゃんは、体が不自由で、同じ老人介護施設で暮らしている。
たまに、会いに行くけれど、その位で、みゅうの淋しさは、癒えなかった。
「猫でも、飼おうかな……」
そう、やってきた近所の有料公園を傘を差して、散歩していると、小さな湖の脇に、一人の男性が倒れているのを見つけた。
(人……?)
みゅうが近寄ってみると、なんだか、重厚な鎧をまとった、そばに立派な剣も落ちていて、ただならぬ様子だった。
(コスプレにしては、何か違うような……)
「う……」
雨に濡れて、気がつかなかったが、怪我をしているらしく、血まみれだった。
まだ、朝、早いせいか、人がいない。
紫陽花が、雨に打たれて、泣いている。
(どうしよう……、家に知らない人を入れるワケにもいかないし、あ、そうだ……)
そう考えていた時、その男性と目が合った。
「……!!」
「……!!」
お互い、雷に打たれた様な衝撃があった。
その男性の瞳の奥は、深い絶望と悲しみに濡れていた。
すると、その男性は、バタッと再び倒れてしまった。
「あ、いけない!!」
みゅうは、あたりを見渡すと、人がまわりにいない事を確認した後、首から下げていた、キューブのネックレスの底を三秒、長押しした。
その瞬間、みゅうと、手を繋いだその男性は、キューブの中へ消えた。
◆
みゅうが、普段身につけていたのは、非常用ホテルのキューブだった。
このホテルは、未来のホテルの一室で、災害用や、避難用に設けられている、未来の護身用の道具の一つだった。
これは、みゅうがコピーしたものではなく、能力堂で、みゅうが買っただけだ。
ただし、中に入ると利用料金がかかる仕組みだった。
中の部屋は、ダブルベットとテーブルと椅子二脚、テレビ、冷蔵庫、エアコン、シャワー、トイレ完備のビジネスホテルだった。
「今、手当てしてもらうから、ちょっと待っててね」
すると、ホテルの医務室から、ナースがかけつけてくれて、応急処置をしてくれた。
体を拭いて、ベットに横に寝かせる。
一通り、食事も取らせ、その男性は、包帯だらけになりながらも、スヤスヤと眠っていた。
(良かった……。さて、私は、家に帰ろう)
みゅうは、ホテル内にある、転送装置で、家の玄関まで、飛んだ。
「ふぅ」
傘を玄関にたてかけて、みゅうは、部屋に戻った。
◆
翌日。
「でさー、そしたら、さわが…って、みゅう、話、聞いてる?」
「あ、うん、ごめん、聞いてるよ」
「何だか、元気ないわね?気のせい?」
「いや、ちょっと、考え事してて、あ、そうだ、私、そろそろ自分の教室戻るね」
「うん」
みゅうと、ひかりと、さわは、三人とも教室が違っていて、さわは今日、風邪で休んでいたので、ひかりとばっかり、昼休み話していた。
(ちょっと、様子を見に、ホテルに行ってみましょうかね)
すると、みゅうは、非常階段で、ネックレスのキューブの底を、再び三秒長押しした。
「具合は、どう?」
「って、うわぁ⭐️」
「え?着替え中?!ごめん!!」
キューブの中には、直に部屋に入るシステムなので、扉の前でノックは、出来なかった。
「着替え、終わった?」
「え、あ、うん」
昨日、倒れていた男性は、良くみると、まだ、18才くらいだった。
とは言え、みゅうより4つも年上だったけれど。
「あの、助けてくれて、どうもありがとう」
「いえいえ、少し回復したみたいで、何より。でも、所で、なんで、あんな場所で、あんな姿で、倒れてたの?」
「実は、魔王に追われていて……」
「魔王?魔王って言うと、世界征服を企む、あの異世界とかにいる、魔王の事?」
「え?異世界?異世界って、なんですか?」
「え?いや、その前に、もしかして、貴方って、勇者様なんですか?」
「え、あ、まぁ……」
(マジかよ、まさかの、異世界の勇者拾っちゃったパターンかよ)
「あの~、それで、仲間の方達は?」
「全員……」
「わかった、もう、言わなくて良いから!!」
辛そうなその表情から、勇者はかなり追い詰められているようだと知った。
我ながら、とんでもないトラブルを抱え込んでしまった、と、みゅうは思った。
「また、魔王を倒しに、元の世界に戻らないといけないんですよね?」
「いえ、それが……」
「え?どういう事?」
◆
実は、勇者は、担ぎ上げられて、人間達に騙され、仲間を失った挙げ句、次の魔王にさせられようとしていた。
魔王は、次の魔王になるための勇者を探していて、勇者は、その追っ手から、命からがら逃げてきたのだった。
