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墨田区京島「アートのある街」ではなく、「アーティストのいる街」。大家さんと、京島にやってきた4人のアーティストとの対話。

前回は、大家の深井さん、アーティスト活動を行う海野さん、すみだ向島EXPO代表・後藤さんとの対談をお届けしましたが、今回は大家の深井さんと京島に来た4人のアーティストの拠点に趣き、お話しを伺いました。

前半では、京島の長屋に住みながら、そこで制作を行っているお二人。そして後半では、海外から一時的に京島に趣き、10月のEXPOに向けて展示の準備を行うお二人が登場します。

表現を通じた、この街に住む人たちとアーティストとの交流を感じられる話をお聞きすることができました。

アーティストたちと、彼らに場所を提供する大家さんとの対話をお楽しみください。


4人のアーティストたちに会いに行った人たち(敬称略)

深井輝久
京島を中心に古くからの長屋を所有している大家さん。すみだ向島EXPO実行委員長でもある後藤が越してきたばかりの頃から物件を提供し、古い物件を生かした活動を陰ながら応援している。

後藤大輝
すみだ向島EXPO実行委員会 代表。深井さんの物件をいくつか借りたり紹介したりしながら、この街に残る古い物件の継承と活用に取り組んでいるひとり。


海外に行ってもまた帰ってきたい場所

ウチダリナさん
2019年4月から京島の4軒長屋に住み始める。1990年東京で生まれ、千葉で育つ。主に蛾を作品のモチーフとして活動する現代美術家。主に和紙の焦げを利用した立体造形などを作成し、様々な展覧会で展示。美術系の舞台に出演することも。


まずはじめに4軒長屋のウチダさんのところへ。小雨が降るなか、軒先で日々の生活の様子をお聞きしました。

後藤さん:深井さんと今まで対面で会うタイミングが合わなかったんだよね。

ウチダさん:そうなんですよ。なかなかご挨拶できなくて。

深井さん:上に住んでるの?下で作業して。住みながら、作業をやる人って今少ないよね。ほとんど住居と作業場を分けて借りてる人が多いと思います。
 
ウチダさん:そうですね。お隣も数人で借りて、作業場として使ってらっしゃるんですよね。私は住みながら制作するのが合っていて。作業して、下でごはんつくって、休んで、というのができるので、すごい助かっています。

後藤さん:メダカも増えましたね。

ウチダさん:近所の方から火鉢を分けてもらって、建具屋さんからいただいた火鉢にメダカの卵が付いてて、朝起きたらメダカがめっちゃ泳いでて、今は3代目くらいなんです。近所の人が立ち寄って見てくれたり、こどもが止まって見ていたりとか、それでコミュニケーションできているのがおもしろいなと。

ご近所さんからもらった火鉢の中にはメダカが。軒先に咲くランタナの花は、同じ4軒長屋の端に住む軒下園芸の伝導師タカハシご夫妻からもらったもの。

深井さん:タカハシさんに会ったことは?

ウチダさん:はい。タカハシさん、結構軒下で座ったりしてる。(笑)ほんとにタカハシさんのおかげでみんなが楽しく安全に暮らせていて、すごくお世話になっています。 

深井さん:前にタカハシさんと話したら、若い人と関われて嬉しいって。

ウチダさん:ほんとですか。お裾分け持ってきてくれたりとか。この前もビール持ってきてくれて。そういう気にかけてくださっているのがうれしいです。「シソ生えているから採っていっていいよ」とか。

深井さん:となりの赤星君とも話すの?

ウチダさん:そうですね。なにか制作しているときは、「なにつくってるの?」みたいな話をしたりとか。

後藤さん:本当は今年のEXPOもウチダさんにいろいろやってほしかったんですけど、実は10月頃から中国に一年間、レジデンスをしに行くことが決まっているんですよね。

ウチダさん:中国に行っている間も、ここは借りて、ちゃんと手入れして、また帰ってきたいと思っていますし、そこからまたつながるようなものがあったらいいなと思っています。 

後藤さん:うんうん。また帰ってきたいと思ってくれていることはうれしいです。ちなみに、長屋の暮らしのどんなところに魅力を感じていますか?

