井戸端怪異〜過去編(こっくりさん)〜

『井戸端怪異〜過去編(こっくりさん)〜』
四人用声劇台本(男:女:不問=1:1:2)

《登場人物》

・こっくりさん…怪異「こっくりさん」
・花子さん…怪異「トイレの花子さん」
・二宮金次郎…怪異「二宮金次郎像」
・ナレーション…怪異達を見守る存在

※こっくりさんとナレーションが不問です。


《本編》

ナレーション 「これは初恋が実っていたと知った怪異の過去のお話。」

 【昇降口】

二宮金次郎 「はぁ、今日も一日立ちっぱなしで疲れちゃったよ。人間達は椅子を使っているのに、…僕だって椅子に座りたい。」

こっくりさん 「あぁー、金次郎さん!今日もお疲れ様です。」

二宮金次郎 「こっくりさんだぁ!いつもありがとう。」

こっくりさん 「私の方こそ毎日話ができて楽しいんです。自分が知らないことばかりで夜が来るのが楽しみでワクワクしてるんですよ。」

二宮金次郎 「今日は学校の中探検してみる?」

こっくりさん 「疲れてるのにいいんですか?」

二宮金次郎 「僕だって毎日会えるの楽しみにしてるんだよ?」

こっくりさん 「それは…面と向かって言われると照れちゃいます。」

二宮金次郎 「照れてるところ見たの初めてかもしれない。レアだぁー!」

こっくりさん 「ちょっ!声大きいですよ。響き渡ってるじゃないですか!」

二宮金次郎 「まずはどこから行く?時間的に学校中は無理そうだし、僕より長くいる花子さんのところにでも行こうか。」

こっくりさん 「花子さんって女子トイレにいる?」

二宮金次郎 「そうだよー。見た目は僕より小さいけど色んな事知ってて話するの楽しいよ!」

こっくりさん 「そうなんですね。緊張してきました。」

二宮金次郎 「大丈夫だよ!銅像の僕にも優しいんだよ?」

こっくりさん 「金次郎さんは人懐っこいじゃないですかー。」

二宮金次郎 「そうかなー?…まぁ、行こうか。」

ナレーション 「二人の出会いは1人の怪異によって結ばれました。」

【女子トイレ】

二宮金次郎 「(ドアを三回ノックする)はーなこさん、遊びましょ♪」

花子さん 「はいはぁーい。その声は金次郎じゃなぁ。」

二宮金次郎 「久しぶりー!今日はこっくりさん連れてきたんだ!」

こっくりさん 「はっ…はじめまして!」

花子さん 「あぁ、お主がこっくりさんかぁ!何度か見かけてはいたが、楽しそうに金次郎と話しておったから話しかけずにおった。」

こっくりさん 「そうだったんですね。」

二宮金次郎 「そんなぁー、話しかけてくれればよかったのに。」

花子さん 「楽しそうな二人を見ているのが微笑ましくてのぉ。今度見かけたら声掛けさせてもらおうかのぉ。」

こっくりさん 「ぜっ、是非そうしてください!」

二宮金次郎 「僕もそうしてくれると嬉しい!」

花子さん 「おっと、そろそろ校庭に向かわんでええのか?」

二宮金次郎 「あぁ、やばい!教えてくれてありがとう!じゃあ、僕先に戻るけど二人で話しててくれていいからねー。」

こっくりさん 「えっ、でも…。」

二宮金次郎 「こっくりさんは僕とは違って日中も動けるんだから、話せる相手僕だけじゃさみしい思いするかもしれないから。じゃーねー!」

【二宮金次郎、去る。】

花子さん 「そうじゃな。少し話でもするかのぉ。」

こっくりさん 「はいっ!」

花子さん 「そんなに緊張せんでもえぇぞ?」

こっくりさん 「えっと、いきなりで気持ち悪いかもしれないんですけど…。」

花子さん 「ん?どうしたんじゃ?何でも言うてみぃ。」

こっくりさん 「…髪。」

花子さん 「髪がどうしたんじゃ?」

こっくりさん 「綺麗です。光に反射して、夜の闇の中でも見つけられる自信あります。」

花子さん 「おぉ、それは。ありがとうのぉ。」

こっくりさん 「いえ!えっと、私もそろそろ行きますね。」

花子さん 「もう行ってしまうのか?寂しくなるのぉ。」

こっくりさん 「あっ!えぇっと。また、来ます!」

花子さん 「本当かぁ?それはとても楽しみじゃ。」

こっくりさん 「じゃあ、また。」

花子さん 「またのぉー。」

ナレーション 「一目惚れしたこっくりさんと、髪を綺麗だと言われたことで好意を寄せ始めた花子さん。新しい出会いもあれば、別れもつきもので…。」

【女子トイレ】

花子さん 「…何を言っとるんじゃ?冗談だとしても許さんぞ?」

二宮金次郎 「僕がこんなこと冗談で言うわけ無いってわかってるでしょ?」

花子さん 「それは…。」

二宮金次郎 「こっくりさんには…内緒にしておいてほしいんだ。」

花子さん 「そんなことしたら、より悲しませることになるんじゃないかのぉ?」

二宮金次郎 「僕が直接伝えたいんだ。」

花子さん 「そういうことなら、わしからは何も言わんよ。」

二宮金治郎 「ありがとう。僕、寂しい気持ちと怖い気持ちもあるんだ。でも、こっくりさんには心配させたくないから…。」

花子さん 「わしに先に話をしたのはそれでか?」

