成人公演2021 (2)

最後の公演が終わってから何日かが経っている。
公演当日のことを全く思い出せないようで、全て覚えているようで、不思議な感じがしている。

この公演をすることには正直不安があった。
私の中では終わりを迎えに行くんだと決めた、でも観に来る人にそんなことは関係ない。
いつだって何かしらの形で自分を揺さぶられるものを観に来るのだ。観劇というのはそういうもののはずだ。そうであるべきだと私は、ずっと思っていたから。
私たちが何かを叫んだところで観ている人の記憶に残るだろうか。頭の片隅になにかを置いていくことはできるだろうか。ほんの少しでも心が揺れるなにかを届けられるだろうか。

杞憂だったと公演をして思った。
私たちが必死で生きていることが、舞台で、自分は生きているんだと叫ぶことが、全員じゃなくていい、その公演を観に来たうちのたった1人の心さえ揺らせるなら、それだけで公演の価値がある。
少なくともこの成人公演はそういう舞台だった。
あの頃の私が、できなかった卒業公演が、それからの約2年が、あの頃と今の仲間が、そういう舞台にしてくれた。

卒業公演をともにめざした仲間が2人、最後の公演を観に来てくれていた。
誰かの親が来ることよりも先輩が来ることよりも、彼らに観られることが何よりも緊張した。
あの子たちの思いを私たちは踏み台にしている。
だけど、あの破滅があったから今があるなんて正当化は絶対にしたくなかった。だからこの公演は卒業公演のリベンジではないのだとその回だけは強調した。
できなかった卒業公演をできなかった卒業公演のままで終わらせる。決して成人公演のために必要だった過程になんてしない。無念を晴らすための公演じゃない。

あの時はできなかった。
そして、今また演劇をしている。
卒業公演を失った春まで、それから今までもずっとそうしてきたように、これからもどこかでなにかをして生きていく。

ちゃんと伝わるだろうか。わかってくれるだろうか。
あわよくば、私たちの新たな門出を喜んでくれるだろうか。
あの頃を思い出す台詞や小道具をみて、素直に懐かしいと思ってくれるだろうか。
怖かった。

だけど上演中に、これも杞憂だったと思った。
泣き声が聞こえたから。
観に来てくれたうちの1人。
卒業公演の稽古場で、いつも笑っていた女の子。
私たちの演劇をみて泣いてくれた。
あの頃を再現するようで、だけど今の私たちが紡ぐあの頃の台詞。
ちゃんと伝わっていた。

上演が終わって、私は泣きながらちゃんとマスクをつけて、彼らのもとへ行った。
本当に本当に来てくれてありがとうと、そう伝えた。
こちらこそやってくれてありがとう。
この公演で報われた人間がここにいるよ。
そう言ってくれたのは観に来てくれたもう1人。
ろくに話したことも無い私の誘いを真剣に考えてくれて、卒業公演を一緒につくってくれた男の子。
ああ、やっぱりちゃんと伝わっていた。
やっぱりわかってくれた。

もちろんすべてのお客様に感謝の気持ちでいっぱいだけれども、2人がありがとうって言ってくれただけでやって良かったと、この公演には意味も価値もあったんだと、そう思えた。
2人とも、観に来てくれて本当にありがとう。


最後の上演を観た人は覚えているかもしれない。
私は泣いていた。
なぜかはわからない。というか説明できない。
嬉しいような、悲しいような、報われたような、寂しいような、そのどれもが当てはまるしどれも違う気がする。
私は初めて舞台上で泣いた。
あの時だけは、スミアンジュ役じゃなかった。あの場所で泣いたのは紛れもない私だった。
役者失格。もうそれでもよかった。
台詞を吐きながら、私のようで私でないようなスミアンジュの言葉を紡ぎながら、これでほんとうにほんとうにさよならなんだとわかった。

あの日を終わらせる。
終わりを迎えに来た私は、酷い顔で泣いている。
私の後ろでずっと泣いていた亡霊の胸ぐらを掴む。乱暴に引き寄せて抱き締める。
あんたのおかげで死ぬほど辛かった。
あんたのおかげでこんなにいい日が迎えられた。
くそ、なんで泣いてるんだ私。
あんなに捨てたかったものを手放すのがこんなに寂しいなんて。
泣きやめ。ああもう、こんなはずじゃなかったのに。

あの頃の私、成人公演の最後の上演が終わるそのときまでぐちゃぐちゃに泣いていた、高校3年生のときの私。あの冬からずっと私と一緒にいた、私の亡霊。
怒りとか痛みとか不条理とか理不尽とかで隠してきた、選ばれなくてただ悲しかっただけのこと。


ずっとしめだしててごめんね。
いないことにしてごめん。ごめんね。
やっとちゃんとおわれるね。


あの亡霊。私のこと守ってたんだなあ。
悲しいって思ってしまったら、自覚してしまったら、私という人間が選ばれなかった事実を正当で仕方の無い合理的なものにしてしまう気がしたから。だれにも選ばれるはずのない人間だと思ってしまいそうだったから。
そう思いたくなくて、別の似ているもので隠した。
いないことにしてたから、行き場も居場所もなくて泣いてたんだなあ。


私の2年越しの葬式がやっと終わった。



さいごに。絶対ここに書いておきたい人たちがいる。ていうか本人に言えばそれでいいんだけど、返事くるのとか照れくさいから。

成人公演を一緒につくった7人の仲間たち。
スタートラインをひいてくれたリト。
声をかけてくれたマヌカ。
いつだって幸せな気持ちにしてくれたぬんぬ。
みんなのことたくさん愛してくれたおかちゃん。
かわいい癒しでいてくれたこまち。
大丈夫かわいいよって言ってくれたなでぴ。
過去のリベンジではないことの証人になってくれたいろは。

最高だった。噛み合わなかったり意見が割れたり、何もかも分かり合えるわけなんかないけど、それでも、いやむしろだからこそ、一緒に演劇やれてよかった。私がありがとうって言うのなんかお門違いかもしれないけど、でも、ありがとう。
本当にありがとう。
あなたたちのおかげで報われた人間がここにも1人いる。誰が欠けてもできなかったと終わった今なら言える。ありがとう。本当に。



痛いし若いしたぶん2年後くらいに読んだらなんだこいつってドン引きすると思うけど、それでいい。
それが今の私だったならそれでいい。
と思えるスミアンジュまだ19歳。

楽しかった。
演劇やっててよかった。
演劇やれてよかった。
成人公演2021『岐路』。ありがとう。




これからどこに行こうかなあ!



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