9月入学について思うこと

 9月入学を安倍首相や全国の知事が提起し、政府内でその検討が進んでいる。①子どもの学びを確保する、②学習格差の是正、③グローバルスタンダードに合わせることを目的として9月入学の導入が提案された。しかし、私は9月入学の来年実施には反対である。理由は大きく2つ。①教育現場の混乱、②「グローバルスタンダードに合わせることで日本の国際化が進む」という前提への疑問である。今回は、来年の9月入学導入ができない理由の説明ではなく、すべきではない理由の説明に努めたい。

 第1に教育現場が混乱することがある。コロナウイルスで学校が休校になったといえども、コロナウイルスの対応、新しい形式での授業への対応、生徒のケア、学校開始後のスケジュールの構築など業務に追われている。新しい業務に対応する余裕がないにもかかわらず、9月入学が実施されれば、学校現場の崩壊を招くことになる。そのような状態になれば、子どもへの学びの質を確保するという9月入学の本来の目的を達成できなくなることが懸念される。まずは、現場が今の業務に専念してもらうことが最重要だと思う。

 第2に「グローバルスタンダードに合わせることで日本の国際化が進む」という前提には疑問が残るということである。9月入学導入論者はグローバルスタンダードに合わせることで、留学生の受け入れ・派遣が増え、日本の国際化が進むことが期待している。国立大学協会の調査では海外留学に行かない理由として67.8%の大学生が「帰国後の留年の可能性」を挙げており、4月入学が留学の障壁になっているとしている。しかし、3月入学の韓国では、2017年度の海外留学者が24万人なのに対し、4月入学の日本では10万人に留まっている。これを見るに、英語能力や海外留学へのインセンティブなど別の問題の方が大きく、入学時期を変えただけでは、学生の海外留学を促すことはできない。また、日本の大学では正課の授業が全て英語で行われている大学・学部は少なく、多くの留学生を受け入れる体制にはないのが現状である。それゆえ、「9月入学」という枠組みを変えただけで、日本の国際化が進むというのは幻想に近いと言える。まず、グローバルスタンダードに合わせるという前提の是非を検証することから始める必要がある。

 上の2点のような理由を挙げたが、私は決して9月入学に反対ではない。理想ばかりが先行し、現場の声や負担を軽視した形で9月入学という戦後最大の教育改革を行うことは、危険だと言いたいだけである。前提の是非や現場の状況を議論することなく、拙速に改革を行うことで、間違った方向へ改革が進み、社会に混乱をもたらすことは、平成の改革の歴史からも明らかである。まずは、コロナウイルスの対応に全力を注ぎ、コロナウイルスが収束した後で、ポストコロナの社会・教育を様々な角度から丁寧に議論し、新しい教育制度を構築することがベストだと思う。

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