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徹底考察・雪宮剣優〜だから彼は神に祈るのをやめた〜
「夢と心中する覚悟ならできてる」
(はぁ???????????)
この台詞をはじめて読んだとき私が思ったことです。おそらくこの記事を読もうとしてくださっている方も、似たようなことを思ったのではないでしょうか。
雪宮の描写には、抽象的な表現が多く使われています。この記事はそんな彼の発言や行動を、なるべく筋道立てて説明しようと試みたものです。
★この記事は25巻までのネタバレを含みます未読の方はご注意ください。
・雪宮剣優というキャラクター
本編での言動に触れる前に、
雪宮剣優という“キャラクター”の描き方から、彼が与えられたコンセプトを考察します。
漫画の創作論で、
「コンビでキャラを出すことによって、自然と会話が生まれてお互いのキャラが立つ」というものがあります。実際に作中でも凪と玲王、カイザーとネスのようにコンビで登場するキャラは多いです。
しかし、雪宮だけは、登場時から誰ともコンビになっていません。
同時期に登場した烏と乙夜は「このコンビで二次選考勝ち上がってきたから」と氷織に言われるなど明確なコンビ描写がありますし、士道も登場時こそ1人でしたが、すぐに冴とコンビになりました。
雪宮は1人でもキャラが立っており、新英雄対戦編では主人公の潔とメインをはれるだけのキャラクターになっています。私はこれを純粋にすごいなぁと思っていました。
そして205話を読み、衝撃を受けます。
この回での絵心さんとの会話から、雪宮の
“1人でキャラが立っている”という描かれ方は、彼の「眼のことを誰かに知られたくない」という気持ちと繋がっているのではないのかと考えました。
1人でキャラが立つ。
裏を返せば、「相方がいない」
これを作品内世界で考えると、「1人で行動することが多い」となります。
つまり、雪宮は「“眼のことを誰かに知られたくないから”、1人で行動しているんじゃないか?」という考えに至りました。
それを踏まえて、彼のプレイスタイルを思い出してみましょう。
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「1on1が得意」は、「自分1人でボールを奪い、自分1人で戦うことが得意」とも言えます。
潔がブルーロックに来てダイレクトシュートという武器を産み出したように、雪宮もブルーロックで1on1というプレイスタイルを産み出した可能性はあります。
共同生活を行うというブルーロックの性質上、誰かと連携しすぎるとその人と私生活でも仲良くなってしまいます。万が一、眼の調子が悪くてボロが出たときにそのことを言及される可能性を回避する意味でも、1人で戦うプレイスタイルは有効でしょう。
サッカーは11人で戦うスポーツです。漫画でしかサッカーの知識がない私でもチームメイトとの連携が重要なことは分かります。
11人で協力して戦うサッカーにおいて、
誰の力も借りずに、“1人”で戦う。
それが、雪宮剣優というキャラクターに与えられたコンセプトなのではないかと思いました。
・雪宮剣優の“運命”と神様
では、本格的な考察に入りましょう。
雪宮を語るうえで欠かせない言葉があります。“夢”と“運命”です。
まず、“運命”の語義を引用します。
人間の意志を超えて、幸福や不幸、喜びや悲しみをもたらす超越的な力。また、その善悪吉凶の現象。巡り合わせ。運。命運。転じて、幸運、寿命、今後の成り行き。
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上のシーンから、雪宮にとって“運命”とは、プロ選手として生きていくなかで“眼が悪いこと”なのではないかと考えました。
それは、自分では変えられないものです。
この「自分では変えられない」という部分に、雪宮にとって「神様」が重要になる要因があります。
「神様」の話が出てきたところで、ユダヤ教が起こった要因の一説を紹介します。
当時ユダヤ人はバビロン捕囚によって苦しい思いをしており、それを「神から与えられた試練である」と考えることで乗り越えようとしました。
これを一般化すると、
「人は理不尽で辛いことがあると、
それを“神から与えられた試練”だと考える」
となります。
自分ではどうしようもないから、神の試練だと意味をつけて、心を安心させるのです。
雪宮にとって眼が悪いことは、「神様が与えた試練」であり“乗り越えられる運命”でした。
