見出し画像

『春ゆきてレトロチカ』感想(ネタバレあり)

久しぶりにゲームをクリアした。最高だった。久しぶりに泣きながらクリアを迎えた。感想を思うがままに書きつらねたいと興奮してるゲームはちょっと久しぶりかもしれない。

ネタバレを大いにしています。

ゲームを始める前の感想

・正直に言うと「実写である珍しさを売りにしたゲームがまた出たのか」と考えていた。情報が出たときにもなんとなく見てはいたものの、もともとあまりレトロっぽい雰囲気が好きでないとか、推理ものを今更実写でゲーム化することになんの意味があるのかとか、「ゲームなのに映画みたいな体験!」に期待していなかったりとかで「そのとき暇だったらやろうかな」と思っていた。

・やるかーとなったのは友人に勧められたからだった。そのときもなんとなく手に取っていなかった理由は上のようなことを話していたような気がする。「まあまあまあ・・・ぜひやってみてくださいよ」と言われてPS StoreでDLした。

ゲーム序盤の感想

・映像はきれいだなとか思いつつ、ゲームとしての操作性であったりとか、「これいるか・・?」といったような推理であったりとか、たぶん何かしらの操作をさせないとほぼ映像になってしまうからであろう途中途中に挟まれる選択肢に少しげんなりしていた。

・加えてときどきある芝居としての違和感。「名探偵気取りの女子がイケメンのパートナーとこの桜の木の下から出てきた骸骨の謎とか解いていくのね・・」とどんどんげんなりしていく。

・というか、序盤は「げんなりする要素」を探していたような気がする。それだけ本当に期待していなかったというか、どうしても「428」、ひいては「街」、最近でいえば海外の「her story」といった実写ゲームと比較してしまう。

・「街」は当時かなりの挑戦だったろうし、あの時代のグラフィックでは出せない生々しさを出せていて素晴らしかった。「428」は「街」の正統派続編のような位置だったので、実写であることに意味があった。どちらもお話が抜群に素晴らしかったし、「428」のときは動画も入れられるようになっていたので「自分が操作することでこんなにドキドキするドラマが見られるなんて!」と本当に感動した。

・「her story」はまたちょっと違うけど、PCの目を通して見る映像であることに、現実とゲームの境目が曖昧になった感覚があってとても不思議な体験だった。

・グラフィックが進化した今のゲームで、「実写であること」を選ぶのにはそれなりに意味がないといけないと思っていた。そして今の時代に、スクエニのような大手の会社がそれに切り込んでくる期待をしていなかった。

ゲーム中盤~クライマックスまでの感想

・変わらずときどき芝居の違和感を感じつつも、変わらず絵がきれいだな・・というのと、だんだんと見えてくる違和感が散りばめられる意味や、物語全体を通っている一本の筋のようなものが見えてくる。

・Tipsの細かさや、年表などもよく見ていくと、「もしかして・・」や、「自分が感じた違和感はどこかに理由があったのではないか?」と思えてくる。

・2章の犯人の独白から3章に至る瞬間、急に「このゲームすごいおもしろい」となったのを覚えている。あまりにも謎を置き去りにしていて、なにか絶対に見落としていると思わせてきて、物語の先にそれを解き明かすヒントがあるような気がするという予感をさせてくれた。

・ここからもうジェットコースターで、自分が感じていた違和感が全部「ああっ!?」となって、物語の真犯人や、ちりばめられた謎や、作品を通して語られるメッセージや、キャラクターそれぞれから出ていく愛の矢印やらで、最後は大号泣だった。

・自分がまだゲームでこんなに感動してこんなに泣くんだ・・となるくらいには泣いた。エンディングは少し悲しいけど、とてもさわやかで、本当に見届けられてよかったと思った。

・最終章の出し方がまたずるい。エンドロールが最初に出る章は「まあ、こんなもんか・・・いや、これでもいい終わり方だったとは思う。」となっていた。そのときには本当にやってよかったなと思っていたし、やや食い足りないというか、「なんとなく気になった部分はいくつかあったけど、まあ全部回収できなくてもいいよ」と思っていた。