ウチダさん:全然知らない人とコミュニケーションすることが増えたり、ふつうのマンション住まいでは感じられなかった、近所に住む人たちの連帯感を感じて。長屋に住むことで隣に住む人とのコミュニケーションがちょっと濃密になったことが楽しいと感じています。

深井さん:京島でクリエイターとして活動しようと思ったきっかけはあるんですか?

ウチダさん:きっかけは、Twitterでフォローしている友人がここの表の写真だけ載せてて、「誰か借りませんか?」と言ってたんですよ。で、一回だけ見て決めようと思って、友人を通して後藤さんに連絡して、この家を見たら、すっごい良くて、「もうここにします。」ってすぐ決めました。

深井さん:即決だったんですね。ここに住んでよかったと感じていますか?

 ウチダさん:あ、すごい感じてます。来る人、来る人みんなが「おもしろい場所だね」と言ってくれたり、メダカ見て、私もやりたい!と帰って、本当にやる子がいたり、住んでてよかったなと思っています。

深井さん:ありがとうございます。いやー、まさに文化のタイムラグというか、長屋という古いものをまったく違う世代の人が異なる感じ方で、違った価値を見出しているところがおもしろいですね。いろんな世代が入ってきて、また新しい価値を生み出して、その循環がたぶんこの町の活力になっているんじゃないかな。

初めての東京暮らしはこの長屋。近所の人とのつながりから安心感を感じる暮らし。

赤星りきさん
 2021年4月、大学院進学とともに初めて上京し、京島の4軒長屋に住み始める。広島県出身。東京藝術大学でアートプロジェクトを専攻し、絵画表現を通じたコト・場づくりに取り組む。


お次は、ウチダさん家のお隣。4軒長屋の一つ、京島共同木工所の2階。制作スペース兼居住スペースとして暮らしている赤星さんにお話しを聞きました。

後藤さん:天井やロフト部分、押し入れ部分が赤星くんのDIYで、住みながら展示もしているけど、ふだん何を制作的におこなっているのか説明してもらえますか?

赤星さん:はい。去年大学院に進学して、アートプロジェクトを研究しているので、この家がすごくよくて。改装しながら、その中で表現することを実践できるスペースにしたかったんです。なので住みながら、絵を描きながら、食べる場所でもあり、という感じで。去年、寒い時は押し入れの中で寝泊まりしてたんですけど…。(笑)

左から2番目が赤星さん。冬には後ろの押し入れが寝床に。赤星さん自身でDIYしたもの。

深井さん:やっぱりそうなんだ。ここがベッドだったんですね。(笑)

赤星さん:今は、ちょっと暑いので出てきて、ハンモックで寝ています。

深井さん:いや、おもしろい。親御さんはここで暮らしていること、知っているんですか? 

赤星さん:いや、心配されちゃうと思うので伝えてないんですけど、でも京島で楽しく暮らしてるというのは伝わってます。(笑)

赤星さん:普通のアパートとか無機質な場所は、気分が落ちちゃうなと思っていたので、むしろこうやって近所の人とも気軽に話せるような場所がすごく僕には合っているなと思っていました。

深井さん:やっぱり開いた感じがいいんですかね。閉じてないですもんね。制作過程とかも見せたりしてるんですか?

赤星さん:そうですね。特に去年EXPO出たときは、住み開き(※)をしながら、制作と発表を同時にこの場所でやっていましたね。

※住み開き:住んでいる場所の一部を、無理のない範囲で他人へと開くこと。

後藤さん:そして今大学院二年生で、ここに住んで一年経って、この先の美術的な仕事をどうするかいろいろ悩みながら考えていると思うんですけど、その辺今どうですか?
 
赤星さん:今アジア、海外行きたいなと思ってるところで、ずっと広島にいたっていうのもあって、もっと日本のいろんな面をアジアという地域から見たいなと思っています。地域の中で表現活動しつつ、もっとグローバルにやりたいなって企んでます。 

深井さん:いいじゃないですか。

後藤さん:赤星君も研究室が、東京ビエンナーレという、日本橋とか都市部だけどその中でもアートを通じて、地域的なものや、都市的なもの、何かしら視点を生み出すようなプロジェクトにも関わってたので、そういうの何か影響があった? 