ちなみに運命と試練は、ほぼ同じ意味で使っていると考えています。違うよって意見も聞きたい。
詳しくは後述しますが、“運命”には眼が悪いことだけではなくそれに付随する様々な意味や、“未来”といったニュアンスが含まれています。基本の意味はこれだけど場合によって若干異なるよってかんじで捉えていてください。哲学用語かよ。
・雪宮剣優の“夢”
次に“夢”についてです。
雪宮の“夢”は他の多くのキャラと同様に、
“世界一のストライカーになる”ことです。
しかし彼にはその前にある条件が付きます。
“眼が悪いことを隠して”
あえて尖った表現をするならば、“健康な選手として”です。
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雪宮は眼のことを知られたら、自分には無理だと言われると思っていたのでしょう。かつて医者の先生にそう言われたように。
それでも、雪宮は“世界一のストライカーになるという夢”を叶えるため、“眼が悪いことを隠し通す”と決めたのです。
「眼が悪い自分は、選手として受け入れられるわけがない」
という考えは、雪宮の「核」になっていると思います。
「夢と心中する覚悟ならできてる」
さて、問題のこの台詞です。
冒頭に書いたように初めて読んだとき、私はこの発言の意味がまったく理解できませんでした。
しかしここまで解説した“夢”と“運命”の意味を理解できていれば、なんとなく理解できます。
こちらも運命と同様に、まずは“心中”という言葉の意味を引用します。
心中
ある物事と運命をともにすること。
「夢と心中する」とは言い換えれば、
「“夢”と“運命”を共にすること」なのです。
“眼が悪いことを隠して世界一のストライカーになる”という“夢”
“眼が悪い”という“運命”
それを共にするということは即ち、
“眼が悪いことを誰かに知られたとしても、
夢を追うこと”
なのではないでしょうか。
ここでの「誰かに知られる」とは「仲間にバレる」「世間に公表する」ということではありません。もっと根本の段階です。
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205話のこのシーンから、雪宮は絵心さんを含めブルーロックにいる人には誰も眼のことを話すつもりがない、そのうえ「自分が所属するチームの監督」などにも言わないつもりであったと推測されます。つまり、言葉どおりのマジのガチの意味で“誰にも”言わないつもりだったのです。
「夢と心中する」の意味が分かったところで問題になってくるのは、雪宮は「その覚悟」ができているのかどうかです。
では、このフレーズの初出である172話を見てみましょう。
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そう。イングランド戦以前の雪宮にとって、夢とは“理想”だったのです。
“理想”は言うまでもなく“眼が悪いことを隠して世界一のストライカーになること”です。
つまりこの時点での雪宮は「夢と心中する覚悟ならできてる」と言っておきながら、本当は「“夢”と心中する覚悟」ができていなかったのです。
ちなみに196話では「俺は俺のゴールと心中する」と言っています。ここではゴールを決めることで夢への道が続いていくため、
「ゴール≒夢」になっているのかなと思っています。
この場面はかなり気が立っている状態なのでもしかしたら「心中」も「死ぬ」に近いニュアンスで言ってるのかもしれません。
・ドロ船ムーブの理由
イングランド戦最終盤、潔がラストパスを出す前に雪宮の「俺の物語は今、誰にも見つけられずに終わる」というモノローグがあります。
このモノローグにかなり顕著に出ていますがイングランド戦以前の雪宮は、「自分は頑張ってるのにチャンスが回ってこない」と思っている節があるんですよね。
「“眼が悪くなっていく”自分にはチャンスが来るのを待っている“時間がない”。だから自分で取りに行くしかない」
そう思ったことに、絵心さんが言っていたような自己評価の高さが加わって、あの「ドロ船単独行動」が生まれたと私は考えています。
これは考察ではなく個人的な意見ですが、
雪宮の“選手”としての自己評価の高さは、
“眼が悪い自分に自信がない”ことの裏返し
なんじゃないかと思っています。
本人に自覚があるか分かりませんが、自分の弱い部分から目を逸らしているからこそ、根拠がない不安定な自信が生まれるのかな……と。
・雪宮を救った“出来事”とは?
