羨ましかったんだ

僕はずっと羨ましかったんだ。
普通の人達が、羨ましかった。隣りの芝が青い程度ではない。単に羨ましかったんだ。
普通の人達が上澄みであることをその頃は知らなかったけど、上澄みを常日頃からずっと目の前で見させられて何も思わない人間なんていないだろう。
俺はいわゆる弱者男性だった。生きている価値なんて誰にも認められなかった。

よくあることさ。親がマニュピレーターで毒親だってことも。
よくあることさ。転勤族の子供だってことも。
よくあることさ。難病持ちってことも。
よくあることさ。不良達に日常的にリンチされることも。
よくあることさ。女からセクハラやレイプされることも。騙されることも。被害を透明化されることも。
よくあることさ。金がなくて困ることも。
よくあることさ。オナニーに依存してしまうことも。
よくあることさ。不眠症になることも。

今の世の中よくあることじゃないか。
ただなんでそんなしんどい人達が上澄み達の苦労も知らないで楽しそうな姿を目の前で見させられて羨ましく思わないわけないじゃないか。
でも羨ましく思えるわけないじゃないか。
だから俺はその時俺は特別な存在だと思うようにした。この不運は何か意味があって起こっていると。
そういう物語を自分の中で作った。

でもそれは間違いだ。不幸と成功にはなんの因果もない。不幸な人は不幸な人。成功する人は単に運良く成功しただけの人。残酷だけどぼくは運悪くいくつかの不幸を被り、運悪く成功しなかった人。

でも、ただ羨ましかったことが認めたく無かっただけなんだ。羨ましいことを認めてしまうともう僕は環境に耐えきれそうになかったから。

これで物語は終わりだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?