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インターステラー 2014年 アメリカ

Amazon プライム の会員特典についに、クリストファー・ノーラン監督の「テネット」が登場。
この時期暇な百姓にとってはありがたいことで、早速見ようとしたのですが、ちょっと待てよと思いとどまりました。
「メメント」を見て、「ダークナイト・トリロジー」を続けて鑑賞してきたところです。
「インターセプション」は、すでに見ています。
彼のキャリアを確認すると、まだ未見の映画が2本ありました。
2017年の「ダンケルク」と、2014年の「インタースティーラー」です。
ここは、まず先行作をすべてチェックしてからこ最新作を見るべきだろうと思い直しました。
そこで、Amazon プライム・ビデオのラインナップを早速検索。
「ダンケルク」はまだありませんでしたが、「インターステラー」は発見。
ということで、170分の長尺の映画ですが、今回はこちらを鑑賞することにいたしました。

クリストファー・ノーラン監督といえば、CGデジタル処理が大嫌いな監督として有名です。
しかし、本作は近未来を舞台にしたSFです。
いくらノーラン監督といえども、宇宙を舞台にした映画で、何から何まで実写ワークは無理だろうというのが、見る前の率直な疑問。
見所は、本物主義の彼が、そのあたりを彼がどう映像化していくか。
まずは、お手並み拝見と言うところです。

クリストファー・ノーラン監督の作品といえば、映画の時間軸を自在に操る複雑なプロット構成でグイグイと観客を映画に引き摺り込むという手腕でも有名。
この作品も、近未来の宇宙空間と地球上の出来事の時間軸が、巧みに交差されてドラマを盛り上げていく、ノーラン監督らしいよく錬られた脚本になっています。
当然のことながら、難解な宇宙理論、相対性原理が当たり前に飛び交う、僕のような理系オンチにとっては、ついていけるかどうか苦戦必死の内容。
本作に製作総指揮兼化学コンサルタントとして、参加しているのがキップ・ソーン博士です。
この方は宇宙物理学の権威で、ノーベル賞まで取られている方。
少なくとも、現時点での最高峰の科学的知見が、本作をしっかりと支えることになります。
ちょうど1968年に製作されたスタンリー・キューブリック監督のSF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」の製作におけるアーサー・C・クラークの存在を思い出しました。
ノーラン監督も、この大傑作は相当に意識していたようです。

とにかく、一度見たくらいではなかなか理解できないのが、ノーラン監督の作品の悩ましいところ。
このあたりが、多少は心得のある映画ファンのオタク心を非常にくすぐるようで、ネット上の映画レビュー系のサイトや、YouTube動画では、「俺は理解したぞ」系の、この作品の解説・感想モノがあふれていました。
映画観賞後、ネタ探しに、ザッとそんなところも軽くチェックしましたが、その感想を分析してみると・・

これをざっくり4タイプに分けましょう。

まず、タイプ1。科学的知見もあり、映画を見る目も超えている解説者レベルの人。

およそこんな感じ。

映画を盛り上げる様々なアイデアに対する、キップ・ソーン博士の科学的知見からのアドバイスを充分に尊重しながら、科学的にも、映画的にも筋の通った映像を、エンターテイメントとして練り上げていったノーラン監督の手腕は、キューブリックにも匹敵するもので見事。
「スターウォーズ・プリクウェル・トリロジー」などは、登場人物以外は全編CGとわかる映像だけど、本作はSFでありながら、可能な限り、実物大の模型と、アイスランドなどの実写風景を使って撮影しているのでその本物感とリアリズムが、SF映画としても圧倒的迫力を生んでいる。

タイプ2。映画はそれほど見ないけど、宇宙物理学なら多少の蘊蓄は語れる人。
(こんな人も、たくさんこの作品は見ていそう)

