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007 慰めの報酬 2008年イギリス・アメリカ

ダニエル・クレイグが、ジェームズ・ボンドを演じた新生007シリーズの2作目。
通算では22作目となるのが「慰めの報酬」です。

前作は、イアン・フレミングの長編第1作目を映画化したものですが、本作は完全にオリジナル脚本。
映画はいきなり、スリリングなカーチェイスで始まりましたが、生還したボンドが、車のトランクを開けると、そこにいたのがミスター・ホワイト。
つまり、前作のラストで、ボンドが銃口を向けた相手です。
前作で、将来を誓い合ったヴェスパ・リンドは、ボンドの命と引き換えに、ボンドを裏切ることになるのですが、その黒幕につながる手がかりとなるのがこの男です。
ストーリー展開は、前作の設定がそのまま生きている完全な続編でした。
Wiki によれば、シリーズ初の続編と書いてありましたが、確か「007 ダイヤモンドは永遠に」の冒頭が、その前の「女王陛下の007」のラストで結婚したばかりの新妻を殺されたボンドが、組織に復讐するというシークエンスになっていて、シンクロはしていました。
しかしこちらは、前作でボンドを演じたのがジョージ・レーゼンビーで、「ダイヤモンドは永遠に」では、復活したション・コネリーがボンドを演じていましたので、みている方は、この繋がりが何のことやら分からなかった印象。
メインタイトル後は、全く別の話が展開していきましたので、「本格的」な続編ということになれば、やはり本作が初めてということになります。

さて、「カジノ・ロワイヤル」では、正直申して従来のボンドのイメージとかけ離れたダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドに、違和感はありました。
しかし、映画が終わる頃には、この新生ボンドに大いに納得。
007シリーズに限らず、映画界全体でも、アクション・シーンのテンポは早くなり、迫力も格段にスケールアップしてきました。
007シリーズの原点は、なんと言ってもアクション映画です。
この新しい時代のアクション映画に対応するには、やはりこういうボンドが必要だろうと思えてきました。
今までのボンド役者には、確かに、それぞれのストロング・ポイントがありましたが、ハードなシーンには、もちろんスタントマンを使うにせよ、ここまでのアクション対応はちょっとイメージできません。
ダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドには、確かにこれまでのボンドのような洗練されたスマートさはありませんが、その荒削りなハードさが、「ジェームズ・ボンド・ビギニング」的な、前作と今作の設定にはドンピシャリ。
この2作を通して、名実ともに、新生ボンドが、00メンバーになるという展開であるなら、お馴染みのジェームズ・ボンドのテーマが、映画の最後に流れるというのも納得。
やはり、シリーズは、マンネリ化させずに、時代にシンクロさせて、進化させる努力をしていかないと、観客もついてこないということでしょう。

さて、前作のラスト直後から話が始まる本作。
敵の黒幕に繋がるミスター・ホワイトを連行したボンドですが、その尋問中に、なんとMI6内部に潜り込んでいた敵組織のメンバーの裏切りが発生。(表返りか?)
ホワイトを射殺して逃げますが、それを追ったボンドは、男を生捕りできずに殺してしまいます。
しかし、男の残した手がかりから、ドミニク・グリーンという謎の実業家にたどり着くボンド。
表向きは、環境保護NPOの代表を名乗るこの男は、裏では、ボリビアの軍事政権のクーデターに手を貸し、その利権を我が物にしようという巨大組織の幹部。

今回のボンド・ガールは、この軍事政権のメドラーナ将軍に、家族を惨殺されたカミーユというボリビアの諜報員。
演じるのは、オルガ・キュレリンコというロシア系のスラリとした美女で、身長がダニエル・クレイグとほぼ同じ。
この映画のポスターを見ると、二人並んだ立ち姿は、ダニエル・クレイグの方が背か高く見えますが、よく見ると、彼女は裸足で、クレイグは、上底の靴を履いています。
彼女は、家族たちの復讐を果たすため、メドラーナ将軍に近づいていきます。

もう一人のボンド・ガールは、婚約者ヴェスパを失った私怨で暴走しているボンドを、ロンドンに連れ帰れという任務で、ボリビアに派遣されたMI6職員のストロベリー・フィールズ。
思わず、ビートルズのあの曲を思い出してニヤリ。
演じたのは、ジェマ・アータートンでしたが、彼女は可哀想でした。
ボンドといい関係になるまでは良かったのですが、その後敵の組織に、オイルを全身に塗られて殺されてしまいます。
3作目の「ゴールドフィンガー」で、ボンド・ガールが、全身に金粉を塗られて殺されるシーンがありました。演じたのは、シャリー・イートン。
もちろんこのシーンへのオマージュですが、全身に金粉を塗られると皮膚呼吸ができなくなって死ぬというのは、どうやら映画の中の作り話。
こちらは、だいぶ後まで、それを信じていましたが、その辺りも踏まえて、本作では、塗られただけではなく、たっぷりと飲まされていたという設定でした。
死体の顔は映りませんでしたが、ちゃんと本人が演じたということで、気合は入っていましたね。

ボリビアの不毛の砂漠に眠るお宝は、石油でもダイヤモンドでもなく、水という設定。
これは、実際に、ボリビアで起きたコチャバンバ水紛争をベースにしているそうです。
世界を股にかけるスパイの映画ですから、この辺りの国際情勢のリサーチは抜かりないようです。
その砂漠に作られた敵のアジトに、カミーユと共に乗り込むボンド。
そこには、ドミニク・グリーンと取引中のメドラーナ将軍もいて、大炎上するアジトで、カミーユは、将軍に襲いかかられながらも射殺。家族の復讐を遂げます。
ボンドも、この大爆発の中から抜け出し、砂漠を走っていくドミニクを追いかけますが、彼を捉えても、ボンドはドミニクに手を下しません。

「ここは、砂漠の真ん中だ。喉が渇いたら、これでも飲むんだな。」

そう言い残して、その場を立ち去ります。
ラストで判明するのは、ドミニクの死体が、砂漠で発見された時、その胃袋からは、オイルが出てきたということ。
そして、復讐を果たしても、決して心の晴れることのないカミーユに向かって、ボンドは優しくこう語りかけます。

「死んでいったものは、決して復讐なんて望んでいないんだよ。」

そこには、一皮も二皮も剥けたボンドの姿がありましたね。
ダニエル・クレイグのニュー・ボンドは、これまでのボンドのように、ラストでボンド・ガールとイチャイチャなんかいたしません。
暴走するボンドを一度はクビにしたMに、こう言わせてしまいます。

「ジェームズ。戻ってきて。」

すると彼は、ニヤリと微笑んで、

「いや、離れたつもりはないよ」ですって。

さあこれで、名実ともに、ニュー・ボンドが完成。
次回作が楽しみになってきました。

この次は、「007 スカイ・フォール」!






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