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地方持ち家無敵一家の概念から思いついたことをつらつらと書いてみた:その2

○ワープア型救済の必要性と方向性
日本の抱える問題の多くは、ワープア型の増加によって引き起こされたものだと思う。さらに今後、日本が抱えることになる問題の多くがワープア型の増加が原因で引き起こされるとも考える。以前、地方持ち家無敵一家とそれに関する「野良委員会」や「地方零細御用業者」についての記事を書いた。これらの説明を書くと、ついつい過去の腹が立ったエピソードを思い出し、悪口が泉のようにあふれてしまう。ただ、離れた位置から全体を冷静に眺めると、労働市場価値の低い者が安定的に豊かさを手に入れるのに、極めてよくできた仕組みだと思う。しかし無敵一家型になる方法は、都市エリート型だとしてもかなり面倒なプロセスが必要。「持ち家」や「地域との関係性」を有さないワープア型が専・無敵一家型になるのはほとんど不可能。だからと言ってワープア型が自助努力だけで都市エリート型になれるのなら世話ない。ワープア型の救済は自己研鑽促進方式では無理であり、問題の中心軸を「一度ワープア型になると、他のエリアに移動できない蟻地獄構造」(以下”固定化”と呼ぶ)に置くべきだと思う。

〇ワープア型に必要なもの
能力は脳に保存された経験・知識・技術・アイデアだ。これは保管先が脳なので盗まれたり、無くしたりする心配がない、維持コストもゼロ。これに比べれば地域社会との関係性などずっと脆弱で維持コストも高い。当然その構築・維持には努力も必要だ。こう考えると労働市場で高値が付く高い能力自体、地域社会の既得権と同じ構造を持っており、その堅牢さはむしろ地域社会の既得権よりもはるかに高い。労働市場で高値が付く高い能力を既得権と同視するなら、これに活躍の場を提供する資本主義自体、既得権益を獲得するゲームと言える。都市エリート型は能力という堅牢な既得権ゆえ、より競争的な社会を好み(高い能力ゆえ競争の方が有利)、さらに高度難関資格、キャリア官僚、大企業役員など、「専・無敵一家型」や「ワープア型」が決してリーチできないところで既得権益を増やしたり回しあったりする。例えば、キャリア官僚が医療の規制をする⇒病院がこの規制について顧問税理士に相談して相談料を払う⇒税理士からのアドバイスで、病院の収入が増える⇒この規制による収益を維持するために病院の役員としてキャリア官僚に天下りしてもらう、といった感じ(このスキームを”天空の互助会”と名付ける。ほとんどのものは必要なことだから別にやってもいいと思うが、コロナ禍で実施された天空の互助会の規模にはさすがに引いた。)。もし既得権が“悪”ならばそれを非難する資格を有するのは、何の既得権も有さないワープア型のみとなる。つまり「昭和の価値感丸出しの地方議会の議員(専・無敵一家型)」vs「外資系コンサルで勤務経験のあるカリスマ経営コンサルタント(都市エリート型)」などの、豊かさを得るための前提条件が違い過ぎて議論が嚙み合わず、それがゆえに言動が辛らつになって観てる分にはプロレスみたいで面白い既得権者同士の言い争いは、そもそも不毛なのだ。こんなことはやめて、ワープア型に与える既得権をどのようなものにするかの議論をするべきだろう。

○ワープア型救済策がズレがちな理由
福祉領域にいると「飢えている者へは、魚を与えるのではなく、魚の捕り方を教えるべき。」(”魚”の部分は”食べ物”かもしれません)と、したり顔で言う人を良く目にする。フムフムと感心する側面もあるが、それだけじゃ足りなくね?と突っ込みたくもなる。竿は?糸は?針は?エサは?まずこれらの先立つ物が要るだろう?・・・と。このツッコミに対しては、捕り方の中に含まれているのかもしれないが、それなら要因の重要度を鑑みれば、「魚を捕る道具を与える」と言うべきじゃね?と思ってしまう。学校のパソコンの授業を充実させても、家にパソコンがある生徒とない生徒とでは、ない生徒の方が優秀なプログラマーになる確率が低くなるのは明ら。「方法論さえ教えれば後はなんとかなるっしょ。」的な考えを都市エリート型はしがちだ。「大卒」かつ「パソコンが使える」人の割合は、全成人人口の二割というネット記事が驚かれていたが、これに驚くのはきっと都市エリート型だと思う。地方で非正規事務職の募集をかけると、「非大卒」&「パソコン苦手」&「65歳以上」からの応募が半数を超える。なので逆にこの記事に驚くことに驚いてしまう。方法論を理解して実行する能力を持っていない人が、実際のところかなりいる。それは方法論に先立つ”物”がないことで、具体的なイメージができないから。パソコンに触らず、脳内イメージだけでプログラマーになるのが困難なように。都市エリート型は周りに方法論の理解力が高い人に囲まれているため、バイアスがかかっており、方法論を理解できない人がいる事実やその原因に考えが及ばない。