「にしても、世界中の悪事を魔王のせいにして、成敗させて、次の魔王に抜擢するなんて、とんでもない連中ね、あなたのいた世界の人間たちは」
「ええ、まぁ……」
「あなた、もしかして、行く所無いの?」
「行く所はないけれど、待ってる人はいて……」
「もしかして、お姫様??」
「どうして、それを?」
(王道過ぎますって、勇者様)
「そうよね、こんなイケメンに、運命の人がいないわけないわよね(泣)」
「あの……(汗)」
「心配御無用、元の世界に戻る方法は、ちゃんとあるわ。未来の科学は、進んでるんだから」
「科学?」
「まぁ、とにかく、あなたを早く、元の世界に返してあげるわ」
◆
それから、二週間、みゅうは、その勇者の世話をしてやった。
ちなみに、名前は、デュオス・フィルビー。
見ての通りの18才だった。
デュオスの想い人、お姫様のネネという少女は、大層美しいらしくて、ひたすらデュオスから、いかにネネを慈(いつく)しんでいるのかを聞かされた。
そして、あっという間の三週間が過ぎた。
◆
「帰る日が来たね」
「うん、いろいろ、ありがとう、みゅう。これは、宿代の足しになるか、わからないけど」
と、勇者デュオスは、みゅうに宝石のブローチをくれた。
「あら、キレイ」
「これで、足りるかな?」
「気持ちだけで良いわ、大切な物なんでしょ?」
「いや……、別に……、その……」
「気にしなくて良いわよ、私、独り身だから、さみしい所だったし、ちょうど良かったわ、私こそ、ありがとう」
「みゅう……」
「あっちに帰ったら、ネネさんによろしくね。あと、次の魔王にはならずに、逃げきる事」
「わかった」
みゅうは、たった一つだけ、デュオスに聞いて欲しい願いがあった。
しかし、それを話すか、ずっと迷っていた。
「ねぇ、話してなかったけど、私、実は、物体を複製する超能力があるの」
「へ?どうしたんだい、急に」
「ねぇ、デュオス。一つだけ、お願いがあるの……」
「なんだい?」
「あなたのコピーを作らせて欲しいの」
「え?」
◆
みゅうの超能力は、空間転写だけではなく、物体を複製する事、そのものであった。
みゅうの秘密、それは、お金、宝石、人間、あらゆる物を複製する力だった。
両親が死んで、一人ぼっちになったみゅうの最大の願いは、いつでもそばにいてくれる人を作る事。
しかし、自分以外の人間を、コピーしていいものか、ずっと悩んでいた。
そして、いっそ、聞いてみる事にしたのだ。
「私、この三週間で、デュオス、あなたの事が好きになっちゃったみたい。だから、お願い。あなたのコピーをちょうだい」
◆
「複製って、僕を複製して、その複製された僕と暮らすって事かい?」
「そうよ。オリジナルは、あなた。オリジナルかどうかは、影でわかるわ。複製品には、影が無いの」
「でも、それは……、僕の記憶を持った僕そっくりな人間が、ずっと君と暮らすって事だろう?ネネとも、会えずに……」
「そういう事になるわね」
「どうして、そんな事を……」
「嫌だって、言うなら、ここからは、帰さないわ」
すると、どこからともなく、みゅうそっくりな人間が、ゾロゾロと四人も現れた。
「まさか、この人達は!!」
「その、まさかよ。私達だけじゃ、さみしいの。ねぇ、勇者様。私達のそばにいて」
「待ってくれ!!ネネ!!ネネ!!」
◆
「ん……」
気がつくと、勇者は元の世界の森に倒れていた。
体は、なんともない。
(夢?)
「勇者様!勇者様!」
遠くから、ネネが駆け寄ってくるのが、わかる。
「どうしたんですか?デュオス様」
「いや、なんでもない」
(僕は、こうして帰ってこれたんだ、きっと、大丈夫、なにもされてない……)
勇者の不安を他所に、みゅうのいた世界では、勇者の不安は、的中していた。
◆
「勇者様、今日から、あなたは、私達の物。どこにも、行かせないわ」
その勇者のコピーとして、複製された勇者デュオスの体には、影がなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
みゅうは、コピーしたキューブを繋げた世界の中に、デュオスを閉じ込めた。
「どこにも、行かせない。私だけの勇者様。来れる物なら、助けにいらっしゃい、デュオスのオリジナル。くすくすくすくす」
第三話、終わり。
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