赤星さん:ものすごく勉強になっていて。研究室でもそうですし、こういう場所でもすごく勉強になってます。適当に、とにかくいろいろなものを見ておこうと思っていて、いろんなものに関わっていきたいです。

先ほどの押し入れと反対側のスペースには、作業台や作品が置かれている。

深井さん:ちなみに、クリエイターとして京島という街や、長屋の魅力をどういうところに感じているんですか? 

赤星さん:京島には、クリエイターや作家さんがたくさん住んでいて、いろいろなイベントがいろんなところであるというのがすごくおもしろいです。あと地域の人や、となりのおじいちゃんとの交流が楽しくて、軒下の園芸を見るのもすごく楽しいです。

長屋というのも、生まれ育ったのが普通のアパートだったんで、木造の長屋がめずらしくて、そういう建物の魅力をすごく感じているので、そういうところが好きですね。

後藤さん:具体的に近所の人と交流の中で楽しいと感じるのはどんな時?

赤星さん:些細なことですけど、ここの長屋の一番端に、85歳になるおじいちゃん夫婦が住んでいて、「今日も暑いね~」って話したり、地元の時はそういう会話すらあまりなかったので。

あと、服くれる人とか、ごはん誘ってくれる人とかたくさん居て、そういう人と一緒に時間を過ごしたりするのが、本当にうれしくて…。ネットワーク0の状態から初めて東京にやってきたので、すごくありがたいですね。

深井さん:初めての東京暮らしが、この長屋ってすごいですよね。この長屋を見つけて住もうと思ったきっかけは何だったんですか?

赤星さん:きっかけは、受験で東京に来たときに、京島の作家さんが関わっている宿に泊まって、夜にその作家さんが街案内してくれて、後藤さんの事務所にも連れていってくれたんです。

その時にはもう京島の街がすごい好きになっていて、もし大学院に合格したらこの街に住みたいと思っていました。合格が決まったらすぐに後藤さんに連絡して、住む場所は改装okの場所がよかったので、この場所を紹介してもらって、今に至ります。

後藤さん:赤星くんのように、地方から京島に来てくれて、魅力を感じてくれることに関して、深井さんはどのように感じていますか?

深井さん:そうですね。こんなふうに多くのクリエイターが来てくれるのもうれしいですが、ここに住む人たちの地域力というんですか、受け入れる力を感じています。

例えば東京って、誰かがモノを落としたり、子どもが転んでも、助けたいんだけど、無視したほうがいいかな…と思ってしまう。それがマナーなのかなと思ってしまったり。そんな暗黙のルールがあるように感じてしまうんですけど、この街の人たちは積極的に関わってきますからね。

だから、道端で声をかけてくれたり、お裾分けしてくれたり、いろいろなことが起こるんです。アーティストも、受け入れられている安心感を感じられて、のびのびとしていられる。それが京島の魅力なのかな。

アーティストも作品をつくっている過程を見てもらったり、住民にも恩返ししてると思うんですよ。例えば、子どもたちが地元で身近にアーティストを見て、「僕も将来こうなりたいな」と思ったり。大げさですけど、芸術に触れることで、子どもたちの文化力が養われ、子どもや地域の将来役に立つんじゃないかな。非常に相互にwin-winの関係なのかなと僕は思ってます。

ニューヨークでできないことを京島の長屋で。畳をはがして、床下を発掘する。

松尾孝之さん
2008年からニューヨーク、ブルックリンをアート活動拠点に活動してきた。2022年春に帰国したばかり。世の中にとって不要なものに着目し、それらを収集したものを考古学的に整理することを考現学として制作を行っている。


お次は、ニューヨークから帰国した松尾さんが展示をする予定の長屋へ。松尾さんが今回のEXPOで展示するのは、関東大震災後、昭和初期に建てられたとされる築90年ほどの長屋。初めてここを訪れた松尾さんの興味津々な様子もお楽しみください。