有り得ない。有り得ない。
ブラック・ホールに吸い込まれないであの空間を抜け出すには、レインジャーはどれくらいのスピードで通過しなければいけないかわかってない。
計算したらそこにかかる重力は7Gだよ。普通は、3Gで首の骨折れるからね。
それからブラックホール内部のデータを、3次元の世界へモールス信号送るというけど、どれくらい時間かかるか計算してない。普通なら一生かけても終わらないでしょう。
映画としてはそこそこ面白いけど、科学的検証いまいち。

タイプ3。反対に科学的知識はあまりないけど、ざっくり映画は好きだという人。

この設定「宇宙戦艦ヤマト」だよねえ。あのワームホールも、ワープみたいなもんでしょ。それとも、ドラえもんの「どこでもドアか」。
あの親子の設定はもしかして「北の国から」だったりして。
「フィールド・オブ・ドリームス」も入ってるなあ。
それにしても、やっぱりアメリカ人(イギリス人?)は、「愛」が好きなんだねえ。
難しいことわかんないけど、数値に表せないものでも、信じられるのはスゴイ。


タイプ4。普通の映画ファン。

なんだかよくわかんなかったけど、とにかく凄い。

とまあ、ざっとこんな感じでしょうか。

とにかく昔とは違って、今は本気で突っ込もうと思えば、何度でも映画は見返せるし、疑問に思ったことは、ネットで調べれば回答は転がっている時代です。
ですから作り手たちも、そこは手が抜けないところ。
これだけ、最先端の科学的知見に基づいて、映画が構成されている以上、論理的な破綻をしない上で、しかも映画的カタルシスも同時に成立させていくのは相当難しそう。
それを無難にやってのけるこの監督は、只者ではなさそう。

僕などは、映画は面白ければ、多少の論理破綻は大目に見ましょうというスタンスで映画を見てしまいますし、映画を恣意的に難解にすることで、その評価を押し上げることに成功した「2001年宇宙の旅」でのスタンリー・キューブリックの手口もわかっているので、本作において、最大限科学的考証に沿った上で、映画としてのわかりやすさとカタルシスを両立させようとしたノーラン監督の姿勢には、素直に敬意を評します。
キューブリック監督は、「2001年〜」のラストで、あのスター・チャイルドを登場させて、映画を哲学にしてしまいましたが、ノーラン監督は、最終的に誰もが理解できる家族愛にドラマを着地させて、あくまでもエンターテイメントに徹してくれたという点では、個人的には好感を持てました。

僕も理系オンチのくせに、相対性理論におけるウラシマ効果や、ワームホールの存在、ブラックホールにおける特異点、四次元超立方体空間テサラクト、スイングバイによる宇宙航行(映画の中では、重力ターンと呼んでいました)などの宇宙物理学の知見に触れるのは結構好きで、わからないなりにも、アインシュタインの思考実験よろしく、解説書を読んでは頭の中でイメージを勝手に膨らませたりしていました。
しかしやはり、読むと見るでは大違い。映像の威力は絶大です。
それを専門に研究している学者たち以外には、到底理解できないであろう世界を、映画的にビジュアル化して、身近に感じさせてくれた、本作の功績は大きいでしょう。

1972年のアポロ17号を最後にして、人類は地球以外の惑星に「インターステラー」を送り出していません。
「はやぶさ」による小惑星探査計画で、宇宙に対する興味が一時的には盛り上がったりもしましたが、やはり、僕が子供の頃に歓喜したあのアポロ11号の月面着陸のように、人間が他の天体に行くというインパクトにはかないません。。
莫大な予算がかかる宇宙開発ですから、当面は惑星移住をするまでの緊急の危機はない地球においては、これがビジネス・レベルで採算が取れるようにでもならない限り、どの国もそうそう手を出せるものではありません。
しかし、やはり宇宙は、知的好奇心の宝庫。
できれば生きているうちに、どこかの国が火星着陸を実現させてくれることを願いつつ、この宇宙へのワクワク感は、今のところは映画で満足させるしかなさそうです。

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