姉さんと竹と季語

職場に、とても格好良い女性がいる。

ばっちりとした、でもどこかミステリアスな目、通った鼻筋、『レオン』のマチルダみたいな綺麗に整ったボブ。

いつも、すごくお洒落でエッジの効いたモード系の服を着ている。凡人の私にはどう頑張っても着こなせないようなファッション。

それから、とにかく、生活感がまるでない、いい意味で。
実際には夫も子もいて、家事もバリバリこなすお母さんなのだが、どこからどう見てもそういう風にはまったくみえない。

その人は10歳以上年上なので、私が「友達」と呼ぶには何だか違うような気がする。

かといって「先輩」というほど仰々しくもない。
「職場の人」と言ってしまうと、急に距離がある。

一応、以前に一度だけ二人で飲みに行ったことがあるのだ。いつもの歯に衣着せぬ物言いに、少しだけ酔ってハッピーなオーラが加わりなんていうかもう最強だった。夜遅くまでだらだらと飲んでお喋りをした。

こういう、友達と先輩の間の関係に誰か名前をつけてほしい。

とりあえず、ここでは姉さんと呼ぶ。

姉さんがふと、
「このたけしさん、竹って漢字、めずらしい」
とある人の名前を指差した。

そう言われてみると、名前の「たけし」から連想される漢字は剛田武や、武士、武司、健士であって「竹」ではないだろう。。

「本当だ、普通、武士の武とかですよね」
と言うと
「竹の季語っていつだろうね。春?夏?」
と返してくる。

映画みたいなことを言う姉さんの言語センスって良いよなぁと思いながらそういえば考えたことがなかった。春に生まれたから竹、がつくのだろうか。

竹の季語とはいつだろう。

そのあとしばらく「そもそも、竹とたけのこの季語は違うのか」などという話をしていた。

竹の春

竹は、タケノコが出る春の時期には栄養を奪われて衰える。秋になると勢いを取り戻し、葉も青々としてくる。この状態を竹の春というのだそう。つまり、「竹の春」の季語が秋。

竹の秋

一般的に常緑性の植物は一年を通して少しずつ落葉して、葉を入れかえる。だが、竹はタケノコに栄養分を費やすために、 春に黄変する。これを、竹の秋という。

竹、の季語はない

竹の春、竹の秋、以外にも若竹や、竹の花、たけのこ(ちなみに夏)などはあるけど、「竹」の季語はないらしい。これは意外だった。

まっすぐすくすくと育つように、竹という漢字を使ったのだろうか。

私が連想するのは萩原朔太郎の「竹」だ。

かたき地面に竹が生え、
地上にするどく竹が生え、
まつしぐらに竹が生え、
凍れる節節りんりんと、
青空のもとに竹が生え、
竹、竹、竹が生え。

竹が生え、が続いているところから、どっしりと構えている竹林の様子が浮かんでこないだろうか。ゆるぎない、ただ真っ直ぐに生えていこうとしていく竹と若者の姿が重なっているというような解釈だった気がする。

個人的にはそれはさておき、「凍れる節々りんりんと」ってリズム、すごくいいなぁ。この詩からイメージされたたけしさんだったらとても素敵だな。たぶん違うだろうけど。

明日、姉さんには竹そのものの季語がなかったことを教えてあげようと思う。

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