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パンツの行方

14年程前、私はまだ独身で、彼氏と同棲していた。2DKの木造アパートの1階。築年数は忘れたが、新しくはない。中央線沿線で「住みたい街ランキングNo.1」の土地からは何駅か下る。その為、家賃はそこまで高くない。

ある日、彼と2人でTSUTAYAへ行った。小一時間して帰宅し、私が玄関の鍵を開けて先に入った。

部屋の空気に違和感があった。だが特に気にせず隣の部屋に入ると、その部屋のど真ん中に私のヘアブラシが転がっていた。それは部屋の端っこに置いてあるバッグに入れていたはずなのに……。

きっと、まゆげ(当時飼っていたオス猫の名前)がイタズラしたのだろうな…しょうがないなぁ、もぅ、うちのまゆげちゃんは♡
と、心の中でひとり、猫なで声になりながらキッチンで料理を始めた。彼と2人で、キャッキャ言いながら料理を作り(バーモントカレーだった気がする)、1番奥の部屋に運んだ。ベランダに出入り出来る部屋だ。2人で席について、さぁ、これから楽しくカレーを食べよう!ってその時、私はふと窓の鍵に目がいった。そして絶句した。

!!!

窓の鍵の周りが、綺麗にまぁるく、くり抜かれているではないか!!!!!!
それはそれは、綺麗な丸だった。

そこからが、もう大変。

こ、これは空き巣だわ!
空き巣よ、空き巣!

私と彼は、家の中をぐるりと見渡した。押入れの中を確認すると、彼の足湯セットの銀色のトランクケース(足湯セットがコンパクトに収納できる様なデザインだった)が開けられていて、無造作に散らかっている!これは、空き巣が開けたんだわ、きっと。この中に、現金が入ってると思ってホクホクしながら開けたら、ただの足湯セットで、空き巣はズッコケたに違いない。その他、本やCDも、何となく雑になっている。玄関を開けた時、温もりがあったのと、空間が人型になっていた様に感じたのは、そのせいだったのか……
そして、バッグに入れたはずのブラシが転がっていたのも……。

私はハッとして、洗濯カゴを確認した。

ない……

お気に入りのパンツがない!

今朝、シャワーを浴びる時に脱いでカゴに入れた。今日は洗濯をしていないからあるはずなのに…。

すぐ様、警察を呼んだ。

最初は女性の警察官に事情聴取をされた。

「パンツの形は?」

私「ヒモパンです」

「パンツの色は」

私「黒です」

「パンツの素材は?」

私「分からないけど、ツルツルです」

「パンツの時価は?」

私「覚えてません」

「……」

真面目な顔で淡々とこんなやり取りをした。

その後しばらくして、また違う警察官が事情聴取をすると言う。今度は男性だ。

「パンツの形は?」

私「ヒモパンです」

「パンツの色は?」

私「黒です」

「パンツの素材は?」

私「分からないけどツルツルです」

 

「パンツの時価は?」

私「覚えてません」

「じゃぁ、1500円ぐらいにしておきましょう」

私「……」

私のパンツの値段を勝手に設定され、その1500円の紐パンの女(私)とその彼氏は、警察に指紋を取られたり、書類に記入して印鑑を押したり、物凄く時間がかかった。

本当だったら、レンタルした映画を観ながら楽しくカレーを食べるはずだったのに。

パンツを盗まれ、パンツの形状を晒し、パンツの値段を決めつけられ、指紋を取られ、踏んだり蹴ったりだ。

数カ月後に警察から連絡があった。

犯人が捕まったという。

暑い国出身の外国人で、パンツ収集家だったそうだ。私のパンツと平行して、近隣の女性のパンツを山ほど盗んでいたらしい。

私のパンツも(テレビのニュースでよく見かける様なあの映像……)どこかの体育館に大きく広げられたブルーシートの上に並べられたのだろうか。

もうその後の記憶が曖昧なのだが、私のパンツが戻って来ていないことは確かだ。さよなら、私のパンツ。

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