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ジョージ・ホイットマンの日曜日の朝のパンケーキ

 シェイクスピア店のオーナー、ジョージ・ホイットマンが日曜日の朝に焼くパンケーキのことを、友人が教えてくれた。シェイクスピア書店の2階はフリーで泊まれるホテルになっていて、世界各地からやって来た人たちにベッドが無料で提供されている。これは、そんな彼らにジョージがふるまう日曜日の朝ごはんである。
 是非とも食べてみたいと思った私は、ジョージに「日曜日にパンケーキを食べに行ってもいい?」と尋ねたところ、「もちろん、いいよ。おいで」と言ってくれたので、ある日曜日の朝、朝食抜きでシェイクスピア書店を訪ねた。
 書店の4階に上がると、ちょうどジョージがパンケーキを焼くために降りて来たところだったので、朝の挨拶を交わして、早速ジョージと共にパンケーキの用意に取りかかった。
 だが、何しろ10人分以上のパンケーキを焼くのだから、忙しい。手伝いながらジョージにレシピを尋ねたところ、粉と塩とベーキングパウダーだけのシンプルなものだよ、とのこと。ちなみに、ジョージのお嬢さんのシルビアが作るときは、卵が入るそうである。
 ジョージは焼く役、私はパンケーキの種を混ぜる役とお皿に盛りつける役である。

 テーブルにシロップとジャム、クリームを並べ、急いでキッチンに戻ると、すでに何枚かのパンケーキが焼き上がっていたので、それをお皿に盛り、珈琲と共にテーブルに運ぶ。
 作っている最中には、ジョージに頭をフライパンでコツンとされたりもしたが、助かったよ、と褒めてもらい、私もテーブルについて、お喋りを楽しみながら、パンケーキを平らげた。
 この日のメンバーは、スウェーデン人の女性が3人とドイツ人の女性、アメリカ人、カナダ人、イギリス人の男性、友人と私の9人である。
 さまざまな国の人たちが滞在しているので、ここでの公用語は英語である。フランス語を喋れない私は、日々の暮らしの中で意思疎通をはかるのに戸惑っていたが(特に、全く英語を話せないアパートの管理人の年配の女性とのやり取りに)、ここにいると何だか英語が自分の母国語のような気がしてくるから不思議だ。脳内も完全に英語のスイッチに切り替わっている。心もとない英語なのに、である。

 それにしても。もう90歳近いジョージが、ここに滞在してる若者たちのために、日曜日の朝、パンケーキを自ら焼いている、この事実は何とも感動的であった。(2001年 写真はその日の朝のテーブル)



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