二宮金次郎 「うん。花子さんに話したら少しは怖くなくなるかなって。」

花子さん 「そうか。それで、少しは怖い気持ちなくなったかのぉ?」

二宮金次郎 「うん、話聞いてくれてありがとう。」

花子さん 「全然構わん。」

二宮金次郎 「じゃあ、僕行くね。」

花子さん 「気を付けてのぉ。」

二宮金次郎 「僕、ちゃんと言えるかな?何も知らずに別れるなんて辛い思いさせたくないから…言わなくちゃ。」

【昇降口】

こっくりさん 「今日は花子さんと二人で話したいことがあるからって言われちゃったから、1人でここにいるわけだけど…。」

ナレーション 「怪異たちの出会いも別れも幾度となく見ていた私でも、慣れない。」

こっくりさん 「もうそろそろ帰ってこないのかな?まぁ、ギリギリになりそうなら私が霊たち集めてなんとかしよう。」

二宮金次郎 「あれ?こっくりさん?ずっと待っててくれてたの?」

こっくりさん 「金次郎さん!よかった。」

二宮金次郎 「心配してくれてたの?ごめんね。ありがとう。」

こっくりさん 「全然!こうやって話ができて嬉しいんで大丈夫ですよ。」

二宮金次郎 「じゃあ、僕戻るね。…あっ、今日の夜こっくりさんに話しておきたいことがあるから。」

こっくりさん 「え?今じゃ駄目なんですか?」

二宮金次郎 「少し勇気のいることなんだ。待ってて。」

こっくりさん 「わかりました。」

ナレーション 「私にはどうすることもできない。無力な自分が嫌になる。」

花子さん 「こんなところで何しとるんじゃ?」

こっくりさん 「あ!花子さん。」

花子さん 「悩み事でもあるんか?」

こっくりさん 「え?」

花子さん 「だてに長生きしとらんでのぉ。」

こっくりさん 「実は、金次郎さんに今夜話したいことがあるって言われて…。」

花子さん 「そうかぁ。」

こっくりさん 「こんなこと聞いちゃ駄目なのはわかってるんですけど。…昨日、何か言ってませんでしたか?」

花子さん 「昨日は、過去に別れた怪異のことを話しておった。金次郎と恋仲にあった子なんじゃ。」

こっくりさん 「そんな相手が…。全然知らなかった。」

花子さん 「思い出すと辛くなるから、そんなところをお主に見られたら心配させてしまうからと言っておった。」

こっくりさん 「それでも話したくなるくらい好きだったんですね。」

花子さん 「そうじゃな…。わしも仲良くしとったからのぉ。」

こっくりさん 「……。」

花子さん 「まぁ、気になるとは思うが待っているしか無いんじゃないかのぉ?」

こっくりさん 「そうですね。」

花子さん 「じゃあ、わしは行くでのぉ。」

 【昇降口】

こっくりさん 「いつもより早く来ちゃったな。」

二宮金次郎 「あれ?今日早くない?びっくりしちゃった。」

こっくりさん 「なんだかそわそわしちゃって…。」

二宮金次郎 「そんなに緊張されちゃうと僕も緊張しちゃうな。」

こっくりさん 「そういえば、話って私だけにですか?花子さんは…。」

二宮金次郎 「うん。花子さんにはもう伝えてあるから…。」

こっくりさん 「そうだったんですね。」

二宮金次郎 「………あのね、僕近々撤去されるんだ。」

こっくりさん 「え…?」

二宮金次郎 「突然のことでショックだと思う。でもこっくりさんには花子さんがいる。この学校には色んな怪異がいるから、今回みたいにお別れしないといけないこともあると思うんだ。僕みたいに外界から見たら劣化していく者は特にね。」

こっくりさん 「…いつですか?」

二宮金次郎 「……。」

こっくりさん 「突然会えなくなるの嫌なので…いつかわかるなら、教えてください。」

二宮金次郎 「明日なんだ…。」

こっくりさん 「えっ?…明日?」

二宮金次郎 「うん。」

こっくりさん 「じゃあ話せるのは今日が最後ってこと…ですか。」

二宮金次郎 「なかなか言い出せなくてごめん。」

こっくりさん 「伝えてもらえてよかったです。今日は少しでも長く話しよう!」

二宮金次郎 「うん!」


【現在】

花子さん 「おーい、ボーッとしてどうしたんじゃ?」

こっくりさん 「あぁ、ちょっと昔のことを思い出していてね。」

花子さん 「うふふ。」

こっくりさん 「ん?どうしたんだい?」

花子さん 「いや?だいぶ大人っぽくなったなぁと思っただけじゃよ?」

こっくりさん 「…っ!はぁ、花子さんには敵わないな。」

花子さん 「昔の可愛らしいこっくりさんも好きじゃが、今はもっと好きじゃよ。」

こっくりさん 「だから、失恋後にそれはやめて。」

花子さん 「お?これは押せば落ちそうってことかの?」

こっくりさん 「…おすすめはしないよ。」

ナレーション 「怪異達には認知されていない。恋の手助けをすることも、悲しみを吐露する相手にもなれない。それでも構わない。皆のことを見守るのが私の生きがいなのだから。」


END.

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