深井さん:松尾さん、見てお分かりだと思うんですけど、ここはもう貸す予定じゃないところなんですよ。住居として貸す予定はなくて、かなり直さないと…

松尾さん:すごいです。傾いているけど、これでちゃんとバランスが取れてるんですね。 

深井さん:大概 借りてくれる人は、長いんですよ。
 
70年、80年、90年の間に、ちょっとした直しは、いちいち大家に連絡せず、みなさんご自分でやっていたんです。近くに知り合いの大工さんや職人さんがたくさんいたからね。
 
だから、家賃も昔から値上げせず、更新もなく、何世代にも渡り、借家なのに、自分の家のように、住んでいたんです。今では信じられないでしょ。

後藤さん:そうですね。松尾さんは、ニューヨークに居た時、大工仕事とか、日本人の丁寧な、細かな仕事をするのが喜ばれて、アートだけじゃなくて、そっちの仕事もよくやってたんですよね。

帰国して、今何日か手伝ってもらって、非常に丁寧な仕事をしてくれるので、僕も助かってます。改めて、中を見させてもらいながら、どういう展示をするのかを教えてください。

松尾さん:畳を全部開けて、土を掘りたいなって。何か、こう生活、日用品のゴミみたいなものを、土の中から見つかったら修復したいなと。

深井さん:考古学的なアプローチですよね。

松尾さん:後藤くんが古民家の改装をやってるから、「床を剥がして、土を掘れるような機会ってないかな?」と相談したら、できそうと言ってくれて。そしたら、想像以上におもしろそうです。なかなか見つけられないですよね。こういうところに住みたい人も居そう。

後藤さん:過去作品で床を実際に一枚はがした後に、そこからどういう工程を踏むんですか? 

松尾さん:土やほこりを除去して、写真を少しづつ撮っていって、繋ぎ合わせて、現数の写真をつくっていくんですよ。

後藤さん:試しに一枚はがしてみたら?たぶん指でいけると思う。

畳をはがし、床下を覗いてみると、貯蔵庫らしきものなどいろんなものが隠れていました。

松尾さん:もう、遺跡発見…すごい。これなんか、壺みたいな。あの奥のほうとか…これはこれで一個塊になってて、おもしろい。なんかよくわかんない。(笑)

深井さん:わかんないね。これは…なんだろうね。

後藤さん:新しい表現として、ブルックリンでの活動と同様にこの町の古いところにもアプローチしてもらえたらいいかなと思っていました。

僕らやっぱり古いもの好きなんで、大事にして、もちろん修復などはしますが、もっと先の手法がありそうなんですよね。まずはきれいにして、磨いて、修繕するだけで一つ作品になるみたいな、プロセスが本当にあるんだなと感じています。

松尾くんは今回、住人として暮らしてはいないので、純粋に展覧会というアプローチではあるんですけど、こういうアーティストがこの町の中で、こういう展示をすることについて今後も含め、深井さんはどう思われますか?

深井さん:今回、松尾さんのアプローチは初めてなのでびっくりですけど、なんかすごいものが出てきちゃうんじゃないかなという怖さもあります。今はどんな感じになるのか想像ができないので、コメントできないですね。(笑)

EXPOの展示までの準備期間、たまに私も松尾さんの準備の様子を見に寄らせていただきますので、その時どんなことやってるのか見させてもらえたらと思います。それにしても、うれしいですね。ニューヨークから帰ってきてくれて。

右から松尾さん、深井さん、後藤さん。

松尾さん:ありがとうございます。ニューヨークだとこういう家の中をタッチするとかできないんですよ、やらせてもらえなくて、日本でだったらやってみたいことできるかなって。
 
深井さん:私が特別だと思いますけどね。日本でもダメだと思います。(笑 )

後藤さん:その通り、その通り。EXPOの時は、ここに来場者が見に来て、周りから覗くようなかたちになるのかな?

