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大人の成長を描いたユーリ!!! on ICEをふりかえる

ユーリ!!!の放送から6年です


ユーリ!!! on ICEが放送されてから、6回目の10月が来た。

ユーリ!!! on ICE(以下、ユーリ!!!)は、2016年10月〜12月期にテレビ朝日系列で放送された、男子フィギュアスケートをテーマにしたアニメーションである。

マンガ家の久保ミツロウ先生と山本沙代監督が原案のオリジナル作品であるユーリ!!!は、放送開始から国内外で人気を博し 、深夜2時台の放送にも関わらず、Twitterのトレンドをユーリ!!!の話題で埋め尽くすなど、覇権アニメと呼ばれるにふさわしい熱量があった。

崖っぷちフィギュアスケーターの主人公・勝生勇利のもとに、彼がずっと憧れてきたトップスケーター、ヴィクトル・ニキフォロフが「コーチになる」と現れる。選手とそのコーチという関係になった2人が、グランプリファイナルの金メダルを目指すストーリー。

そこには、大人の成長が描かれている。

スケーターの競技人生は短い

とあるインタビューによると、山本監督は2012年頃からフィギュアスケートのアニメーションを作ろうと企画をイメージしており、機会があれば口に出していたそうだ。しかし、まわりの反応はイマイチだったらしい。

『フィギュアスケートのアニメを作りたい!』と言うと、だいたい断られるんです(笑)。まず『大変そう』というので断られるんですけど。あと、よく言われたのは『部活モノですか?』と」

「アニメの企画を作っていると登場人物の年齢を若くしてほしいと言われる場合が多くて現代劇だと必然的に学生が主人公になるのですが、そうするとフィギュアスケートに興味がない人の発想だと部活につながるんじゃないかな……と。」

山本沙代監督インタビュー/ユーリ!!! on ICE 公式ガイドブック「YURI !!! on Life」扶桑社

このまわりの反応は、致し方ないところもあるのかなと思う。

たいていの物語には、根っこに「成長」がある。成長の定義はさまざまだが、視聴者はキャラクターに成長を求め、そのプロセスや目的の達成に「見て良かったな」と満足する。成長は物語がヒットするための、重要なファクターだ。

とりわけスポーツには成長がある。勝ち負けがあり、仲間たちがいる。仲間の人数が多ければ、関わり合い(ストーリー)もふんだんに生まれる。さらに、心身が未熟な学生が登場する部活は、成長が描きやすい。体は鍛えればある程度形になるし、若いぶん習得もしやすいだろう。仲間とぶつかり合いながら、精神も成長していく余地がある。わかりやすい、目に見える成長がある。

多くの人が、学生時代や部活の思い出や体験を持ってるので、共感も生まれやすい。作品の要素に、学生や部活が求められるのは、そういうことなのだろう。

しかし、ユーリ!!!の主人公、勝生勇利は23歳の成人男性である。23歳は実生活でいうとまだまだ若者だが、アニメーションの世界において、わざわざ主役をはる年代ではない。どちらかというと、主人公を見守る大人のポジションだ。

さらに、多くのスケーターが高校や大学の卒業を機に競技から離れていく。このことを考えると、(本人基準で)納得できる成績を収めていない勇利くんにとって、23才という年齢は自身のスケーターキャリアの終盤であり、若手ではない。

もっというと、ヴィクトルは27歳だ。ヴィクトルも一般的には若いのだが、競技選手の年齢で見ると、大ベテランの域である。

参考までに、実際のフィギュアスケーターがプロへ転向したり、引退したときの年令を記しておく(間違いがあったらそっと教えてください!!!)。

  • 羽生結弦さん 27才

  • 田中刑事さん 27才 

  • 高橋大介さん 28才(のちに32才でアイスダンサーとして競技復帰)(すごいんだよ…)

  • 織田信成さん 26才

  • 無良崇人さん 27才

  • 本田武史さん 24才

このように、勇利くんとヴィクトルは、フィギュアスケートの世界においては、立派な「大人」なのだ。

大人だって成長を実感したい

大人の成長は、子どものそれに比べてずいぶんと地味である。前提に「できて当たり前」があり、新しいことを始めるにはハードルが高いことばかりだし、プライドが邪魔をするし、体力も落ちる。

こと精神面の成長においては、何がどう成長したのか?がわかりづらい。ともすると、大人はもう成長しないのでないか?なんて諦めもでてくる。

が、ユーリ!!!の全12話を通して、勇利くんとヴィクトルは確かに成長していく。勇利くんが新しいジャンプを降りられるようになるという身体の成長や、スキルアップだけではない。他者との関わり合いの中で、自分の内面を捉え直し、自分自身に期待を持てるようになっていく。「大人」だって、まだまだやれる、成長できると証明した。

ここに、大人世代の共感が集まり、大ヒットに繋がったのではないか?と私は考えている。

もちろん、アニメーションとしてのクオリティもすばらしく、男子フィギュアという難しいテーマをアニメーションで魅力的に魅せるさまざまな技術、山本監督が「平松禎史さんに男性キャラクターを描いてもらったら最高なのではないか」という天才的なひらめきで生まれたキャラクターデザイン。そして「自然体の演技」を軸に選ばれたキャスト陣。スケーター1人ひとりに現役の振付師でもある宮本賢二先生によるプログラムがあり、音楽もスケーターの衣装もオリジナルばかりだ。どれもこれも色褪せることがない。

私自身、ユーリ!!!をきっかけにお茶の間フィギュアファンから、アイスショーや競技会へ足を運ぶようになった。ルールや選手のことを知るたびに、フィギュアスケート沼に落ち、そしてユーリ!!!に描かれたストーリーの深みや演出に気づいては、自分の解釈が変わっていくのを面白く感じている。

新作劇場版の制作が発表されているユーリ!!!は、「作品内容の更なる充実を目指し」というアナウンスがあって以降、2022年の今も新しい情報がないままでいる。便りがないのは元気な証拠、でもやっぱり気持ちの置きどころがないのは確かです。

しかし当方、「読みたいものがないなら作ればいいじゃない」というマインドを持つオタクである。そこで、あらためて本作を見直し、6年目の視点で新しさを見つけてみようと思う。新しくユーリ!!!を知った方向けに、当時のちょっと(だいぶ)(かなり)、狂ったようなネットの高揚感も伝えられたらいいな。

というわけで、大人の成長とは何か?にフォーカスしながら、ユーリ!!!を1話ずつふりかえっていきます。

優しい気持ちでお付き合いいただけると嬉しいです。

「自分としては私が観ていて楽しいと思っている試合そのものを描きたいわけですが、なかなか伝わらない。成長物語だったとしても一から始める話ではなくて、選手としてすでに成熟した人の話にしたかったんです。(略)面白いよね、という同意は得られなかったんですよ。ただ、誰にもイメージできないような新しいものを作ろうとしているんだな、という確信は強く持つことができました。」

山本沙代監督インタビュー/ユーリ!!! on ICE 公式ガイドブック「YURI !!! on Life」扶桑社


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