〇政策コスパの一律均等vs特定集中
日本が抱える問題の多くが、ワープア型の人口割合の増加と仮定すると、対策の対象をワープア型に絞れば、コスパ良く解消ないしは緩和するのではと考えられる。では本当にコスパが良くなるのか、少子化対策について検討してみる。大企業正社員ラインの左側のエリアの人口割合を
t(0<t<1)
無敵一家化ラインの下側エリアの人口割合を
s(0<s<1)
と置くと、4分類の人口割合は以下のようになる。


ワープア型1人当たりに充てる少子化対策費とその効果についてグラフにすると以下のようになるのではと考えられる。


S字を横に伸ばしたような形。生物学や化学の分野だと比較的によく見かける形。ホントにそうなるの?と思われると思うのでそれなりに説得力ある形であることを説明してみる。グラフの左側から考えると、少子化対策0でも子供は生まれるので少子化対策効果は0より大きいところからスタートする。右に少し進むとしばらく平坦なエリアがあるが、例えば少子化対策として月に100円貰えたとして、はたして子供を作る気になるだろうか?普通はならないだろう。では1000円では?これも効果は期待できない。というように対策費の効果はある一定の値を超えるまで現れない。この平坦なエリアを“バッファーゾーン”と名付ける。このエリアを抜けると対策費増加に応じて効果も増加するエリアに入るが、これがいつまでも続くわけではなく、やがて右端のエリアのように効果が出なくなる。これはどういうことかというと、すでに3人子供がいる家庭に対策費を講じても子育ては大変なので、「さあ4人目」とはならないから。対策費はいずれどんなに投入しても効果が出なくなる。このエリアを“プラトーゾーン”と名付ける。
ワープア型以外の3つの型(以下 3分類 と呼ぶ)の平均出生数を少子化対策効果に相当する値にしたとき、その値をf(c)とy軸に置く。さらにこれがグラフにあたった点のx軸の値をcとする。するとこのcの値は3分類への対策費が0の位置となる。


ちなみに図のcの位置は、仮に設定したもので実際とはかなり異なると考える。では実際はどの位置が妥当だろうか?現在、少子化対策はまったく実施されていないわけではない。ただ出生数は減り続けておりその効果は見られない(”出生数減≒効果なし” とする)。このことを考慮するとcの位置はプラトーゾーンに位置していると考えるのが妥当だ。


3分類への対策費0の位置、つまり3分類のスタート地点がプラトーゾーンと仮定した場合、全分類均等に対策費をpだけ注いだときの効果を表す式は以下の通り

$$(1-st)×f(c+p)+st×f(p)・・・①$$

※”1-st”は3分類の人数割合、”st”はワープア型の人数割合

となる。一方、対策費をワープア型に集中した場合の効果は以下の式になる。

$$(1-st)×f(c)+st×f({\frac{p}{st}})・・・②$$


現在の対策は均等タイプの①式で、しかも効果がないことから①式のf(c+p)をf(c)と置き換えて問題ない。この置き換えた式は以下のようになる。

$$(1-st)×f(c)+st×f(p)・・・①´$$

もし ②>①´ ならワープア型に対策費を集中した方が効果が期待できることになるため、②-①´>0 を検証してみる。

$$(1-st)×f(c)+st×f({\frac{p}{st}})-(1-st)×f(c)-st×f(p)=st×\{{f({\frac{p}{st}})-f(p)}\}$$