ドロ船雪宮について理解が深まったところで、イングランド戦ラストでゴールを決めた以後の雪宮について考察します。
ここで鍵になってくるのが、205話です。
205話は、コミック1巻分使って描かれた雪宮の「お当番回」のエピローグにあたる話だと思っています。
この回で、雪宮にとってターニングポイントとなる出来事が起こります。
自分にオファーを出したチームに、眼が悪いことを知られてしまったのです。
結果は皆さんご存知だと思いますが、以下の通り。
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このクラブからの回答は、雪宮の今までの常識をひっくり返すものだったと思います。
“眼が悪くても、プロ選手として受け入れてもらえる”
雪宮を救ったのは潔でも潔のゴールでもなく、“それを見たクラブからの回答”なのではないでしょうか。
今まで雪宮は“夢”を追うために自分の“運命”から目を背けてきました。しかし、他者から
“眼が悪くても夢を追っていい”と言われたことにより、雪宮は真の意味で「夢と心中する覚悟」ができたのではないでしょうか。
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雪宮にとっての“運命”は、
「神」が決めた“変えられないもの”から、
「自分の力」で“変えられるもの”へと変化しました。
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だから、雪宮剣優は神に祈ることをやめたのです。
・雪宮剣優の“エゴ”
最後に、雪宮の“エゴ”について考察します。
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ここの“運命”が個人的に一番解らないポイントなのですが、205話の「エゴの成長」という発言を考慮すると、おそらくイングランド戦以前の雪宮は、「眼のことを周囲に隠して夢を追う」ことがエゴだったのではないかと思っています。
しかし現在の雪宮は、
「“眼のことを受け入れてくれる人がいると理解したうえで”、眼のことを隠して夢を追うこと」
が“エゴ”になっていると考えました。
注目するのは、現在の雪宮の“エゴ”には
「他者の視点」が入っていることです。196話で絵心さんが示唆したように、雪宮の弱点は「プレーが主観的すぎる」ことです。
続くイタリア戦では、この弱点を少し克服していると思います。
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現在の雪宮は、ぶつかっていいタイミングを見極めて当たりにいってるかんじがします。
以前は焦るあまり自分のことしか考えられていませんでしたが、周囲を見る余裕ができているような気がします。オタク的には成長を感じて感慨深いです。
225話の話もしたいのですが、本誌バレになるので最後にオタクとしての感想だけ書きたいと思います。
【終わりに】
ここまで読んでいただきありがとうございました。
「雪宮の長文考察ブログが読みたい!
→探しても見つからない
→じゃあ書くか!!」という思いから構想が始まり、お蔵入りになりそうでしたがなんとか公開できました。
こんなに書いておいてなんですがぶっちゃけこの考察に自信があるかと言われると
ないです。
あくまで1オタクの意見です。もっと有識者の意見が聞きたい。多分読み返したり原作が進んだりしていくにつれて、この解釈は違うんじゃないか?と感じる部分もあると思います。そのときは笑ってやってください。
この記事が皆さんのキャラ考察、理解の一助となれば幸いです。
参考サイトと225話感想
「元週刊少年ジャンプ編集者が漫画家から学んだことを書いていく─第3回『ドラゴンボール』の敵はなぜいつも2人組なのか」
(https://www.shonenjump.com/p/sp/2019/saito_blog/blog/003.html)
★以下本誌バレ注意(26巻収録内容です)
225話最高でしたね。潔との連携失敗した瞬間に心の中で拍手しました。そうそうやっぱりそうなるよな!今まで1人で戦ってたツケがまわってきてる!!
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