松尾さん:畳の部屋は畳をはがして、床下が見えるようにして、それ以外の場所はそのままで。

深井さん:発掘現場を見学するような感じですかね。ちなみに、4年くらい前まで老夫婦が住まれていたので、比較的きれいなんですよ。

後藤さん:たしかに生活感がまだ残っていますね。 

空間の機能は、時間を超越し、また新しい何かがはじまってゆく

ウェンデリン・ファン・オルデンボルフさん
1962年ロッテルダム生まれ、ベルリン在住で、オランダを代表するアーティスト。その20年以上に渡る実践の核は、表現メディアとしての映像と、人々が対話する場としての映像制作の探求にあると言える。京島でのEXPOの後には、11月からの3か月間、東京都現代美術館で個展を行う。


お次は、先ほどの松尾さんが展示の行う長屋の2軒隣で、計3か月間滞在しながら、制作を行うウェンデリンさんのいる平屋別館へ向かいました。

家の縁側でポーズを取ってくれたウエンデリンさん。

ウェンデリンさん :私は映像作品をつくっていて、光や音、動きを取り入れたフィルムインスタレーションというものです。

後藤さん:EXPOの後には、東京都現代美術館での個展が11月にあるんですよね。古い家の住み心地はどうですか?風の音や、町工場の音はうるさくないですか?

 ウェンデリンさん:大丈夫ですよ。(笑)そういったものは好きです。素敵だと感じますし、とても親近感があります。


挨拶を終え、早速今回のEXPOで、ウェンデリンさんが展示を行う建物「ウラダナ 」へ。「ウラダナ 」は、ご自身もイラストレーターやアーティストとして活動をされている角田さんが管理するレンタルスペース。ふだんは、ギャラリーやフォトスタジオなどとして借りる人が多いそう。

「ウラダナ」の中の様子。裏棚を管理する角田さんと挨拶をするウェンデリンさん。

深井さん:「ウラダナ 」っていうのは、江戸時代に裏通りにある長屋のことをそう呼んでいたんですよ。 表通りからこの辺りを一体で持っていて、ここは通りから離れていて、ウラだからね。 借りた角田さんがカタカナで、そう名付けたんですよ。 ウェンデリンさん、この家はどうですか?

ウェンデリンさん:すばらしいですね。キッチンもすてきです。

深井さん:ガスも電気も使えますよ。

角田さん:私が来たのが8年前で、その前10年くらい空いてました。10年前は隣の長屋と同じくらいボロボロで。松尾さんが展示する予定のところよりも改装が大変だったんです。床も、こんなに傾いていたし。改装してやっとこの状態までいきました。

深井さん:10年も空き家の状態だったこともあって、改装は大変でしたよね。ちなみに、ウェンデリンさんは、どうして制作拠点として、京島を選んだのですか?

ウェンデリンさん :実はあんまりクリエイティブな理由があったわけではないんです。11月の東京都現代美術館での展示の制作のために近くで3ヶ月滞在できるいい場所を探していて。

東京都現代美術館のキュレーターがこの家を知っていて、後藤さんを紹介してくれたんです。伝統的な日本の家に住めることにすごく惹かれたし、ちょっとエキゾチックかもしれないけどね。(笑)

日本の伝統的な建築、建物は、ほんとうにおもしろくて、美しくて、すべてが開いていながらも、閉じている部分もあって。スペースごとに、異なる機能がありますよね。

深井さん:そう言ってもらえるとうれしいですね。

ウェンデリンさん :私はいつも制作している最中は、おもしろい建物にいられて、それによって自分が変化していけるように感じているんです。

でも、今までは現代的な空間に滞在することが多かったので、今回滞在している家は、まったく異なった古い空間でおもしろいですね。

私にとって、空間の機能とか効果は、時間を超越していて、何かをはじめることによって新たな空間が生まれ、またほかの何かがはじまって…そうすることによって、とっても気持ちよくなっていくんです。

この空間にいることは、とっても心地いいと感じられています。だからここに滞在できて、とってもうれしいです。

平屋別館の玄関にて。左からウェンデリンさん、深井さん。

深井さん:京島に来て数日経ったということですが、近所を歩いたりしましたか?