stは0<st<1であるため、

$${\frac{p}{st}}>p$$

となる。グラフは右肩上がりであるため、以下の式が成立する。

$$f({\frac{p}{st}})>f(p)$$

ただし、

$${\frac{p}{st}}$$

がバッファーゾーン内に留まる場合は、効果はない。また、前提として3分類の人が、もしワープア型だったならワープア型と同じグラフになると仮定している。
現在の日本の少子化の主因は少母化なので、ワープア型に少子化対策費を集中したからといって一気に少子化が解消されることはないが、少なくとも最も効果的な方法だと考える。少母化はこのS字カーブのグラフに表現を落とし込めないので、対策を講じても出生数が減っていることはこのグラフでは説明できない。
ワープア型への集中以外にやるとしたら「プラトーゾーンを高くする」、「バッファーゾーンを高くする」、「バッファーゾーンを短くする」が考えられる。ただこれらについては、具体的にどんな施策を講じれば目的を達成できるかわからない。

○少子化対策としての教育無償化
少子化対策として教育無償化は、少なくとも都市エリート型は除外する必要がある。なぜなら都市エリート型は既得権の子供への譲渡を「教育を通じて能力を上げる」という間接的な形で行わなければならず、教育無償化で浮いたお金は今いる子供の教育費として消費され、新たな子作りには向かわない。3分類の中で教育無償化が効果的に作用するとしたら、そのライフスタイルから考えるに、専・無敵一家型だろう。対策は最も効果が見込めるエリアに集中的に投下すべき。

○せっかくなので少子化対策の政策を考えてみる
少子化は少婚化、そして少婚化はワープア型化だ。これらの一連の関係性は、様々なデータが示すところ。少子化対策はワープア型にスポットを当てて取り組む必要がある。具体的にはワープア型に何らかの既得権を与える方向で検討すべきだろう。与える既得権の内容として、1つのアイデアは専・無敵一家型と似たものにすること。専・無敵一家もワープア型同様、労働市場価値が低いためフィットしやすいはずだから。この既得権を与えたワープア型のことを以下、擬・無敵一家型と呼ぶ。ただ、既得権を与える対象をワープア型全てにするのは無理だし、対象は絞った方が効果的なので対象を以下の条件で絞る。

○少子化対策の対象・条件
まず、都市エリート型の便乗を少しでも排除するため、『非正規雇用であること』を条件にする。専・無敵一家型の便乗を排除するため『持ち家がある者(将来相続できる者も含む)を除くこと』を条件にする。都市エリート型や地方公務員型の便乗回避のため、『指定された特定地域に居住していること』も条件にする。この「指定された特定地域」とは、都市部への通勤が困難な地域を中心とし、出産・子育てしやすい環境の整備に必要なリソースを集中するため、場所を絞るもの。むやみやたらと広域で指定すると整備費用が高くつく割に、効果が少なくなるから。最後は擬・無敵一家型なので『未成年の子供が同居していること』。以上の4つの条件を全て満たす者を対象とする。

○少子化対策の支援内容
擬・無敵一家型なので生活費の中で大きなウェイトを占める家賃を補助する。通常の無敵一家は子供が成人し就業してからも同居を継続することで成立する。擬・無敵一家型はこれを成人からではなく、出産からに前倒しして、子供一人当たりに一定の養育費を補助する。大企業正社員や公務員だと住宅手当や家族手当がある。これを国が擬・無敵一家型に対し行うもの。

○少子化対策の財源
例えば今20歳で就業開始した者が毎月一定額を所定の機関に積み立てて45年後の65歳で定年を迎えた際、この定年の年に生まれた子供たちへ、それまで積み立てた分から18歳の成人を迎えるまで毎月一定額を支給する。こうすれば、積み立てられている金額があらかじめ分かるため、来年子供を産んだらいくらもらえるかをある程度予測できる。そのため生まれ過ぎも抑制できる。今の少子化対策は生まれ過ぎを想定したものとなっていない。そして、今の高齢年金は現役世代が一方的に高齢者を支える仕様になっているため、現在の日本のように人口割合がいびつになると不平等感が生まれるが、この制度を設ければ、双方向になるため不平等感が軽減される。ただ、この積み立て制度はキチンと回りだすまで45年もかかるので導入当初は微々たるものになる。なので初めのうちは国債なんかで少し補充する。国債は将来世代が負う借金なので子育て支援として使うのなら公正だ。