・最終章はゲーム上「おまけ」コンテンツくらいの出方で、最初気づかなかった。おまけくらいだろうと思って何気なく見たら、自分がずっと感じていた違和感や、足りないと思っていた部分の答えが全部出された。

実写ゲームだからできたこと

・お話としての素晴らしさはもちろんだったけど、『春ゆきてレトロチカ』は「実写ゲームであることの責任」に真っ向に立ち向かった素晴らしい作品だったと思う。かなりメタ的だったことが本当に面白かった。何度も思っていた「なんで今更実写で」というモヤモヤに対してこんな回答が出てくるとは思わなかった。

・ここから完全にネタバレになるけど、
①はるかの視点で見るから登場人物のキャストが現在の人物の使い回しになること
②「如水」が男性であるよう意識を向かせたあかり
③物語の中で唯一同一人物として存在し続けた赤椿
④トキジクの実によって時が止められた如水と佳乃
これが本当に「実写でないと説得力が出せない」素晴らしさだと思った。
・①~③は叙述トリックの部類といえばいいんだろうか。②だけは主人公であるはるか自身の思い込みでもあるが、①はプレイヤーが「はるか視点であることを理由にキャスト費を押さえたのかな」とキャスティングそのものを軽く見てしまう。過去の人物の役割と現在の人物の役割はあくまで「はるかがイメージしやすいかどうか」だけになっているので、キャラクターの見た目が現在の推理に役立たないようになっているとも思ってしまう。

・①と②だけでも「やられた!」と思い、ちょっと考えると「それはずるいかも」と思うが、そこから作中同一人物として出てきた③の赤椿の正体には本当に驚いた。なんとなく清涼院流水の作風を思い出すところでもあったけれど、こんな騙し方をしてくることがとても楽しかった。

・④についてはキャストの演技も素晴らしかったけど、「実在の人間がする演技」だからこそ臨場感というか胸に来るものがあった。

30~40代くらいで時を止めた如水と、50~60代くらいで時を止めた娘佳乃、この二人が対峙して、母を探し続けた佳乃、すぐに気付けなかった如水、時を止めても確かに幸福だったと言えた佳乃、最後に母として娘を守れた如水…とトキジクに振り回された二人が如水と佳乃として出会えたシーンは、イラストや3Dだと興ざめだったと思う。佳乃に刻まれた皺が長い時間待っていたのだという説得力を生んでいた。少なくとも自分は実在の人間じゃないと如水と佳乃が長い時間諦めなかったのだという感動を感じ取れなかったと思う。

・話はまた①に戻るけど、キャストの使い回しに感じるようなこの演出は、それこそ『春ゆきてレトロチカ』がイラストや3Dで展開するものがたりだったらできなかっただろうなと思う。ちゃんと絵を変えないと手抜きのように見えてしまうし、はるかにとっては今いる人物に置き換えがわかりやすいとしても、プレイヤーにとっては混乱するだけだから。

・そんな感じで、本当に今の時代になんで実写推理ADVなんて作ったんだろうと思っていたが、実写推理ADVだからこそできることをやっていたと思ったゲームだった。

その他で好きだったこと

・なんとなく佳乃がはじめて会ったにしては如水になつきすぎではないかとか、逆に如水が佳乃に好意を持ちすぎではないかという点についても、最初は「恋愛要素無理やり入れるな」くらいにしか思っていなかったが、真相がわかると一気に「だからかー!」となった。(少し如水の口調が男性的すぎた気もするけど、それははるかが読み手として男性として見ていたから?)

・キャストとしては佐野岳さんという人がすごくいいなーと思った。四十間家の末っ子としての気弱な感じや、酔っ払った了永のくだのまきかた、名前を忘れたが4章でやっていた役のやや利己的で流されやすい感じ、全部雰囲気が違っていた。特に了永のときが好きだった。

・音楽がめちゃくちゃよかった。推理ゲームの音楽にはずれなし。


とりあえず思っていたことはだいたい書けたので満足。クリアした人と話したいのでもっとこのゲーム売れたらいいなと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?