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湿地 2009年アイスランド

Amazon プライムで、見たい映画を探す時には、自前のDVDコレクションにはない、できる限り事前知識のない作品を選ぶようにしています。

そういえばここ最近、ミステリー映画を見ていないと思いながら、ラインナップを検索していたら、本作と出会いました。
見始めてみると、冒頭のクレジットも、俳優たちのしゃべっている言葉も、今まで見たことも聞いたこともない言語でしたので、どこの国の映画なのかと思っていたら、なんとアイスランドの映画でした。
アイスランドは、スカンジナビア半島とグリーンランドの間の北大西洋上に浮かぶ岩と氷の島国です。
北欧の鉛のようにどんよりとした空の下に広がる、どこか「地球離れ」した風景。
「スター・ウォーズ」シリーズや、「007」シリーズなどでも、この風景を活かした映画のロケ地としては登場することは知っていましたが、アイスランド自身が製作した映画ということになると、見るのは本作が初めてでした。

もちろん知っている俳優も皆無。
そして、本作には、イケメンも美女も登場しません。
これは、純粋にミステリーを楽しむには、かえって好条件です。
なぜなら、一切の映画的先入観の入らない状態で、このミステリーに浸れるわけです。
この中に、一人でも有名俳優がいたとしたら、そのネームバリューに応じて、その役の映画的重要性は、勝手に邪推してしまうのがミステリーファンの性分というもの。
それでは、純粋な意味でのミステリーは楽しめません。

年々沈んでいるという湿地にある一軒家で、老人が殺害されます。
調査にあたるのはベテラン刑事と若い刑事。
調査をしていくうちに、二人は30年前のレイプ事件にたどり着きます。
この事件と並行して描かれるのが、ベテラン刑事と娘の親子関係。
娘は不特定の男たちと性関係を持ち、やがて妊娠して、中絶費用を父親に無心してきます。
このことが、事件の展開と微妙にシンクロしてきて、刑事を苦悩させます。
ミステリーですから、ストーリーの解説はこの辺までにしておきますが、この事件の背後に重くのしかかっているのが、アイスランドの社会問題のようです。
バイキングで有名なアイスランドという国は、実は、世界で最も遺伝子研究の進んだ国なんですね。
遺伝子の管理保存が、世界で最も進んだ国です。
これにはアイスランドのという国の特殊な事情が大きく関係しています。

アイスランドは人口約32万人の火山と氷河の小さな島国。
その環境ゆえ、この国には、9世紀に北欧のバイキングが移住してきて以降、外部からの移民の流入はほとんどありませんでした。
そのため、アイスランド人の遺伝子は、多種多様な民族の遺伝子が交雑する他の国と比べて、島全体の人々の遺伝子が比較的均一化されているんですね。
さらにアイスランド人の多くが先祖代々の家系図を保有していて、家族の誕生、死亡、などがデータ化しやすかったという事情があります。
各医療機関にも、過去100年にわたって国民の医療記録が残されています。
これらの条件は、健康な人と病気の人との遺伝子の違いを探し当てるのに非常に好都合で、遺伝子研究を推し進めるには、非常に特殊な好条件が揃っていたというわけです。
しかし、当然これは、非常にデリケートな個人情報の多くが、国家や遺伝子研究会社によって管理掌握されているということ。
扱い方を間違えれば、大きな社会問題に発展する火種にもなるというのがこの国の抱えた事情です。
これを踏まえた上で、このミステリーを楽しむと、また一つ違った味わい方になりそうです。

映画を見ていて、結構ショックだったのは、アイスランドの食文化。
若い刑事がバイキング・レストランで、コックに聞きます。
「ベジタリアン用は?」
「そんなものはここにはないよ。」
彼は、軽くあしらわれてしまいます。
アイスランドといえば、鯨肉が有名ですが、本作に登場するのは、羊の頭。
刑事は、それをドライブスルーのファストフードで購入してきて、自宅でそのまま食べるのですが、包みを開ければ、なんと羊の目玉がギョロリ。
あれはもう、美味しいとか、まずいとかいう以前の問題です。

日本で、アイスランド料理のレストランをやるのは、やめたほうが無難かも。




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