○少子化対策支援の支給方法
企業を通じ給与と一緒に支払う。給与として企業を通じて支払うことで支援金は一度企業の懐に入ることになる。これは不況時、雇用の調整弁となりやすい非正規社員の失業を抑制するため、支援金に企業へ支払う雇用維持費を付けるといった対応を可能にするため。それでも失業したら雇用保険の領分。また企業を通じて払うことで、自営業の者をある程度回避できる。自営業はある意味積極的にワープア型でいる者といえるため対象から除外する。

○とにかく対象をワープア型に絞る
政策効果が十分に出ない場合、分配対象を十分に絞れていないことが原因である可能性が高い。多くの場合、政策対象の効果曲線は先に挙げたS字カーブを描き、それゆえプラトーゾーンに位置する対象に対策費を配っても効果がない。それどころか、効果が出ない対象にまで配ることで一人当たりの配分が減り、せっかく効果が期待できる対象までバッファーゾーンを抜けられないことになりかねない。またワープア型が固定化するのは、方法論に先立つ”物”がないから。だからといって、見境なく”物”やこれを買うためのお金を配っては、浪費が多発しかねない。だから対象を『未成年の子供が同居している者』に絞るのだ(※少子化対策に限らず、全てのワープア型救済策で)。子供に対して見境なく配るのは、ある程度許容されるはず。3分類に属する人から「親が浪費するかもしれない」と批判が出るかもしれないが、それでも3分類に配るよりは効果が期待できる。少なくともワープア型のなかで、その固定化が正当化できない対象は『未成年の子供が同居している者とその子供』だとするのは、広く同意が得られると思う。

○ワープア型の政治の遠さ
選挙では獲得票の多い候補者が当選する仕組みになっている。そのため、政治は基本的に分配対象を絞ることが難しい性質を持っている。ただし、選挙はお金や人手がかかることから、特定の団体が候補者へお金や人手を支援することで、見返りとして分配対象を絞ってもらうという裏技が存在する。この裏技は既得権やお金を持っている3分類の者でないと事実上行使できない。安倍晋三元首相銃撃事件の犯人は、母親が新興宗教に多額の寄付をしたことで、家庭が困窮し、大学に進学できず、強制的にワープア型になった。対して家庭を困窮に追いやった新興宗教団体は、母親を含む信者から吸い上げたお金と熱心な信者を使って、この裏技を行使し、政治の力を利用できた。ワープア型にとって政治は時として絶望的に遠い。つまり分配対象は、効果が期待できないくらい広くなるか、分配対象が絞れていても既得権を持つ3分類を対象にしたものばかりになる。ワープア型がこのまま増え続けると、分配対象をワープア型に絞っても、ワープア型が多すぎてバッファーゾーンを抜けられない事態に陥る。こうなると、社会が熱力学で言うところの熱的死の状態になったのと同じ。これは、民主主義の死を意味する。

○選挙制度の修正ではなく、議会の取り決めで修正
ワープア型の政治の遠さを、選挙制度の欠陥として修正できるならそれがベスト。ただ制度の大改正は不要だと思う。選挙の際、投票用紙に「あなたはワープア型ですか」のチェック欄を設け、個々の当選者にどのくらいワープア型の票が含まれるかわかるようにするくらいで十分だろう。ワープア型の投票数さえ分かれば、与党内での議決でワープア型からの票を多く獲得した議員には2~4票分付与するなどして、与党内の取り決めで政治の遠さを調整すれば済む。より政治に声を届ける必要性が高い対象からの支持を得た議員の声を大きくするのが狙い。ワープア型かどうかを問うのが嫌なら「未成年者を扶養してますか」でもいいと思う。ワープア型かどうかを自己申告してもらう方式だと、党内での発言力が欲しい輩が、支持者へチェックを入れるように促すインチキを働く可能性がある。なので各議員のワープア型からの得票数は公開し、得票数と党内での発言や行動に矛盾がないかチェックできるようにする。こんなことすると「議会での議決が形骸化しかねない」との批判が出そうだが、すでに党議拘束みたいなことが行われているのだから大した問題ではない。ただ、投票者の声を平等に反映していないので、次の選挙で3分類からの支持を失い、選挙で大敗する可能性がある。その時は国民が「将来の民主主義の死を受け入れた」または「民主主義の死は起きないことを支持した」ようなものなので、大手を振ってワープア型を無視してOKだ。有権者が自分が支持する議員の発言力を増すため、自主的にワープア型と偽って投票した場合も同様。ただ最低でも1度は国民に問わないと、未来の日本人に格好がつかないのではと考える。

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