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僕と私の内緒の世界 3 (二人遊び)

島の夜は何もすることがなかった。昼は何かあるという訳けでもないけれど、島には何もない。
時間だけがいっぱいあるだけだ。

火曜日の夜7時半、週に一度のテレビアニメ。スミレと私は毎週楽しみにしていた。

「はじまるよ」

泣いた後のような濡れた声で、スミレが私を呼ぶ。
あまりないことなのですが、スミレがこの体を預かっている時がある。その時の私は、意識が遠くにあり、記憶は断片的にしかない。

テレビからアニメのオープニングが流れ、私の意識も戻ってくる。
体の自由がスミレから私へと移る。

「西暦2008年7月、人類は絶滅の危機に直面していた」

暗くジメっとしたナレーションの後、軽やかなメロディーが流れ、週に一度のアニメが始まった。
スミレの様子を気にしながらも、私はアニメの世界へ入っていった。

「心がこんなに ふるえるのは なぜ」
アニメのエンディングが流れ、週一の楽しみが終わった。

「終わっちゃった、面白かったね」
「うん、面白かった」

さっきまで濡れていたスミレの声は普通に戻っていた。

「ババ抜きする?」
「はぁ。どうやってするのよ」
「え?普通にカードを二人分配ってさ・・・」

お互い、配られたカードを手にもつ

「オレのカードは・・・」
「スミレ、見たらダメだよ、目をつぶって」
「え?」

体は全て二人で共有しているので、私が見ている物はスミレも同じく見ているのです。

「あぁ、オレも目をつぶらなきゃ」

カードを持ったまま目を閉じた。

「・・・」

「カードが見えない!」二人して同じことを同時に云った。

「じゃ、カードを一枚抜いて」

「これか?」
「それとも、これ?」

私はカードの端を一枚つず摘まんでいった。


「これ!」

何枚目かのカードを指したときスミレが答えた。

「目を閉じてちゃ、何を引いたか分からないな」二人して云う。

目を開けて、スミレが引いたカードを見る。

「いきなりババかよ」二人して笑う。

「見たらタメじゃん!」
「つまんない」スミレが云う。

スミレと二人、時間を持て余していると、

「早くお風呂入れ!」

隣の部屋からオバァの声が聞こえた。

「イヤ!」

スミレが叫んで消えた。


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