ウェンデリンさん :はい。とってもすてきなんです!小さい保育園児や、お店、カフェで話している人たちを見かけて、とっても惹きつけられました。あと2ヶ月でもう少し日本語を話せるようになりたいですね。(笑)

そうしたら、食事を注文したり、人に親切にしてあげられたり。いずれにせよ、東京の中でとっても魅力的な場所だと思います。ここに滞在できてラッキーです。

後藤さん:そう言ってもらえて、ほんとうにうれしいですね。 

「アートのある街」というよりも、「アーティストがいる街


10月のすみだ向島EXPOに出展する、4人のアーティストの話を聞いたあとは、旧邸稽古場にて、一緒にアーティストたちの話を聞いた、大家の深井さんに今日感じたことを含め、お話しをお聞きしました。
 



後藤さん:深井さんも登場していただいた、この町とアートとアーティストの流れで始まった昨年の記事は、アートとこの町という切り口でお話ししていただいたのですが、昨年と今日とで何かアップデートされた感覚はありますか?

深井さん:そうですね、考えの部分では固まったかな。「アーティストがいる街」が墨田、京島かなという気がしてきましたね。特に今日の赤星さんとウチダさんの話を聞くと、開かれてる、閉じてない。制作過程も含め、普段からいろんな人と会話しながら、地元から愛されてる、支えられている感じがすごくしました。彼らも惜しみなく、みんなとコミュニケーションとってくれてるのを感じましたね。

墨田には、地域力がある。つまり、地域の方々の許容、外から来た人たちを受け入れる土壌があると、今日彼らの話を聞いてて特に感じました。

後藤さん:そういえば以前お話しした時に、深井さんが「この街には表現している人がたくさんいて、アーティストと名乗っていないだけで、実は誰もがアーティストだよね」とおっしゃっていたことが印象的でした。

深井さん:そうなんだよね。アートって例えば、近所の95歳の大谷のおじいさん、盆栽とか並べて、あといろんなものを自分でつくってるじゃないですか。あれを外向けに表現すれば、アーティストになると思うんです。そういう意味じゃ、みんなアーティストだなという気はしますね。

「アートのある街」というよりも、「アーティストがいる街」という気がしたかな。

社会の不安や、将来に対するモヤモヤした感じ、世の中の閉塞感とか、そういったものがアートによって解放される、救いになると思うんです。だから、社会の問題を解決するのに、一つのアプローチとしてアートの力はあると思います。

後藤さん:はい。  

深井さん:赤星くんとウチダさんが、京島や長屋のことを結構気に入ってくれているみたいですよね。さらにうれしかったのは、二人とも海外に出ようとしてるじゃない。

後藤さん:たしかに二人ともそうですね。

深井さん:どんどん行ってほしいなと思いましたね。対照的にブルックリンから京島に、松尾さんが戻ってきたじゃない。そのコントラストがよかった。

後藤さん:やっぱり日本でしかできないことがあるって戻ってきたというのもいいですよね。

深井さん:いやー、京島侮れないなという感じがしましたね。

後藤さん:住みながら表現活動をしているウチダさんと赤星くん。一方で、一時的に京島で活動する松尾さんとウェンデリンさん。そういう外から来た人がここを選ぶということに関してはどうですか?

深井さん:うれしいですよね。さっき後藤さんに聞いたとか言ってましたが、そのように窓口やルートがなければ、なかなか京島などを知る機会はないですからね。

後藤さん:アーティストやクリエイター、この街の元々いる人たちと表現を通じて出会える。その出会いを喜べる人を僕らが求めている、と同時に伝えると、そのいいサイクルが回っていくんじゃないかなと思いましたね。

深井さん:EXPO開催中、ここは居間として使うんだっけ?いいんじゃないですか。

後藤さん:EXPO開催中の一ヶ月間、そこで居合わせた人が偶然話して、知り合うなんてことも起こりそうですよね。

深井さん:そうですね。東京の場合、隣人のことよく知らないじゃない。閉ざされちゃってることが多いけど、ここは開いている感じがいいよね。

表現を通じた出会いを。

すみだ向島EXPO2022にて展示を行う4人のアーティストと、大家の深井さんとの対話、そして最後には、京島やアートについて深井さんの感じていることをお聞きしました。

「この街には表現している人がたくさんいて、アーティストと名乗っていないだけで、実は誰もがアーティストだよね」と深井さん。

ひとり一人が自ずとおこなっている表現を通じて、また新しい何かとつながっていく。

京島に昔から住む住民の方々やアーティストとの出会いや交流によって、あなた自身の表現の種の芽が出るきっかけになるかもしれませんよ。

(執筆:茂出木美樹)


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