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気になる新刊2021.7(7/31最終更新)

スケザネが気になる新刊を月ごとにまとめるページです。
特に気になるものは、紹介文や自分のコメントを付しています。
本以外もまざってるのはご愛嬌。
※一部、前月末のものもあり。
※掲載時点では、当月出版予定で、後に出版が延期されたものが残っていることもあります。

文学

(スケザネ)熟達の職人により精巧に作り込められた工藝品のような一作。
過剰も不足もない心理描写と香り立つような景物描写とにため息をつく。
劇的な展開はないのに、気がつくと言葉に引き込まれ、頁を繰る手が止まらない。清涼な水のような読み味。
本作が執筆されたのは1943年。しかし諸般の事情から二度も出版が頓挫し、この度が初の刊行となる。
今年、野口は生誕110周年で、八木義徳との往復書簡集、更には中公文庫から『海軍日記』も上梓された。
私小説の作家は良く言われないこともあるが、このような本当に良質な作家は大切に読み継ぎたい。
田畑書店のHPで、第一章が全文公開されています。これだけでもぜひ読んでみてください。
https://hanmoto9.tameshiyo.me/9784803803853
ペソアの評伝!


人文


芸術

伊藤弘了『仕事人生に効く教養としての映画』
約3年間待ちわびていた一冊!
著者は新進気鋭の映画学者で、ツイートやweb記事は切れ味抜群で、ずっと著書を待望していた。
映画は総合芸術であると言われる。となれば、こちらも総合的な視野を以て鑑賞したくなる。
だが、これまで世に溢れていた一般向けの本は、著者は総合的に捉えているのだが、その前提が省かれがちだった。
例えば、切り返しショットやカッティングつなぎなどの撮影技法。製作・配給・興行の仕組みなど。本書はそういった映画の前提、更に映画史、映画を観る意味から説き起こす。ここが簡潔だし、わかりやすいし、密度が高い。何よりも貴重!
続くパートでは、溝口や小津、ヒッチコックといった古典から、是枝裕和、『ボヘミアン・ラプソディ』などの現代まで幅広い題材をとって、鑑賞のコツを伝授。この鑑賞のコツが真骨頂。何度も鳥肌が立った。
例えば、一見何の変哲もない『東京物語』の冒頭ショットを緻密に緻密に鑑賞する。すると、作品全体にまで広がるあっと驚く意味が見えてくる。
映画だからこその鑑賞とはこういうものなのか、巨匠とはかくも凄まじいのか。
猛烈に映画が観たくなる。
終盤には、ナチス時代の映画をとりあげ、映画の危険性についても、誤魔化さず、臆せず説く。だが、その奥には鑑賞者一人一人への信頼と、伊藤先生の教育者としての矜持も覗く。
ラストは、冒頭に書いたツイートの話もありつつ、実践的な映画の感想作成術がある。(タイトルのビジネスは特にここ。)
「映画を見ることは難しい。だからこそ、挑戦する価値がある。」が、本書を支え、貫くテーゼ。
以上述べたように、平易な言葉(徒な晦渋さは無い!)で、真摯にそのテーゼに向き合ってくれる。
その想いに触れられ、少し謙虚に、真剣に、映画に向き合えることこそが本書の大きな意義の一つだろう。
あと本書には数々の映画と映画本が紹介されており、これも嬉しい。映画リストとしても大重宝。
色々書いたけど、溝口健二『お遊さま』という作品の冒頭約5分の分析が、マジで映画観変わるから読んでくれ~!
映画ならではの技法と嘘と、作中人物の気持ちとが緊密に結びついていることがわかる!鳥肌!

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