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芹沢くん

「芹沢くんはとても誠実だね」
私は、芹沢くんにそう伝えた。
「そうかなあ」
それを聞いた芹沢くんは、実に困った顔をした。
「みんなおじじ先生の標本の片付けって逃げるのに、芹沢くんは逃げない」
「それは田代さんも一緒じゃないか」
確かに。
それは私も一緒だ。だからこうして今私達は二人でおじじ先生の標本の片付けをしている。
「私はおじじ先生といるのが楽しいから」
「確かに楽しい」
「それにしても、芹沢くんは誠実だよ。この前だってイインチョーしたじゃない」
「選管の委員長ね。先生に頼まれたからなあ」
「みんな逃げてたよ」
「そういう田代さんはやらないの?イインチョー」
「私はそういうお鉢は回ってこないの。一生ヒラってやつ」

第二理科室。
西日がさす。明日も晴れそう。
埃がふわふわと舞い、日に照らされてキラキラと光る。

黒い机と机の間に置かれたダンボールの中身を1つずつ出し、チェックリストにチェックを入れ、汚れを雑巾で落とす。ダンボールの数は……両手では数え切れないほど。明日も明後日もかかりそうだ。

「田代さん、つらくない?」
「平気だよ」
「……途方もないね」
「それには同意する」

指定の紺色のスカートが所々灰色にも見えてきた。
灰かぶり。シンデレラ。なんちって。

「君たち、そろそろお茶にしないかね」
「あ、おじじ先生」
「そうそうこの標本は僕が作ったの。これには思い入れがあってね。そうそう、これはうちの学校に来たばかりの頃だったかなあ……」
おじじ先生は三人分のほうじ茶とカステラを持ってきて、自分の椅子に座るとそれはそれは楽しそうに語り出した。

芹沢くんは私の分の椅子をそっと用意してくれた。
私は芹沢くんにありがとうとささやいた。
芹沢くんはこれまた誠実そうな笑顔でどういたしましてとささやいた。

#短編小説

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